巫女装束の子と住宅の内見

一陽吉

内見のときを思い出して

 ふう。


 いいお湯。


 だけど、この湯船につかっていられるのも、日にち的にはそんなに長くないわね。


 引っ越すことは決まっているんだから。


 そして、今度はマンションじゃなくて木造の平屋。


 しかも郊外で、神社がそばにある森の中だもんね。


 お隣りを心配することはない。


 のびのびと執筆できる。


 でも、思い出すのはやっぱりその内見のときよね。


 まさか十五歳くらいの巫女装束の子に案内されるとは思わなかったもの。


 名前は美夜みよちゃん。


 黒髪をボブカットにしたスレンダーな体型で、美しい夜に生まれたからと名付けられただけのことはある美少女だったわ。


 性格も素直で明るいかんじの子だったし、家庭的な雰囲気もあったから、将来いいお嫁さんになるわね。


 それで内見なんだけど、最初に見たときの感想は普通って思った。


 築百年なんて書いてあったから、もっと昭和な雰囲気をイメージしてたけど、2LKで風呂、トイレもある。


 だって聞いた話だと、昔は風呂やトイレは離れになってたらしいからね。


 まあ、でもそれはあれかな。


 リフォームしたからかな。


 築百年といってもそのままじゃないんだろうね。


 とくにあそこは。


 だって内見してるとき、私が水道の蛇口は今風のレバー式にしたいわね、なんていうと美夜ちゃん、

「神様、お願いします!」

て、元気な声で言ったかと思うと一瞬で蛇口が変わってたからね。


 なんでもあの平屋には八百万やおよろずの神々と交信しやすいところなんだとか。


 つまり、いろんなものに神様が宿っていて願いがつうじやすいから、電気やガス、インターネットなんかの会社を通さないと得られないサービス以外は、すべて神様がまかなってくれるんだそうだ。


 たとえばお茶碗が割れたとしても、神様にお願いすれば元どおりになるし、布団を新しくしてと願えば新しくなるというわけね。


 考えようによっては最高だけど、そこには決まりがあって、毎朝、神棚にお供え物を上げて、毎夕、そのお供え物を下げなきゃならないのよね。


 巫女装束で。


 おろそかにするとばちが当たるらしいけど、私はそういうの苦にならないし、飽きもしないから問題ない。


 しかもそんな神がかった訳あり物件ということで価格が百万円。


 その金額で平屋の住宅が手に入るんだから、とってもお買い得よね。


 て。


 いけないいけない。


 そろそろお風呂からあがって、仕上げの原稿を書かなきゃ。


 ……。


 そういえば神様って男なのかしら?


 だったら、このナイスバディーで悩殺しちゃうのもいいかもね。

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