クズ勇者の非日常
「この度は私の部下を助けて頂き有難うございます。この街の未来を担う前途ある若者の命は替えの効くものではありません。それを救って頂いたお二方には感謝の言葉もありません」
「顔を上げてください。私はただ、勇者として当然の行いをしたまでなのですから」
「噂に違わぬ高潔さ、心より感服致しました。僭越ながらエンデ一同を代表し、重ねて御礼を申し上げます。勇者シンクレア殿。勇者ガルド殿」
茶番やめろや。そんな言葉が喉を越して舌の上まで出てきたが、気合を入れて飲み込んだ。感情が表に出ないよう意識して無表情を作る。早く終わらねーかなこの会話。
宿の一室で目を覚ました俺は即座に首を斬って逃げようとしたが、傍らにいた姉上によって速やかに阻止されて流れるように冒険者ギルドに連れて行かれた。抵抗しようとしたが下半身を氷漬けにされて無理矢理に連行された。死ねばいいのに。
姉上が言うには、冒険者の命を救った勇者に対してギルドマスターが直々に礼をしたいと申し出たそうだ。そんな見え透いた建前を鵜呑みにするなよ。疑うことを知らなさすぎだろ。
おおかた、勇者の助けを必要としていないこの街になぜ都合よく勇者が現れたのかを探るための場を設けたかっただけだろう。面倒な話だ。俺はあくびを必死に噛み殺しながら置物に徹した。
「ところでお二方はどういった経緯でこの街に?」
ほれ見ろ。やっぱりそれが本題じゃねぇか。
和やかな世間話でも振るような口調だが、ルーブスの瞳の奥はこちらの考えを見透かさんと鈍く光っている。
俺が言うのもアレだが、こいつも大概目付きが悪いな。まぁ冒険者の元締めともなれば当然か。にこにこしてたら魔物どころか同僚からも舐められる。冒険者ってのは難儀な職業だよ全く。
「えーっと……偶然! そう、偶然なんです! たまたま森を歩いていたら困っている二人組を発見して、それで助けました!」
どんな怪物であろうと一瞬で葬り去るこの姉上の弱点を上げるとすれば、それは嘘がつけないことだ。
誰よりも善くあろうと常日頃から心掛け、他人の善性を心の底から信じる底抜けのお人好しは嘘をつくことを嫌う。やましい心がないなら嘘をつく必要なんてないとは姉上の言だ。
だが、俺が頼みさえすれば誤魔化すくらいはしてくれるらしい。信念よりも姉弟の絆を優先してくれるとは、嬉しくて涙が止まらないね。もう少し上手く誤魔化してくれれば涙も引っ込みそうなんだがな。
偶然て。言うに事欠いて偶然ってお前……。偶然森を歩いてる勇者がどこにいるっていうんだよ。少しは誤魔化す努力をしろや。こんなのもはや利敵行為だろ。
目は泳ぎ、声は上擦り、わたわたと両手を胸の前で振る姉上。
私は嘘をついていますと全身で主張する馬鹿な女を前に、ルーブスがほんの少し眉を顰めた。測りかねているのだろう。ここまで露骨だと逆に怪しいよな。分かるよ。だけどそれが素なんだ。どうしようもねぇな?
