第4話 剣聖デメトリオ
「それは回収させてもらおう」
低く響く嗄れ声が聞こえる。振り返ると、黒衣の男が立っていた。見るものを威圧する鋭い眼光と、巌のような存在感。場の空気が一変したので、誰だかすぐに分かった。
「【剣聖】デメトリオ……なぜここに?」
見知った顔なので分かる。この老剣士は、紛うことなき五帝の一角。大傭兵団【ウラノス】を従える歴戦の戦士だ。五帝会議には、護衛として途中まで随行することもあったので分かる。
「生きていたか、若造。博秀殿が亡くなられて傷心のこととは思うが、どうか気を落とさぬよう」
そう言ってデメトリオは印璽に手を伸ばす。
「これは渡さん」
俺が手を引っ込めると、デメトリオは意外そうな顔をした。
「なぜだ? 五帝印は五帝の資格のある者にしか所持は許されない。いかに五帝に仕える者とて、例外ではない」
「博秀様を殺したのは貴様か?」
機を見計らったかのような来訪と、強引な要求。そんな態度を受け、俺は思わずそう訊いていた。
「唐突に何を言う? 私が罪なき者を斬るはずがない。言いがかりはそのくらいにしておけ」
僅かに怒りを滲ませ、デメトリオが諌める。背後に控える部下らしき剣士たちからは、すさまじい殺気が感じられる。
下手なことを言えば俺を斬り捨てる構えなのだろう。
竜人に攻め滅ぼされた国の戦士など、殺しても問題ないということか。
「悪いが、亡き主君の仇が判明するまで、これは渡せない。五帝の誰が悪用しようとしているか分からんからな」
「我らを疑っているのか?」
「博秀様は五帝会議中に重傷を負われた。貴様らの中に犯人がいると考えるのは当然だろう」
五帝会議には護衛すら入ることは許されない。他の四人の五帝のうち誰かが、博秀様を殺したとしか考えられない。
それにしても卑怯なことだ。五帝会議の行われる特殊な結界内では魔力が使えず、武器も持ち込めない。何らかの不正を働いて博秀様を殺したに違いない。
「確かにそう考えるのも無理はない。だがお前も博秀殿の遺体を見たはずだ。通常の攻撃ではあのような傷はできない」
確かにそうではある。まるで体内から生えた樹木の枝によって引き裂かれたかのような、あの痛ましい傷は、普通にできるはずがない。
「五帝印は、然るべき継承者が決まるまで、私が預かる。おそらく和国の代表が決まれば、その者に譲渡することとなるだろう。裁定を待たれよ」
デメトリオは冷静に諭してきた。
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