第24話
涼華との同棲生活が始まって一週間。
涼華との同棲生活はいたって良好だった。
朝起きてから寝るまで涼華と一緒にいられる。
その幸福感は半端なかった。
「そろそろ行くか?」
「そ、そうだね」
「大丈夫か?」
「う、うん」
昨日からずっとこの調子だ。
昨日からずっと涼華は泣いていた。
なぜ涼華が泣いているのかというと今日が卒業式で、涼華の尊敬する兎倉先輩が卒業してしまうからだ。
それだけ涼華にとって兎倉先輩の存在は大きいということなのだろう。
「ごめんね」
「謝るなよ。涼華の気持ちは分かるからな。泣きたい時は思いっきり泣けばいい。いくらでも慰めてやるから」
「ありがと。孝之が側にいてくれてよかった。一人だったらきっとしばらく立ち直れてなかったと思う」
どんなに辛いことがあっても、苦しいことがあっても、悲しいことがあっても、絶対に俺が涼華の側にいるつもりだ。
今みたいに手を握ってやるつもりだ。
例えこの先どんなことがあってもこの手は絶対に離さない。
「もう大丈夫。行こ」
「分かった」
俺たちは家を出てエレベーターに乗った。
「恵先輩の顔を見たら絶対に泣く自信があるから、家に帰ったらたくさん慰めてね」
「あぁ」
「頼りにしてるからね」
涼華は俺の肩に頭を乗せてきた。
そんな涼華の頭を俺は優しく撫でた。
☆☆☆
学校に到着するとすでに卒業式ムードが漂っていた。
「じゃあ、また後でな」
「うん」
涼華の教室の前で分かれると俺は一組の教室に向かった。
そういえば獅子丸は大丈夫だろうか?
兎倉先輩と付き合っている獅子丸のことも心配だった。
獅子丸も獅子丸で涙脆いからな。
俺も尊敬している先輩が卒業するってなると泣くだろうから気持ちは分かるけど。
そんなことを考えながら歩いていると、ちょうど階段から獅子丸が上がってきているのが見えた。
「獅子丸。おは」
「おはよう。孝之」
目を赤く腫らしているのを見るに泣いてたな。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫。やっぱり別れは悲しいね」
「そうだな。でも、乗り越えるしかねぇだろ。それに今生の別れってわけじゃねぇんだし、門出なんだから笑顔で送り出してやろうぜ」
「そうだね。孝之の言う通りだね」
獅子丸はバチンと自分の頬を叩いて笑顔を作った。
☆☆☆
卒業式が始まった。
俺たちは体育館に移動してきていて卒業生が入場してくるのを待っていた。
「卒業生入場」
教頭先生の声で体育館の入口が開き卒業生が入場してきた。
俺たちは椅子から立ち上がり卒業生に拍手を送る。
卒業生が全員入場し椅子の前につくと教頭先生が「ただいまより卒業式を開始いたします」と言った。
校歌斉唱から始まり、校長先生の挨拶、在校生代表挨拶が終わり、次は卒業生代表挨拶となった。
「卒業生代表挨拶。兎倉恵」
「はい」
名前を呼ばれた兎倉先輩はステージに上がった。
マイクの前に立った兎倉先輩は俺たちに微笑むと頭をペコっと下げ挨拶を始めた。
「皆さん。こんにちは。卒業生代表挨拶を務めさせていただきす兎倉恵です。この素晴らしき日に皆さんと卒業式を迎えることができて心から嬉しく思います」
それから兎倉先輩は卒業生と在校生に向けて言葉を贈り代表挨拶を終えステージを下りて自分の席に戻った。
兎倉先輩が自分の席に戻るまで拍手は鳴りやまなかった。
鳴りやまない拍手がどれだけ兎倉先輩が慕われているのかを表していた。
その後は滞りなく式は進み、卒業式は無事に終了した。
☆☆☆
「うわぁ~ん! 恵先輩~!」
卒業式が終わった後、俺と獅子丸、涼華と兎倉先輩の四人で兎倉先輩の送別会をするためにファミレスにやって来ていた。
涼華はファミレスに着くまで、ずっと兎倉先輩にべったりとくっついて泣いていた。
今も兎倉先輩の隣に座ってる涼華は腕に抱き着き泣いている。
「涼華ちゃん。泣かないでください。向こうに行ってもたまには会いに来ますから」
「ほ、本当ですか?」
「はい」
兎倉先輩は涼華のことをあやすように優しく頭を撫でていた。
その様子はまるで姉と妹だった。
兎倉先輩に頭を撫でられた涼華は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「涼華も落ち着いたことだし、そろそろ始めますか? 兎倉先輩の送別会」
「そうだね」
「うん」
各自ドリンクバーで飲み物を入れ、右手に持った。
「それじゃあ・・・・・・・」
「孝之。私に言わせて」
「分かった」
「恵先輩の卒業とこれからの益々の活躍を祈って乾杯!」
涼華の乾杯の音頭で俺たちはカツンとグラスをぶつけ合った。
しばらく兎倉先輩と会えなくなるということで涼華を中心に俺たちは日が暮れるまで談笑を楽しんだ。
☆☆☆
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