第2話 最強の俺、人助けをする
「ボーア、ボア、ボーア、ボアボア♪」
鼻歌を交じりに口ずさみ、子供の重さほどある大剣を振り回しながら俺はダンジョン内を闊歩していく。
もうすでにダンジョンは中層に差し掛かってきた。が、この層のモンスターも俺の敵ではない。慎重なモンスターはレベル差を察してそもそも襲い掛かってすら来ないが、不用意な奴は俺の音に引き寄せられて振り回している大剣の餌食になる。
ぐしゃり。
コウモリ系のモンスターが目の前の地面にへたりと落ちた。
「気を付けないお前が悪いんだぞ」
ご愁傷様と心の中で小さく手を合わせてから、先へ進む。
たまに俺の剣との衝突事故に遭ったモンスターのうち美味な奴については、簡単にさばいて血抜きしてカバンの中へ。
それ以外は特に足を止めることなく、俺は順調に下層に向けて足を進めていた。
「下層か、下層か、かっそかっそ♪」
「誰か、助けて!」
自分の歌にかき消されてしまいそうな小さな叫び声が遠くから俺の耳に届いた。
音を聞くべく、歌をやめる。
ダンジョン内は静かで耳がきーんと痛くなりそうだ。
痛みに顔をしかめながらも、俺は耳を澄ます。
『下へ10、そして十二時の方向に距離300。こっちだな』
走り出す。
ダンジョンは本来恐ろしい場所だ。
生まれたときから怪力で馬鹿強かった俺だから先ほどから呑気にしていたが、冒険者のうちの90%は、中層を目にすることなく命を落とすか、致命的な怪我で冒険者家業を引退する。ただし、残りの10%のうちの一握りは、富と名声を手にする。
甘くない、けれど少しだけ夢のある仕事。
強いパーティ、冒険者でも、本当にちょっとした歯車のずれで壊滅するのがここ中層だ。
そんな彼らは、国の傭兵として戦地へ赴くこともある。
つまり兵力で、国の宝だ。
戦争をしている現状じゃ特に貴重。
この国が好きな俺は、それを守りたい。
その一心で、走る、走る……!
だが、肝心の下方へ降りる階段も縦穴も見つからない。
中層のマップを覚えていないことが悔やまれた。
敵の足音は複数。
盾役のガード音が聞こえる。けれど苦痛に耐え忍んだその声、そして呼吸音からして限界そうだ。
俺は心を決め、自分の立っていた足場を突き崩す。
「うっりゃあああ」
真下に居た敵を一匹潰しながら、盾役の前に躍り出る。
確認、敵、オオカミ系モンスター12匹。
「秘技、風月刃」
大剣から三日月型の風の刃が飛び、敵を真っ二つに切断する。
…11匹撃破、討伐完了。
「大丈夫か?」
振り返ってみると、そこには大きな盾を持った少年が一人。
ぷるぷると震えている。
その姿はどう見ても、熟練の冒険者には見えない。
どうしてこんなところに迷い込んだんだろうと思いながら手を伸ばすと、呆然としていたその子ははっとして声を出す。
「助けてくれてありがとうございます。お強いんですね」
「まあ、それだけが取り柄だからな」
そう答えて周囲を見渡す。
なんだろうかこの違和感。
盾を持った少年が一人。
ん、一人?
盾役が一人でダンジョンに来るか普通。
「なあ、お前ひとりでここに来たのか?」
「いえ、仲間と一緒でした。三人で上層を探索中、あなに落ちてしまって……でも大丈夫です。二人は逃がせました! 上にのぼる階段を探す途中で見つけたオアシスにいるはずです」
その子の笑顔とは裏腹に、俺の顔からはサーっと血の気が引く。
上層専門の冒険者は知らない知識だ。
上では冒険者用に整備されたオアシスは安全地帯だが、中層以降のそれには恐ろしいモノが混じる。
「まずい……おい、捕まってろよ」
俺は、小柄な少年をひょいっと自分のカバンの上に乗せると、全速力で走り出す。
……取り込まれたらまずいことになる、俺でも連れ戻せないかもしれない。
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