第3話 最強の俺、オアシスを討伐する
「いいかよく聞け、中層以降のオアシスの大半は、幻影を使う植物系モンスターの狩場になってる。基本的に安全だと確認され、マップに記載されてる場所以外は絶対に立ち入っちゃいけないんだ」
「そんな、じゃあ二人は……」
後ろで少年が息をのむのが聞こえる。
「わからない。とにかく道案内をしてくれ」
震える少年の言葉に従って、ダンジョンの中を進んでいく。
「もうすぐです」
少年のその言葉の直後、植物系モンスターが獲物を誘うために使う特有の甘い香りが敏感な俺の鼻に届いてきていた。
残念ながら大当たりだ。
けれど、少年と別れた時間、ここまでの距離から考えるとまだ間に合うかもしれない。
「残念ながら、お前の仲間が逃げ込んだのは奴らの狩場だ。いいかよく聞け、お前はここでパーティーメンバーの名前を呼び続けろ。少しでも幻惑から解かれるように。俺は中に入ってここのボスを倒す」
「でも……」
ここに来て少年の目には迷いが浮かんでいた。
こんな少年でも、命をかけてここに潜っている以上冒険者の矜持というものを持ち合わせているらしい。見ず知らずの人に命懸けで助けてもらっていいのかという思いがその目から伝わってきた。
俺はカバンをおろし少年の頭にぽん、と手を乗せる。
「大丈夫、俺、強いから」
にっと笑って、息を大きく吸い込み止めてから部屋の中に飛び込む。
部屋の中に入ると、かすかにピンク色の霧のようなものが見える。判断は正解だった。どうやらこの部屋の主は中層にあるまじき力を持っているらしい。この霧を吸い込めば、並の冒険者ならたちまち精神異常をきたす。俺ですら思考能力の低下は避けられない。
目を素早く動かす。冒険者の休憩のためのいくつかのベッドと薬類の瓶の入った棚、椅子、テーブル……その陰に、青いローブの端。
『そこかっ!』
大剣を振り回すと、壁にあるまじき手ごたえ。
植物のように柔らかいそれは、醜い叫び声をあげる。
「キエエエエエ」
『なるほど、部屋も体の一部ってわけね』
ダメージがあることを確認した俺は、朝の鬱憤晴らしもかねて、部屋に擬態した植物モンスターをめっためたに切り裂いていく。
するとたまりかねたのか、モンスターは擬態を解除してその姿を現す。
たくさんの大きな根を持ったでかい花のモンスター。その触手にも見える根っこには、少年の仲間と思しき二人が絡まっていた。
『悪いけど一瞬で終わらせてもらうよ』
植物系モンスターに限らず、モンスターの心臓は体の中にあるコアだ。
中心感知で、モンスターのコアを確認。
俺は一刀両断で、そのコアを破壊する。
「グウウエエエエエエ」
耳に響く不快な叫び声をあげて、植物系モンスターは一気に枯れていった。
支えられていた根が枯れてどさりと落ちそうになっていた二人を抱きとめて、俺は外に出る。
この間、1分強。動きながら息を止めるのには少し骨が折れた。
「ふはーー」
部屋を出て二人を下ろしながら、綺麗な空気を吸う。
「二人とも、大丈夫?」
少年は仲間に駆け寄っていた。少年が外から必死に声をかけ続けていた効果もあったのだろう。彼が揺り動かすと、二人はかすかに目を開けた。目も血走っていない様子。この感じだと酷い後遺症はなさそうだ。
魔法の杖を持った青ローブの少女の方が被害が軽かったようで、か細い声を出す。
「生きて、る……わたしたち、どうなって?」
「オアシスが敵だったんだ。この人が助けてくれたんだよ」
その言葉を聞いて、少女は泣き出す。
「あなたを置いていった罰があったたんだわ……でも、みんな生き残れた、よかった……」
せき込みながらそう言う、もう一人の黒髪の弓使いの少女も微笑んでいる。
皆、大丈夫そうでよかった。
仲間たちだけで少し話をさせてあげたくて、俺は席を外し、植物系モンスターの狩場の中に戻る。
そこで俺は、驚くべき光景を目にした。
これは、これは使えるのでは……!
現金なもので、その情報によって俺のテンションは彼らを無事助けたことよりも上がってしまった。
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