第4話 最強の俺、疑われる

「いや、こんな縦穴があったとは驚きミャ。未熟な冒険者が落ちた先にルード君、キミがいてよかった。というわけかニャ?」


その日の夕方、俺は彼らパーティーを地上まで送り届けた後、マッピング専門の冒険者アスキーと再び中層の例のたてあなの調査に来ていた。冒険者組合に相談したら、危険なので早急に上層のマップに追加せねばという話になったのだ。

アスキーはそう言いながら、くりくりとした目で俺の方を見つめてきていた。


「いや、それほどでも。照れるなぁ」


その目に見つめられてテレテレしていると、猫人族のアスキーの尻尾で小突かれる。


「まさかとは思うけどこのたてあな、君が壊して作ったんじゃないかミャ?」


「ちょっと待ってくれよ。俺は人命救助したんだぞ」


「街の破壊王の称号は伊達ではないミャ、君ならダンジョンの壁の破壊なんて朝飯前」


そう言われて中層の床を破壊した件を思い出す。が、ただでさえ疑われているのに今言ったらこっちの危険な縦穴まで俺のせいにされそうだ。

静かにしとこ。


「……この縦穴は違う。上層から中層のこの辺りまでつながるなんて危険な縦穴、俺が意味もなく掘るわけないだろう?」


「意味があったら危険な縦穴でも掘るということミャ? そして、今、この楯安奈、とか言ったかニャ?」


アスキーの目がきらりと光る。

うん、そうだよな、マッピングのために中層まで一人で出向いたりするプロのアスキーの目にかかれば数日も誤魔化せまい。

俺は手を軽く上げて降参のポーズをする。


「悪かった、人命救助のために一か所穴開けた。けど、ここは本当に俺じゃない」


そんな俺を見て彼女はため息をつく。


「はぁ、わかったのミャ。そこもあとで調査に行っておいて……それにしても、原因不明。面倒だミャア」


「なんか変な魔物でも湧いてるとかじゃないといいけどな」


「魔物なんて怖いこといわないでニャ。その辺は、専門の冒険者に見てもらうミャ。あくまでボクの仕事はマッピング。地図のために空間情報を調べるのが仕事だミャ」


アスキーがしっぽをぴんと立てて、胸を張る。

彼女はこのマッピングの仕事を誇りに思っているのだ。数々の隠密スキルや空間把握スキルによって、危険な場所や迷宮のマッピングもこなしてきている。

強いだけの俺と違って彼女は様々な人の役に立ち、数多の危険を未然に防いでいるのだ。たいていの冒険者は彼女に足を向けて寝られない。


「さて、調査はこれで終了っと。ルード君、一緒に帰るミャ?」


目を覗き込んで言われて、俺はすーっと目を逸らす。


「あ、うーんと、俺、ちょっとまだやることあるんだよね」


そう言って吹けない口笛をひゅーっと鳴らす。

俺の言葉にアスキーはまた小さくため息つく。


「お願いだからダンジョンのマップをまた書き直さなきゃいけないようなこと、しないでミャ」


「ぎくっ」


ちょっとだけ心当たりがあって思わず動揺が行動に出てしまう。

怒り心頭のアスキーの表情に少しびくつきながら、俺はそーっとたずねる。


「それってマップのない下層とかであれば、ちょっとだけ、元の感じと変わっちゃっても大丈夫だったり?」


アスキーは肩をすくめる。


「下層なんて行く冒険者この国じゃ君ぐらいだし、マッピングの需要ないから構わないミャ。みゃー、元の素敵なダンジョンの地形変わっちゃうのはボク個人としては好きじゃニャいけど」


「了解。出来るだけ壊さないようにはするわ!」


そう言って手を振り、俺は下層への道に進んでいく。


「下層の強いモンスターでも倒すのかミャ~? ルード君も別に無敵じゃないんだから気をつけるんだニャ~」


「おう、わかってら!」


心配して叫びながら声をくれるアスキーにお礼を言いつつ、俺はルンルンの気持ちを抑えきれないでいた。


何しろ、マッピングの神様アスキー様の了解を得られた!

よっし、層大改造計画のはじまりはじまりだ!!

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