自由の国のアイリス ―合聖国戦記―

ICHINOSE

プロローグ

0ー1 開戦



 プロローグ 『魔導』の世紀



『臨時ニュースを申し上げます。こちらは合聖国自由放送、公共ラジオです。繰り返し――』

『本日明朝、合聖国USS連邦政府は帝政圏構成各国ケーニヒライヒへ宣戦を布告。――大統領は以下の声明を発表しました』


[聖暦]二〇世紀。

 それは『魔導』の世紀であった。

 

 ――魔導。

 有史以来、選ばれし者が生まれ持った超常の力。

 炎獄の具現。氷水の術式。雷霆の剣技。深緑の鳴動。それらの使い手を〈魔導師〉と呼ぶ。かつて文明を興し、祖国を守り、版図を拡げた、歴史に連なる英傑。

 だからこそ、才あるものは少年少女も戦場に赴く。



『――此度の帝政圏による侵略を、専制主義勝利の悪しき前例としてはなりません! ゆえに我々合聖国市民は、人類尊厳のために起たねばならないのです! 遥か大聖洋の海原を越え、なおも健在である王州友邦ユーロピアと手を携え、合聖国は自由と民主主義の擁護者となる! まさに、いまこの時こそ!』



 〈魔導師〉。

 精兵にして単騎完結の機動戦力。死線をくぐりぬけた手練れは、近代軍の申し子たる戦車や戦闘機すら歯牙にもかけない。

 そして、この戦争が国家のすべてを投げ打つ総力戦にあっては、彼らのたどる運命は決していた。


『――主よ‼ 我ら、自由の国を護り給え‼』



 人類は殺し合った。陸で。海で。空で。小銃や大砲や地雷で。軍艦で。航空機で。毒ガスや細菌で。考えうるすべての戦場と兵器、最新の科学技術、そして魔導で。戦友と別れを告げる一瞬と、家族が引き裂かれる光景を、それぞれの国家大義の名のもとに、絶え間なく積み上げた。

 五年も続いた大戦。気づけば人類は、煮えたぎる地獄の釜へと億を超える命をくべていた。

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