第10話 水竜の本領

「しかし決定打にはなりますまい。閑厳どの、もう一度【矢踏舞】でもやりますか?」


 そうしたいところだが、アグニとの戦いでだいぶ体力を消耗したので無理だろう。


「いや、ここはデメトリオどのに任せよう」


 次の瞬間には、デメトリオの部下たちが飛び出していた。全員が同じ形状・大きさの剣で武装しており、確実に水竜の傷口を広げていく。実に統制の取れた動きだ。


 攻撃を弾く者、動きを牽制する者、実際に傷口に斬りつける者など、役割分担もしっかりしている。


 傷口しか狙わないのは少し残酷だが、今はそうも言っていられない。デメトリオが弱点を作り、全員でそこを攻める。王道の戦法だろう。


「人間ごときが。図に乗るな。【大海嘯】」


 水竜が唱えると、途端にルシュドが苦しみ始めた。


「どうした?」


「魔力による干渉……です」


 そうか。水竜なのだから水を操れるのは当然か。ルシュドが操作した水を支配下に置こうとしているのだろう。


「魔力差がありすぎます! 皆さん備えて!」


 ルシュドがそう叫ぶと同時に、周囲から水が押し寄せてきた。


 俺は具足を外し、泳げるよう準備する。


「閑厳どの! 私泳げないんですけど!」


 鄙火が珍しく情けない声を出す。


「仕方ない! 俺に掴まれ!」


 そう指示した途端、俺達は水に呑まれた。俺は鄙火を抱き寄せて水面を目指す。鄙火はぶくぶくと水を吐き苦しんでいる。もう少し息を止めていられないのか。


 辛うじて顔を出し、鄙火に息をさせる。だが、油断していた。水竜がこれだけの水を操れるのは、膨大な魔力を持つためだ。


 辺りはすでに高濃度の魔力が溢れており、俺の意識は遠のいていった。

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