第6話 最強の俺、匠が仲間になる
「いかがでしょうか。この王侯貴族が寝るようなサイズのベッド! 細部までこだわったふかふかの寝やすいマットレスに、細やかな装飾。最高ではないですか!!」
俺が下層での食料調達から帰ってくると、興奮気味に植物系モンスターが家具の出来を語っていた。
ちなみに植物系モンスターは種の段階でモンスターなどに付着することで移動できるが、成熟しきってからは完全に自力で動けないため逃走の心配はない、ので油断して放置していたのだが、これは予想外だった。
なんと、植物系モンスターの狩場のあの部屋が大きいベッドで占領されていた。
いや、大きめのベッドがいいなぁとは言ったけど、こんなでかいとね?
だって、もともとあったベッドとテーブル、大きいベッドの上に乗っちゃってるしね?
「なあ、これって嫌がらせ?」
俺が眉間にしわを寄せながら、植物系モンスターに問いかける。
「そんなわけないじゃないですか! この木の色つや、いやあもう最高ですよね。この木の模様はあなた様の記憶にある、黒い森にある木の質感を再現させていただきまして……」
植物系モンスターがうっとりしながら、多少早口で自分の作品を語っている。今にもベッドに頬ずりしそうな勢いだ、あ、いや、今しだした。
その様子を見ていて、悪気はないんだろうなぁということはなんとなく理解する。まあ、それなら制裁はなしにするか。
ま、制裁はなしだが、裁断は必要だがな。
俺は、ベッドと植物系モンスターのつながっているところを大剣でざしゅっと断ち切る。
「いやああああ!」
「しょうがないだろ。つながったままにしとくわけにいかないし、静かにしてくれよ」
ちゃんと言語をしゃべれる分気持ち悪い叫び声ではないが、なんだかいたたまれない気分になってしまう。
「そうは言いますけどもね、痛いものは痛いんですよ。あなた様も体験してみればわかります。ええ、あと心の準備というものもいただきたいですし……」
しおしお言う植物系モンスターの言葉は取り合えず無視して、俺は楽園になるはずだった部屋の中を見渡す。狭い、狭苦しい。足の踏み場がベッドの上しかない。
目下の課題は、このせまっ苦しい部屋をどうするかということ。
そして俺のすべきことはもう、決まっている。
うん、ここならだれにも文句言われないし、今までの人生でさんざんやってきたことを
「すればいいだけだぁあああ!」
大剣をぶん回し、四方の壁を破壊する。
音を立てて崩れ落ちる壁。
地面に張り付いて呼吸が浅く速くなっている植物系モンスター。
広い空間。
そして俺に湧き上がってくる謎の高揚感。
あれ?
なんか、今までさんざんやる度に文句言われて、物やひどい言葉投げつけられて、自分自身でも嫌いだと思ってたけど。
「壁壊すのって気持ちいーーー!」
「は、そうでございますか。わたくしはてっきり殺されるのかと思ってひやひやしましたけどもね?」
実際に植物系モンスターからは汗のように水がたらたらと垂れていた。あの勢いでだらだら水が流れて枯れないといいけど。
でも俺はそんなことはまあまあどうでもよくて、広くなった空間と高揚感に酔いしれる。
「ほら、見て見ろよ植物系モンスター。大きいベッドには大きい空間。このベッドがいい感じに置かれるには、このくらいのスペースがちょうどいいってもんよ」
「確かに言われてみればそうでございますね、ええ。でもそうなると、もっといろいろな家具が欲しいですね。あなた様の意識に出てきたべっどてーぶる?なるものとかランプとか」
「お、いいな、そういうのも。俺、基本的にデザインセンス的なの全然ないから、いろいろ提案してくれるのって嬉しいな。ありがとな、植物系モンスター」
そしてあることに気付く。そろそろさすがに毎回フルで言うのもつらくなってきた頃合いだし、聞いとくか。
「……植物系モンスターって何度も呼ぶの呼びづらいな。お前、名前あんの?」
「そんなものありませんよ。なにせ、モンスターも含めて誰かと話すの生涯初めてですから」
「じゃあ、俺が名前つけていい?」
「構いませんよ」
俺は少しだけ悩んで、昔勇者の冒険録で読んだ部屋づくりのエキスパートのことを思い出す。
「お前の名前は今日からタクミな。なかなかいい名前なんじゃね?」
「ありがとうございます。けれど、一つだけお伝えしてもよいですか?」
「なんだよ」
どんないちゃもんをつけてくるのかと身構えたが、植物系モンスターから返ってきた言葉は予想外の物ものだった。
「判別しにくいかと思いますが、わたくし雌花なんです」
申し訳なくなった俺は、彼女の名前をタクミを語源に、クミにしたのであった。
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