「偶然ですか……。いやはや、それは……運が良かったようで」
「ええ、ほんと、すごい偶然もあるものですよね! あはは……」
「……」
困ってて笑う。ま、国が持ち上げてる勇者様に正面切って『てめぇ嘘ついてんじゃねぇよ』とは言えないわな。こんなに歯切れの悪いルーブスを見るのは初めてだ。胸がすく思いで眺めていると、ルーブスが矛先を俺へと変えた。話にならないと理解したのだろう。
「ガルド殿も偶然こちらへいらしていたのですか? 数年前に魔王征伐へ向かわれて以来音沙汰がなく、不敬とは思いつつも国民の一人として御身の心配をしていたのですが」
おっとめんどくさい話題で攻めてきたな。やはりこいつとはあまり喋りたくない。
今はまだ冒険者エイトと勇者ガルドが同一人物であるということはバレていなさそうだが、下手を打つとこいつなら真相に辿り着きかねない。無難に茶を濁しておくか。
「未熟の身なんでね。修行も兼ねてふらっと立ち寄ったんだ。そしたらこいつがいたから同行することにした。それだけだ」
「そうでしたか。平和を一身に背負うあなた方には我々平民には想像もできないほどの苦労があるのでしょう。心中を察する無礼をお許しください」
「別に構わない」
何がお許しくださいだ気持ちわりぃ。心にもないおべっか使いやがって。
「では……ガルド殿が現場に居合わせたのも偶然、ということですかな?」
チッ。話が通じる俺から情報を取りに来たか。こういう抜け目のなさが嫌いなんだ。下手に出ているようでその実、喉笛を食い千切るのを虎視眈々と狙う獣のような思考。
ハラハラとした表情でやり取りを見守る姉上。相手への援護射撃やめろ。今から嘘をつくって言ってるようなもんじゃねぇか。
なんかもう面倒だな。俺は一から十まで嘘をつくことにした。
「勇者ってのは、本気で助けを求めてるやつのことがなんとなく分かるんだよ。今回の件はそれがうまいこと作用した結果だ」
「ほう……それは寡聞にして存じませんでした。いや、私が浅学なだけなのですがね。その話は王都では常識なのですか?」
「いや、秘密にしている。この話をした人間にも口外しないよう釘を刺している。こっちだって神じゃない。救える人間には限りがある。困ってたらいつ何時であっても勇者が駆け付けてくれるなんて風聞が広まったら……分かるだろ?」
「……なるほど。そういうことでしたら、この話は女神様の元まで持っていきましょう」
「助かる」
こうして圧をかけておけばそれ以上の追及はしにくいはずだ。いま話している相手は部下ではなく勇者。勇者の不興を買うということはすなわち国を敵に回すということ。つまらない威光もこういう時には役に立つ。
しかし……力技で追及を躱したのはいいが、怪しまれている立場なのは変わらない。姉上の露骨な態度から、隠したい何かがあったのだと勘繰られるのは必至。
そうなると、現場に居合わせた冒険者エイトは尋問の的になる可能性がある。また監視のために似たようなパーティーを組まされるのは御免だ。
どうするか。少し迷い、俺はルークを人身御供として差し出すことにした。
「それと……俺たちが現場に居合わせたのは完全な偶然では無いだろうな」
「ほう、その話は私が聞いても宜しい類の話ですかな?」
聞け聞け。そんでドツボにハマって勝手に勘違いしてくれ。
「ああ。あの少年……ルークだったか。あいつには素質がある。持っていた剣も、言っては何だが身の丈に合わないほどの業物だ。ツキを手繰り寄せる特別な力でも持ってるんだろう」
「特別な力、ですか……」
半信半疑といった表情でルーブスが呟いた。そりゃそうだ。全部でたらめだからな。こんなのは即興で練り上げた口から出まかせよ。
だが、勇者の言葉には説得力が宿る。神の使徒。死を超克した埒外の化け物。
常識で説明できない存在の言葉は、普通であれば一笑に付すような戯言を福音へと昇華させる。疑うという濾過機能を麻痺させ、それが至言であると錯覚させる。それはまるで悪魔の囁きのように。
俺は牙を剥いて笑った。
「運命だよ」
自分で言っておきながら、全く酷い詐欺もあったもんだと吹き出しそうになる。
滅びの運命を救った勇者がその言葉を口にする。そんなの信じる以外の選択肢が無いだろ。つくづく気に入らない言葉だ。
「…………なるほど。そういうことですか」
何がなるほどなのか。何がそういうことなのか。こんなに噛み合ってない会話ってのもなかなかないぜ? いいお笑い種だな。
ま、これで注目は逸れたはずだ。ルークとニュイはしばらく茨の道を歩むことになりそうだが、もとより勇者に憧れて踏み出した道だ。その程度は覚悟の上だろう。拾った命は地獄のような苦労で雪げ。俺はお前らが必死こいて足掻く様を酒のつまみにでもさせてもらう。
「……一つ、聞いてもよろしいですかな?」
「なんだ?」
「現場にはもう一人居たでしょう。彼についてはどうお考えですか?」
おいおい注目逸れてねぇじゃねぇか。何がそんなに気になるんだよ。英雄の卵が発掘されたんだからそっちをかまってやれよ。
まあいい。これは見方を変えればいい機会だ。俺は不快を隠そうともしない表情で吐き捨てた。
「論外だな。拙い補助が使えるだけで、腕は並かそれ以下だ。向上心もない。あんなのを有望なルークの師に据えるな。才能を潰す気か?」
俺はこれでもかと俺のことを扱き下ろした。これでルーブスの警戒も薄まってくれるとありがたい。
姉上が珍妙な生き物を見るような目でこちらを見ている。やめろバカ。お前もう出てけよ。疑われたらどう責任取ってくれるんだ。
「これは手厳しい。しかし、あまり悪く言わないで頂きたいですな。聞けば、彼は命を張って仲間を生かそうとしたとのことです。死の恐怖を前にして、なかなか出来ることではありません。その気骨は尊ばれるべきものです」
反吐が出そうだ。なんだこいつ、ほんとにルーブスか? 中身違くない?
