地獄の沙汰の住宅の内見

九兆

内見:賃貸物件を実際に見学すること

■■


「さあさあ! これから素敵な地獄ライフを過ごす為にも! 是非是非ビピッときたお部屋をお選びください!」

 死んだのに生活ライフも何も無いだろう。

 そう思ったけれども、俺は何も言わず部屋の内装を眺めていた。

 ヘルアパート『罪累つみかさね』。

 部屋番号444号室。

 あちらの世界で紹介したら確実にクレーム間違いなしの禍々しい属性を過積載した物件であるが、中身は至って普通の1LDKだった。

 トイレと浴室はセット。バルコニーからは針山の先端までよく見える景観付き。

「如何でしょうか?」

「内装は良いんだけど番号が気に入らないから、似たような色と配置で4が付かない部屋ってない?」


 生前の俺は罪を犯した為、当然のように地獄に墜ちた。

 金に困り、浮気していた彼女のモノを盗んで売って、バレた後に逆ギレしてうっかり殺すという言い訳のつけようがない罪科のバリューセット。

 因果応報と言わんばかりに事故に遭い即死、気がついたら血の池の上を通る長き木橋を歩いて、そして三途の川に流されるかのように手続きを終えて、案内人により住宅選びを余儀なくされた。

 地獄の案内人。

 と、まあ字面じづらだけ見れば角の生えた赤鬼だったり、フードを被った骸骨のような姿を想像してしまう肩書きではあるが、今話しているその人は家電量販店のフロアガイドのお姉さんみたいな姿をしていた。

「すいません、住む部屋を選ぶってどんな基準で選んだらいいんですか?」

 そもそも地獄に墜ちた者に家が用意されるなんてことは、生前思いもしなかったし、なんならそんな話は一切聞いた覚えは無い。

 住宅選びと同じで、何事も実際に見てみないと分からないものだ。出来れば分かりたくは無かったけれども。

「そうですねー、例えば勤務地との距離が出来る限り短いアパートがいいとか、仕事後にリラックス出来そうな部屋にしたいとか、そういう所を気にされるお客様が多いですねー」

「仕事あんの? 地獄なのに?」

「はい、アナタはプレス機を動かし天国の電力を賄う大切な仕事ごうもんが義務となっています。ちなみによく事故で大石に潰されたりすると評判の職場なので覚悟してくださいね☆」

「労災じゃん……」

 無論、死んだ後にまたすぐ死ねる訳でもないらしく、怪我をした場合は自宅待機となるらしい。

 福利厚生がしっかりしてるのかしてないのか分からない絶妙な待遇だった。


 とりあえず先々の仕事ごうもんから目を反らすかのように、俺はアパートの部屋を色々と見て回った。

 どの部屋も似たり寄ったりで、正直どこに住もうが同じような感じがした。

 色々考えた結果、ある事を思いついた。


「すいません、要望ってアリですか?」

「全然構いませんよー出来る限りであれば応えられます☆」


 地獄に堕ちた癖に注文を付けるという、鉄棍棒で殴られかねない程の厚かましいお願いをしようとしているにも関わらず、地獄の案内人のお姉さんはニコニコと笑っていた。

 クレーム対応とか平気でやれそう。流石地獄の案内人。


「出来れば一軒家に住みたいんだけど」

「ブブー! ダメでーす!」

 思いっきり手をクロスしてバッテンのポーズをして言われた。


「……なんで?」

「何故って、ルールで決まっているからです」

「ルール?」

「はい! ここは殺生と偸盗ちゅうとうと浮気をした人が住む『衆合しゅうごう地獄』です」

「うん、そうらしいね」

 なので、と案内人は前置いて。



「だから皆さんは『集合しゅうごう住宅』に住んで頂きます」

「………………」



 なるほど。

 どうやら部屋を選ぶのはさておいて、俺がまずすべきことは同じ住宅に入る住居人の把握のようだった。

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地獄の沙汰の住宅の内見 九兆 @kyu_tyou

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