第12話 中央連合到着
「気付かれましたかな?」
目が覚めると、鄙火が顔を覗き込んでいた。
「助かった……のか?」
「えぇ。ウラノスの方々の活躍で、水竜はあの通りです」
右を見やると、目を閉じ地に伏した水竜がいた。
「さすがは剣聖様だな」
「いや、私とて純粋な竜を狩るのには苦労する。まだ灯教の過激派を相手にしていた方が楽だな」
歩み寄ってきたデメトリオがそう口にする。灯教僧の鄙火がいるというのに、ずいぶんと無神経な物言いだな。
だが鄙火は表情一つ変えず、礼の言葉を口にしていた。俺も一旦は目をつむることにした。
「助かった。恩に着る。そもそも、『純粋な竜』とはどういう意味だ?」
「竜と人間の混血が竜人だ。各地に離散してはいるが、今回の和国のように弱った国があると見れば襲撃してくる蛮族だよ。竜人たちが崇める稀少種こそが、純粋な竜―いわゆるドラゴン―というわけだ」
「人間の血が混じっていない祖種というわけか」
「そうだ。見ての通りの巨体だし、人間の姿に変身もできるから厄介だ。さっさと五帝会議を開き、ドラゴンと竜人どもの狼藉を取り締まる条約を結んだほうがいい」
「そうだな。そのためにも、まずは中央連合を目指さねばならない、というわけか」
デメトリオは最初からそのつもりだったのだろう。確かに、和国に残り竜人を迎え撃つよりも、五帝会議の効力で行動を縛ったほうがいい。先を急がねば。
「お迎えに上がりました。剣聖どの。そして、和国のイズミ・カンゲンどの」
振り返ると、ローブに三角帽と、ルシュドと似た格好の集団がぞろぞろと歩み寄ってきていた。
「エリオナどのの使いの者か。しかし、あの御仁は部下を持たれぬはずでは?」
デメトリオが疑問を投げかける。
「そうですね、エリオナ様は部下を持たれません。私達が勝手に身の回りのお世話をさせて頂いているだけです」
魔導王エリオナ・アイレスフォード。相変わらず孤独を貫いているらしい。博秀様の話に時折名前が登場していたが、まだそんな有様なのか。
「転移の魔法陣を用意してあります。サルーテまで行きましょう」
用意がいいな。水竜討伐でこっちも疲れていたし、渡りに舟だろう。
俺達は迷いなく魔法陣へ飛び込んだ。
「まったく君らは余計なお世話が好きだね……あぁ、ようこそカンゲンどの。私がエリオナ・アイレスフォード。直接挨拶するのは初めてだよね? よろしく」
そう言って魔導王は手を差し伸べてくる。久しぶりに姿を目にしたが、すぐにエリオナだと分かった。
あたりを見回すと、まさしく中央連合の都市サルーテの街並みだった。
「はじめまして、和国将軍府に仕えておりました、
俺が丁寧に名乗りを上げると、エリオナは興味なさげに頷いた。
たしか今年で15の少女だったはずだ。なのになんだ? 暗闇と対峙しているかのような虚無を感じる。何も感じ取れない。
軽薄な笑みで真の感情を悟られないようにしているのか。あるいは、本当に感情が欠落しているのか。間近で言葉を交わして初めて、その異様な雰囲気に圧倒されていた。
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