命を張った。たしかに命を張ったさ。世界で一番安い命だからな。タダメシと天秤にかけて、タダメシが勝ったから命を捨てただけだ。
ルーブスの野郎は当然そんな事情は知らないとはいえ、さも美談であるかのように語られると肌が粟立つような感覚に陥る。収まりが悪ぃ。
なに気色悪い笑顔で頷いてんだバカ姉。お前わざとやってんのか? 疑われるからやめろや。
今すぐ【
「それはすまないな。詳しい事情は知らなかった」
「いえ。こちらとしても譲れない一線があるということをご理解いただければ幸いです」
舐められたら終わりの冒険者。その頭らしい態度だ。たとえ勇者であっても、外部の人間が身内を馬鹿にするのは許さないってか。別に誰が聞いてるってわけでもないだろうに、律儀なことだ。
こいつと話してると疲れる。
もう聞きたいことはないだろ? そう言外に示したところ、晴れて釈放の運びとなった。いくつもの粘着くような視線を浴びながら冒険者ギルドを後にする。
街に出たら視線の数が数倍に増えた。ギルドの前には人垣ができており、もはや通行すらも困難な状況だ。
この街の馬鹿どもは何かあるってぇとすぐ野次馬根性を発揮して寄り集まって騒ぎやがる。人様の迷惑考えろや。
「わぁ……すごい熱気」
「風よこせ。飛び越すぞ。このままだとトラブルになりそうだ」
「うん、そうだね」
姉上がスッと手を払う。発動した魔法が俺たち二人を空へと押し上げ、そのままグンと加速して大衆を置き去りにした。
周囲の景色がものすごい勢いで流れていく。体がぐちゃぐちゃになりそうな速度が出ているのに、息が詰まるどころか風を感じることもない。精密に過ぎる魔法操作。こういう端々で人外の業を見せつけるのやめてほしい。
飛び始めてから一分も経っていないというのに、エンデは既に地平の彼方に消えている。景色を眺めているうちにいくつもの街や村を飛び越して――いや、待て待て。行き過ぎだろ。
「おい! どこまで行く気だ!」
「んー? 王都に近況報告しに行くつもりだけど」
「待てって! 俺はまだエンデに用があるんだよ!」
俺が声をかけると、それまでの勢いが嘘のように消失した。不自然なくらいにビタっと停止し、身体が縫い付けられたように空に浮いている。足元が不安定で非常に心地が悪い。
「……そう言って、また逃げようとしてる?」
「その疑いの心を俺以外にも向けられるようになれよ」
「最近のガルはすぐ嘘をつくからね。いくら私でも、そろそろ騙されないよ」
俺は、じゃねぇ。人は、だ。
それが分からねぇうちはまだまだいくらでも騙しようはあるな。そんな内心を隠し、俺はため息を一つ吐き出してから言った。
「ちょっとした貸しがあるんでな。忘れられないうちに取り立ててくる」
▷
「だぁかぁらぁ! 上の立場の私に対してあの物言いはどうなのって話なのぉ! どういうわけよぉ! えぇ〜!?」
絡み酒かよこいつ。めんどくせぇ。
冒険者エイトに戻った俺は、貸しを踏み倒される前に即席パーティーの面々にメシをたかっていた。俺とルークの快気祝いということで黒ローブの奢りだ。
恩義やら後ろめたさやらを感じていたのか、狩り場とは一転してしおらしくなっていた黒ローブの弱みに付け込み、それなりのグレードの店でメシを食うことになったところまでは良かったのだが……。
