第8話 渡河

「博秀様の最期について、何か知らないか?」


荷馬車に揺られながら、俺はデメトリオに尋ねる。


「知らんな。少なくとも、五帝会議の最中には何もなかった。突然博秀どのの身体が引き裂かれた。誰も触れていないにもかかわらず、な。決議の内容は秘匿されているから、これ以上は何も言えん」


「では、会議の前後に変わったことは?」


「それもない。主君の最期を知りたい気持ちは分かるが、我らも知りたいくらいなのだ。五帝の一角が不審な死を遂げたとあらば、私とて警戒するからな」


「そうか……」


 そもそも五帝の面々がどんな能力を持っているか分からない以上、推理のしようもない。仇を取れるか不安になってきた。


 五帝とはすなわち、


【魔導王】エリオナ・アイレスフォード

【剣聖】デメトリオ・ステファノプロス

【侍棟梁】扇ヶ谷博秀

【黒鬼】ニグロ

【竜王】ウルティゲルス


の五人だ。


 いずれも戦闘力の詳細は不明。だが戦闘力、権力、影響力ともに随一の者たちが集められている。だから、博秀様が簡単にやられるなどあり得ないのだ。


 いかに平和主義の博秀様とて、無抵抗でやられたとは考えにくい。騙し討ちあるいは不意討ちなど、卑怯な手で殺されたに決まっている。


 必ずや犯人を探し出して討ち取らねばならない。


「これからダイダル川を渡る。小舟だと些か酔うが、問題ないか?」


「問題ない」


「慣れています」


「酔い止めの魔術でなんとかします」


 俺と鄙火、ルシュドは三様の答えを返し、舟に乗り込んだ。


 だが次の瞬間、平穏だった水面は突如として揺らぎ始めた。


「これは……」


「大魚……というわけではなさそうですね」


 確かに。巨大魚や魚の大群というわけではなさそうだ。もっと禍々しい気配を感じる。


【アグニの仇、取らせてもらおうか】


 重低音の声が響く。これは、竜のものだ。


「全員、河岸へ引き返せ!」


 デメトリオが指示したときには、もう遅かった。


 水底から現れた竜の鱗で小舟は大破し、俺たちは川に放り出された。

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