ワールドトリガー

皆さんこんにちは。


この文章は、私が大好きな漫画である『ワールドトリガー』(2024 年3月現在、ジャンプ S.Q. にて連載中) について、その魅力を一部でも良いのでお伝えすると共に、既読の方には共感していただける内容をお届けすることを目標として執筆しました。まあ私自身の執筆のモチベーションとしては、前回の『This コミュニケーション』にて、自分なりに好きな漫画の魅力について整理する作業が面白かったのでまたやりたかった、というのが一番ですが。そして、今回も一応おすすめ漫画紹介という体のため、なるべく本編の内容に立ち入らずに進めたいと思います。また、ここから先の話は漫画も脚本も素人である私個人の意見であり、的外れなことを言っていたとしても大目に見ていただけると幸いです。


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まず、本編について簡単に紹介したいと思います。


ある日、日本の地方都市、三門市に異世界からの侵略者が現れた。地球側の武器が通じず異世界の兵器にも為すすべがない中、今まで秘密裏に異世界との接触を続けてきた地球陣営の非公式組織『ボーダー』が突如、戦闘に介入し事態を沈静化させる。この出来事をきっかけに、ボーダーは異世界からの侵略者への撃退を目的として三門市に拠点を構えることになる。月日が経ち、三門市内の中学に通う主人公、三雲修は、ある目的のため戦闘員を希望してボーダーへ入隊するも、平凡な身体能力や異世界の武器への適性の無さから戦闘員としての素質が無いと判断され、戦闘前の支援などを行う非戦闘員として活動していた。しかし、自ら異世界人を名乗る転校生、空閑遊真と出会いによって三雲の運命は大きく変わっていく。物語の中で、三雲は空閑とチームを組み、同世代の戦闘員たちと切磋琢磨しながら目的達成のために進んでいく。


以上が本編の冒頭の概要であり、公式のキャッチコピーである「遅効性 SF」の名の通り、物語の序盤で語られた設定がその後の物語の展開にじわじわと効いてくるような作品となっています。


ここで、物語冒頭や「遅効性 SF」というキャッチコピーから、『ロングスパンで効いてくる SF 調の厳格な設定や背景』を期待する読み手が少なくないのではないでしょうか。確かに、キャッチコピー通りの物語展開が本作品の大きな魅力であることは間違いありません。しかし、私は、上記のような『読み手側の想定』によって作品の面白さが十分に伝わらないことがあるかもしれないと考えています。

例えば、上の概要を読んだ方や本編の冒頭を読んだ方でこう思われる方がいたかもしれません。

「いや、なんで非公式組織に異世界からの防衛の仕事を任せてんの? 自治体や国は何してんの?どうやって調整してんの?」

「なんで中学生が異世界人との戦闘に駆り出されてんの?」

どちらも素直な疑問だと思います。そして、私はこれらの疑問に対して納得のいく答えを持っていません。(本当は作中で細かく語られていたらごめんなさい。)何なら、ボーダー自体はそこまで大規模な組織ではなく、各方面との調整はほぼ担当の数人でやってそうな感じですし、戦闘に駆り出されている少年少女は主人公たちだけではなく、むしろ主要な戦闘要員はほとんどが大学生から中学生です。

そして、私は、もし『この辺の設定が合わない』ということを理由に読むのをやめた方がいるならば、とてももったいないことだと思います。(私の友人でもいました。)

なので、この文章ではあえてこう言おうと思います。


組織の内情とか、主要人物が若すぎるとか、

私は、この漫画の面白さの根幹は、設定や背景ではないと思います。

(もちろん、違う意見の方ももちろんいるとは思います。)


それでは、この漫画の面白さの根幹はどこなのか。

私が、この漫画の一番の魅力かつ最もすごいと思う点は、『多対多戦闘の展開の整合性とスマートさ』であると思っています。


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では、具体的に、私の言う『多対多戦闘の展開の整合性とスマートさ』とはどのようなものを指すのかについて話していきたいと思います。


一般に、漫画の戦闘というのは一対一が多いか思います。ゲームで例えるなら格闘ゲームが分かりやすいかと思います。王道のパターンですし、登場人物が各陣営に一人ずつなので思考や行動が把握しやすく、読者も展開を追うことも容易です。

この派生として、一対多や(数人)対(数人)なども良く見ます。ゲームで例えるなら協力型の狩猟ゲームや2チーム間で争う少人数の対戦ゲームになるかと思います。登場人物が増えるため、多様な戦闘を描くことができる一方で、一人一人の思考と行動が状況と整合しなければ、「なぜかずっと止まっている奴」や「なぜか味方・敵の思考が分かっている奴」など、読者という第三者の視点から見たときに不自然さが現れてしまうでしょう。こういった点で、一対多や(数人)対(数人)は、一対一の戦闘と比較して、展開を整合させることが非常に難しいと思われます。


