第12話 彼氏と別れるまで待っててくれますか
【登場人物紹介】
ここまでのあらすじを踏まえた人物紹介です。
真鍋星矢(せいや)…社会人二年目。社員旅行で一日目、彼氏持ちの後輩、愛未と添い寝をする。その時の事を春花に相談していくうちに春花に対して特別な感情を持つようになっていった。また、春花のストーカー対策として恋人のフリをしている。
多田愛未(まなみ)…社会人一年目。人との距離感が近い、いわゆるあざと系女子。社員旅行の一年目で彼氏がいるにも関わらず、星矢と添い寝をしたが本心は全く分からない。口では遠距離恋愛中の彼氏の事が好きだと語っている。
中野春花(はるか)…社会人一年目。星矢が教育係として色々教えている後輩。ストーカーの被害にあっており、ストーカーに彼氏いると思わせて諦めてもらうために星矢と恋人のフリをしている関係でもある。
春日部博(ひろし)…星矢の良き相談相手。周りから好かれる愛されキャラであるが、恋愛関係になることはあまりない。しかし、二日目の夜、星矢の上司、内間と二人で海に行っていた。
内間君恵(きみえ)…星矢の上司。星矢にかなり厳しいため、星矢から少し怖がられている。普段はあまり社員旅行とかに参加するタイプではないが、今回の社員旅行には参加している。
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色々あった社員旅行もついに最終日となった。星矢の頭の中には昨日の夜、春花と過ごした時間が常にあった。一日目の夜に愛未とあったことはとにかく星矢の頭を悩ます事件であり、それを忘れるといった意味でも昨日の夜、春花と過ごした時間はとても楽しいものだったのだ。
愛未の事は考えたくなかったため、最終日は一言も話さないを徹底した。運良く帰りの車は別だったので食事の時だけ意図的に愛未から離れた。その間も星矢の頭の中には春花があった。
家に着いてからも春花の事ばかり考えてしまった。それが恋愛感情なのかどうかは分からなかったがとにかく春花と一緒にいたいと思った。本来なら食事に誘ったり、遊び誘ったりしてアプローチしていきたいところだったが、春花と恋人のフリをしているといった微妙な関係故にどうやってアプローチしていったらいいのか分からなかった。
………ここで食事誘っても変だよな。仮にも彼氏(仮)みたいな存在なわけだし。かといってここからお盆休み入るからしばらく会えないし。会社出勤することなければ恋人のフリもする必要ないしな………
そんな事を考えていると愛未からラインが届いた。
『星矢さん!私、星矢さんの眼鏡取ったままでした。』
…そうだ。BBQの時、眼鏡取られたんだった………
『あ、忘れてた。どうしよっか。これからお盆休み入っちゃうし』
正直、ラインで会話もしたくなかったが仕事以外の時は眼鏡で過ごしたかったため、早く返してほしい気持ちもあった。
『私、星矢さんのお家に届けに行きましょうか?』
愛未が家に来て眼鏡届けるだけで終わるわけがない。星矢はそう確信していた。
『いや、どっかで会える?俺、そこまで取りに行くよ』
そう返して結局、指定場所まで取りに行く事になった。愛未から眼鏡を返してもらってそのまま帰宅!
なわけがなかった。
「星矢さん、お腹空いちゃいました。どっかご飯行きません?」
これくらい星矢には想定内だった。ご飯くらいなら良いだろう。その後、何か変なことになりそうだったらその時、断ろう。そう決めてご飯だけ行く事になった。
時間が夜の19時くらいだったので少し夜景の綺麗なピザ屋に入った。本当はデートとかで来るような場所なんだろうけど、愛未にとってこれは普通の事なのだろう。社員旅行一日目の添い寝に比べたら大したことなかったし、もう慣れていた。
食事は普通に終わり帰るかと思いきや愛未は話したい事があると言い、公園のベンチに座った。
最初は愛未の初体験の話とか歴代元カレの話とかを延々とされた。ちなみに初体験は中学の時、放課後に教室でヤったのが初らしい。そんな話を笑顔で話す愛未はやはりみんなが言う通り、軽い人間なのか。
しかし、急に神妙な面持ちで言った。
「星矢さん。ごめんなさい。私、星矢さんに迷惑かけすぎてますよね」
いきなりの謝罪に驚いた。自分のしたことを反省するキャラじゃないと思っていたからだ。失礼だけど!
