第3話 五帝印

 程なくして火はほぼ消え、ルシュドは水の結界を纏って城に突入していった。


 五帝印。


 その名の通り、五帝がそれぞれに所有する印鑑。五つ揃えば、世界を縛る国家間の盟約をも改定できる。失われればその座は永遠に失われる。また新たな意思決定機関を作るとなれば、相当な手間がかかるだろう。


 現在の【五帝】という制度も、創設までにはかなりの労苦が伴ったという。俺は興味がないが、回収したいという気持ちも分かる。


「あった! ありました!」


 翡翠製の直方体を手にしてルシュドが戻ってくる。間違いない。博秀様の五帝印だ。


「部外者だというのに、ずいぶんなご執心ぶりですなぁ」


 鄙火は可笑しそうに笑う。こいつにとっても、五帝印などどうでもいいのだろう。


「お前こそ、財宝を回収しなくていいのか?」


「なに、この宵戸城よいどじょうに残っていれば問題ないのです。後でゆっくり接収すればよいだけのこと」


 そんなことを話していると、ルシュドは俺のもとへ駆け寄り、五帝印を手渡してきた。


「亡き主君のご遺志、継げるのはあなただけです。どうか受け取ってください」


 これはまた厄介な代物を貰ってしまったな。俺は剣の腕に覚えがあるだけの能無しだ。博秀様のような人徳もなく、ましてや他の五帝と対等に話し合うだけの交渉力もない。


「俺には受け取る資格などない。主君たる博秀様を守れず、今もただ蛮勇を振るうだけの俺にはな」


「ですが、犯人を探したいのでしょう?」


 ルシュドは唐突に指摘してきた。こちらの目的などお見通しというわけか。


「五帝印を持っていれば、少なくとも他の五帝と対等に話し合うだけの権利は手に入る。そこで、真相を確かめるのです」


「良いご提案なのでは? 正直、手がかりが何も無いよりはマシかと」


 鄙火にもそう言われ、俺は五帝印を受け取る決心をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る