しかし、ワールドトリガーで描かれるほとんどの戦闘は、さらに多くの人数が参加する多対多の戦闘であり、このとき、主に2パターンの戦闘が描かれます。

まず一つ目が、同じ戦場内で2つの陣営による一対一、一対多、(数人)対(数人)の戦闘が複数生じる場合です。他の漫画を例に出すならば、ハンター×ハンターのキメラアント編の最終決戦、ゲームに例えるなら、50 vs 50 のような大規模戦闘ゲームになるでしょうか(さすがに 100 人も登場人物はいませんが)。単純に複数の戦闘が同時に進行するだけでなく、戦闘が終わればそこに参加していた登場人物が別の場所に移動したり別の戦闘に加わるなど人物が流動的に動くため、戦況全体を整合させることは単純に同じ数の戦闘を独立して描くことよりも格段に難しくなります。

そして、上記より更に戦闘が複雑になるのが、二つ目として挙げる、3つ以上の陣営による(数人)対(数人)対(数人)... の戦闘です。ゲームに例えるなら、バトルロワイヤルですね(さすがに陣営数は3,4程度ですが)。この場合は、単純にもう一方の陣営を攻め倒せばよかった2陣営の場合と異なり、横槍の警戒やパワーバランスの調整など各陣営の思惑や思考もさらに複雑化します。そのうえで、各陣営に所属する登場人物たち個人の思考もあるわけですから、作者という一人の人間が整合した戦闘を描くことが可能なのかどうかすら正直疑問なレベルです。バトルロワイヤルのゲームのプレイヤー一人一人の思考を操って意味のある試合を展開させることを想像すると、その不可能さがより明瞭になるかもしれません。

しかし、実際ワールドトリガーでは、何度も、バトルロワイヤルに参加する各陣営各個人の思考や行動が展開と矛盾することなく描かれており、これは他の漫画では中々お目にかかれないすごいところだと私は思います。


しかし、ワールドトリガーの多対多の戦闘の素晴らしさは整合するのみに留まりません。それが、後半の『展開のスマートさ』です。


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改めて『展開のスマートさ』という字面だけを見ると自分でもよく分からないなと思いますが、要はワールドトリガーの戦闘の展開が洗練されているということを次に語っていきたいと思います。特にそう思う点は大きく分けて二つあります。


まず第一に、先程は『多対多の戦闘が整合する凄さ』を語りましたが、物語において、戦闘は整合するだけでいいのでしょうか。いや、そうではないでしょう。物語内の戦闘は、主人公・味方の挫折や成長、連携の重要性の確認、因縁の結末などなど、大きな役割を持つことがほとんどです。そして、戦闘が物語内での役割を果たすためには相応の展開を必要とします。つまり、戦闘を描く前から、決められた展開・決着が制限として課されることになります。

多対多の戦闘の展開に制限を付けながら整合させることが求められるのですから、その難易度は想像を絶するほどですが、戦闘のほとんどが多対多であるワールドトリガーにおいて、後の展開と関係ない戦闘というのは記憶の限り無いと思います。つまり、ワールドトリガー内の戦闘は、全てにきちんと役割が付与されるよう作者によって完全に制御されているのです。


そして、第二に、ワールドトリガーでは戦闘内で新たに加えられる設定が極めて少ないのです。

一般に、物語では『事前に開示されている設定だけでは、もうどうしようもなさそう』という状況があります。そういう時は、主人公の未知の力や新しい登場人物など、新たに開示された設定によって打開されることが間々あります。

一方で、ワールドトリガーでは、ほぼすべて事前に説明があった設定・設備・武器を使って戦闘が進みます。もちろん、新たな設定による打開は王道のアツい展開の一つです。しかし、整合性をしっかり合わせるようなワールドトリガーを含む、比較的理詰めで物事が進む作品では後出しのように見えることもあります。したがって、ワールドトリガーのような作品では、上記のような特徴によってより一層戦闘が洗練されているように感じるのではないかと思います。

そして、この特徴こそ、前もって説明された設定が後から効いてくるという、冒頭で述べたキャッチコピーの『遅効性 SF』に繋がると考えます。つまり、『遅効性 SF』というキャッチコピーは、今まで述べてきたような『ワールドトリガーにおける戦闘の魅力』が前提にあるのではないかな、と私は考えています。


以上の二点から、ワールドトリガーの戦闘は、単純に整合するだけでなく、洗練された、スマートなものに感じます。

そして、この戦闘のスマートさがワールドトリガーという作品全体に漂う知的な雰囲気を作り出しているのではないかと私は思います。


***


この文章全体を通じて述べてきたように、私にとって、ワールドトリガーの一番の魅力は『多対多戦闘』にあります。しかし、冒頭で述べた点にはいろいろな意見があるかと思います。


ただ、冒頭でも述べたように、概要や冒頭のイメージから、ワールドトリガーの一番面白いところを読まずして読むのをやめた方が、もしいれば、それはとてももったいないことだと思います。

そのような方の中で、私の文章を読んでみて、もう一回読んでみようと思えた方がいらっしゃれば、とてもうれしいです。


最後に、ワールドトリガーを未読の方、既読の方を含む、この文章を最後まで読んでいただいた方、改めてありがとうございました。

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