「え、どうした?急に謝罪なんて」
「いや、だって星矢さんに迷惑かけてばっかりじゃないですか。社員旅行の一日目の夜とか。今日だって」
「ま、まあそうかもだけど、そういうの気にしないタイプかと」
「これが本当の私なんです。私、本当は自分に自信ないんですよ。だからとにかく周りからの注目も集めたいし何らかの要素で凄い人だって思われたいんです。みんなの前では素の自分が出せなくて空回りしちゃうんです。素の自分を出したら自分が何者でもない普通の人になる気がして」
そう語る愛未はなんだか寂しそうな顔をしていた。
………なるほど。いつものあざとさも男からモテたいとかそういう欲求からきてるものなのか………
「だから調子乗りすぎちゃう時もあって。同性から嫌われるだろうなってのは分かってても異性から好かれる事を意識しちゃうというか。多分必要とされたいんだと思います。両親から放任されて育ったからなのかもしれませんが。人から好かれたい、必要とされたいって欲求が強いんだと思います」
「なるほど。初めて知った。あんま家庭環境とか話した事なかったもんね」
「はい。星矢さんとはそういう話する関係じゃなかったですもんね」
グサッときた。酔って腕にしがみついたり、添い寝をしても完全に心を開いてなかったというわけか。むしろ心を開ける人間なのか試していたのかも。そう思うと少し愛未に同情した。それと同時にもっと愛未の事が知りたくなった。
「もちろん今の彼氏の事は好きなんです。東京で良い関係になった異性がいても彼氏の事、好きでいる自信はあります。でも愛されたいって欲求は別です。だから男の人が好きになるようなことはしちゃう。それを受け入れてくれたのが今の彼氏なんです。でも遠距離になったことによって向こうの不安が高まっていったみたいで。最近は会社の飲み会とかも許してくれないので嘘ついて行ってます。正直、束縛が激しくて辛くなってきてます。でも今の彼氏と別れちゃったらこの先、こんな自分を好きに受け入れてくれる人なんて現れないんじゃないかなって」
なるほど。つまり、いつもあざとい事をしているのは好かれたいという承認欲求からで愛情自体は今の彼氏にある。でも束縛激しくて不満溜まった故に少し信用できる先輩と添い寝して紛らわそうとした。そういうことか。
星矢は愛未の行動の意図が初めて分かった気がした。もちろん共感はできないが、行動の意図は理解できた。理解できたら何となくスッキリしてきた。
………そうか。本当にこの子はみんなに心開いてなくて。普段は素の自分が出せなくて、つい偽って演じてしまって、、
でも俺の事を信用して打ち明けてくれたのか………
星矢はチョロい。だけど今の愛未に嘘はないだろう。そう確信できた。
「俺なら多分受け入れるよ。その気持ち、何となく分かるし」
「それ、告白ですか?」
「あ、そういうのじゃないんだけど、、俺でも受け入れるんだからこの先、受け入れてくれる人は見つかるよって話!」
「ありがとうございます。星矢さんが彼氏だったらよかったのに。大学時代、出会っていたら付き合っていたかも。」
星矢は凄くもどかしかった。自分に好意を寄せてくれてる、いや、少なくとも信用してくれてる後輩に彼氏がいて付き合う事ができないという事実に。
星矢の頭に好きな曲、Official髭男dismの『pretender』の歌詞が浮かぶ。
『もっと違う設定で。もっと違う関係で。出会える世界線選べたら良かった』
これほどまでに今の状況に刺さる歌詞があるだろうか。その時、今、隣にいる後輩を逃したくないという男の本能的なものが働いた。
「好きだよ愛未。」
他の女性にだったらこんな事をはっきり言える自信がない。星矢は奥手だった。でも何故か愛未には言えた。
「これは慰めじゃない。好きだよ愛未。」
どこが好きかと聞かれたら答えられる自信はない。だが、自分の事を信用して全てを打ち明けてくれたという事実が嬉しかった。
「もし私が彼氏と別れるとしたら。その時まで彼氏作らないで待っててくれますか?」
「もちろん。作らないよ」
愛未は泣いていた。そんな愛未を星矢は抱きしめた。
「お盆休み、帰省するので彼氏に久々に会います。そこで話し合って決めようと思います」
抱きしめられながら愛未はそう話した。
「わかった。どっちの決断したとしても俺は待ってるから!」
ついさっきまで愛未の本心が分からず、春花に心が揺れていた星矢。愛未の本心が分かった瞬間、告白してハグをするなんて、誰から見ても優柔不断な男に見えると思う。でも星矢は信じる事にした。
自分を信じて全部打ち明けてくれた愛未を。そして自分の今の気持ちを。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!感想や主人公が誰と結ばれるのか等、予想を応援コメントとかに書いてくれるととても嬉しいです。
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