「二人もそう思うでしょ? 何が『その位は飾りなのかー』よ! 鉄錆のくせにナマ言ってぇ……どう思う? ねぇ? ねぇ〜?」
「あはは……僕にはなんとも」
「メイさん、お水飲みましょう……お酒は預かりますから」
「やー!」
やーじゃねぇよ。アホみたいな下戸じゃねぇかこいつ。まだ二杯目でこれって……弱すぎだろ。コイツがそれなりの腕があるにもかかわらずソロでやってる理由がなんとなくわかった気がする。相手するのだるすぎるだろ。
酔いどれの相手をルークとニュイに押し付け、俺は若干引いた表情をしている店員を呼びつけて粛々と追加注文をした。度数の高い酒も一つ頼む。黒ローブは早めに潰す。この調子だと味わっている余裕がない。
「ちょっと聞いてんの〜! 人の話はしっかり聞く! 小さい頃に習わなかったの?」
酔いどれオヤジのようなしまらない赤ら顔で黒ローブが肩を組んできた。【
追加の酒を待っている時間も惜しい。俺は飲みかけの酒が入ったジョッキを黒ローブの口元に押し付けた。グビグビと喉を鳴らして飲み干す黒ローブ。いいぞ、早く潰れろ。
「ちょ、エイトさん!?」
「あの……それ以上は、その、まずいんじゃ……」
「ガキじゃないんだ。自分の限界くらい自分でわかるだろう。な?」
「ばぁかにしないれよ! そんなろあたりまえれしょ〜!」
よしよしいい感じに潰れてきたな。呂律がおかしくなってきているし、あと一杯ってところかな。
唸る飲んだくれを無視して揚げたてのポテトにかじりつく。そんな態度が気に食わなかったのか、黒ローブが俺の頭をワシャワシャと掻いたあとにポカポカと殴りつけてきた。やめろや。
「らいたいおかしいのよ! あのデカブツあいれにあんらがまともにたたかえるなんれー!」
「逃げ回ってただけだっての」
「てつさびー! てつさびー!」
耳を引っ張るんじゃねぇ! クソが。追加の酒はまだかよ。タチ悪すぎるだろコイツ。
鬱陶しい手をひっぱたいて払いのける。すると再び飽きもせずに頭をワシャワシャと掻いてきた。なんなんだよ。もう金置いて出てけよ。
俺はこの面倒くさい生物を二人に押し付けることにした。
「ちょっとトイレ行ってくる。あとは頼む」
「あ、僕も行きます」
「私も」
誰一人として譲りやしねぇ。二人の目は鋭く、絶対に逃さないと全力で訴えていた。ゴミどもめ。厄介事を他人に押し付けようとはふてぇやつらだ。恩を踏み倒すなんて人のやることじゃねぇぞ。
「先輩の顔は立てろよ。な?」
「後輩にかっこいいところ見せてくださいよ」
「さっき無理に飲ませた責任を、取るべきだと思います……」
駆け出しのペーペーが言いやがる。圧をかけて睨みつけるが、二人は微塵も動じない。ハッ。やるじゃねぇの?
ここから先は屈した方の負けだ。卓上でジリジリと視線の火花を散らす。そこでふと気付いた。俺の頭に手を置いた黒ローブが大人しくなっている。
死んだか? 疑問に思って振り返ると、酷く青ざめた顔をした黒ローブが何かをこらえるように呻いた。
「ぅ…………ぷ」
おい。おいおい。嘘だろ? お前、それは、違うだろ? それは駄目だろ。人として。
一瞬の空白。それが判断を遅らせた。我に返り、慌てて補助を掛ける。【
果たして、間に合わなかった。
俺に降り注いだ吐瀉物が、椅子を蹴立って勢いよく離脱したために飛散する。きったねぇなおい! ざけんなッ!
「エイトさん! 落ち着いてください! もう諦めて下さい!」
「やめて! こっちに来ないで!」
「これが落ち着いていられるかッ! てめぇらも道連れにしてやろうかッ!」
「お客様! 困りますお客様!! お客様ァ!!」
「れろれろれろ……」
▷
こんな仕打ちってある? それが率直な感想だ。
身を綺麗にした直後に店から追い出された俺達は、筋張った串焼きと安酒を手にして街角のベンチに腰を下ろしていた。もちろんあのバカにはもう酒を与えない。二度とこいつと一緒に卓を囲まないと心に誓った。
黒ローブは解毒魔法を掛けられてケロッと酔いを覚ました。どうやら酒を飲み始めたあたりからの記憶がないらしい。まぁ記憶があったらここにいないわな。俺なら恥ずかしくて首を掻き斬っている。
苛立ちを抑えつつ肉を食い千切る。こんなに美味くないタダメシは初めてだ。
「なんかごめんね? すごく久しぶりにお酒飲んだんだけど、私少し酒癖悪いらしくて……間を置いたから大丈夫だと思ったんだけど……」
「あ、いえ、僕はその……気にしてないので」
「少し……ですか」
狩り場で得た信頼はもはや影も形もない。むしろ少し他人行儀になっていた。ま、あの惨状を目の当たりにすれば当然だ。百年の恋だって冷めるだろうよ。
ルークとニュイがいたたまれなさを晴らすかのように酒を呷った。飲まなきゃやってられんわな。俺も酒を呷った。
「それにしても……またこうして四人で集まれるとは思わなかったわね。正直、今でも夢なんじゃないかと思ってるわ」
「俺は今でも夢であってほしいと思ってるよ」
いい話風に締めようとした黒ローブに腹が立ったので軽口を叩く。ゲロローブが。なに一人だけスッキリした顔をしてやがる。
俺の言葉を聞いてルークとニュイが吹き出す。笑ってるんじゃねぇぞチビども。いつか同じ目に遭わせてやる。
「な、なによ……私、そんなにおかしいセリフはいた!?」
「吐いたよ」
「ブッ!」
「んふっ!」
ぷるぷると肩を震わせて笑うチビ二人。
詳しいことはよく分かっていないが、馬鹿にされていることくらいは察したのだろう。顔を真っ赤にした黒ローブがキッと俺を睨んだ。
「さっきからアンタはなんなの! 少し見直したと思ったのに……そうやって斜に構えて……!」
「お? 命の恩人様に対してひでぇ言いようだ。一人で無茶しようとしたお前を俺が止めなかったら、お前はとっくに死んでたんだぞー? 控えたまえよ」
俺は串をクイクイと動かしながらニヤケ面で言った。
お手本のようなぐうの音を出した黒ローブが拳を握り込んでぷるぷると震えている。お前ら震えるの好きだな。流行ってんのか?
「アンタ、最初に私と会ったときとまるで態度が違うじゃない! あの卑屈な態度は演技だったのね!?」
「そう固いこと言うなよ。苦楽を共にした仲間じゃねぇか。なぁ?」
俺は思ってもいない戯言を吐き、ルークとニュイに同意を求めた。今更コイツに頭を下げる気になんてならんわ。下げた頭に何をかけられるか分かったもんじゃねぇ。
「まぁまぁ、落ち着きましょうよメイさん」
「そうですよ。苦楽をともにしたのは、まぁ事実なんですから」
チビ二人が俺の肩を持つなんて思っていなかったのだろう。目を見開いた黒ローブが固まる。ふん。あの惨状を経験したことで俺はチビ二人から同情される側になったんだよ。ゲロ被って出直してこい。
「っ……! 第一、アンタ嘘ついてたでしょ! あと五回しか魔法を使えないなんて言ってたくせに、それ以上使ってたし……ホントは実力を隠してるんでしょ! ルークくん、あなたは何か見てないの!?」
「えっ!? い……いや、僕ハ何も知らナいですヨ?」
お前も嘘ヘタクソかよ。絶対わざとだろそれ。お前ほんとそういうとこだぞ。
「ほんとに……? 嵐鬼相手にサシで粘れる鉄級なんて居るわけないわ!」
「こちとら逃げ足で食ってきたんでね」
じとりとした視線を寄越す黒ローブ。この短時間で見慣れてしまったそれを軽く流し串焼きにかぶりつく。
……そういや、【
「ほんとに何も知らないの? ルークくん?」
「僕は何モ見てませンし、聞いてマせんヨ?」
わざとだろ? なぁわざとなんだろ? そろそろキレるぞ。
目を泳がせるんじゃねぇ! 嘘ついてますっていう主張にしかなってねぇんだよ! ニュイにまで不審な目で見られてるじゃねぇか。ほんと、頼むぞお前……。
クソが。喋ったら死ぬっていうデメリットがあるから全力で誤魔化してくれると思ったが、こんなの逆効果にしかなってねーよ。俺はため息を吐いた。仕方なしに助け舟を出す。
「俺らは何もしてねぇよ。ほんとにたまたま居合わせた勇者が助けてくれたんだ。なぁ、チビ?」
他言無用ってのは何もだんまりを決め込めってわけじゃねぇ。適当でっち上げてうやむやにすりゃそれで済むんだよ。
俺の問いかけにルークが目を見開く。何が面白かったのか、馬鹿みたいな笑顔を浮かべたルークが声高に言った。
「はい! ……勇者様が、助けてくれました!」
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