第12話

「おはよう。孝之」


 下駄箱で靴を履き替えていると後ろの方から獅子丸に声をかけられた。


「おー、おはよ……獅子……丸」

  

 振り返って獅子丸の方を向くと隣に兎倉先輩がいた。

 どうやら俺たちと同じように一緒に登校してきたみたいだな。

 

「兎倉先輩もおはようございます」

「虎谷さん。おはようございます」


 獅子丸が生徒会に入っていたから俺も兎倉先輩とは面識があった。

 てか、やっぱり二人が揃ってると凄まじいな。

 昨日も思ったけど、相変わらず兎倉先輩はオーラが凄い。

 腰まで伸びた黒髪は艶やかで、顔はアイドル並みに可愛く、制服の着こなしが完璧で、そしてなんといっても兎倉先輩と言ったらこの微笑だ。

 天使の微笑と言われている微笑みを兎倉先輩は浮かべていた。


「獅子王君。私は靴を履き替えてきますね」

「あ、はい」

 

 兎倉先輩が靴を履き替えに向かうと俺はニヤニヤと笑みを浮かべながら獅子丸に近づいた。


「一緒に登校してきたのか?」

「うん」

「そっかそっか。てことは、つまりそういうことだよな?」


 俺は獅子丸の肩に手を回した。


「孝之が何を言いたいのかは想像つくよ。うん。まぁ、そういうことだね」

「おー! マジか! ついに獅子丸にも彼女ができたかー! よかったな!」


 兎倉先輩と付き合えと昨日言ったけど、まさか本当に付き合うことになったとは。

 帰りに一緒に歩いてるところを見かけたけどいい雰囲気だったもんな。

 俺と涼華と違って獅子丸と兎倉先輩のカップルはお似合いだ。

 きっとしばらくはその話題で持ち切りだろうな。 

 

「ビックカップルの誕生だな」

「孝之はどうだったの? あの手紙の送り主は誰だった?」

「あ~それな。実は……」


 昨日の顛末を話そうとしたところで靴を履き替えた涼華がやって来た。


「孝之お待たせ~」

「ちょうど来たわ。昨日の手紙の送り主」

「え、猫峰さんがあの手紙の送り主なの?」

 

 獅子丸は涼華のことを見て驚いていた。


「驚きだよな。俺も昨日驚いた」

「ん? 何の話?」

「昨日俺に果たし状みたいな手紙を送ったのが涼華だったってこと」

「もぅ! それは忘れてって言ったじゃん!」

「無理だな。きっと死ぬまで覚えてるだろうな。あんな強烈なエピソード忘れるわけないだろ」


 果たし状みたいな手紙で呼び出されて体育館裏に行ってみれば、俺を呼び出したのは学年一の美少女で、しかもその学年一の微笑が俺のことを好きで付き合うことになったなんてエピソード記憶喪失にでもならない限り忘れるわけがない。


「こんなことならもっとちゃんとしたラブレターを送るんだった!」

「もう今更後悔しても遅いな」

「最悪! 一生孝之にいじられるじゃん!」

「一生いじるからそのつもりでな」

「孝之のいじわる!」

  

 涼華が俺の胸をポコポコと叩いてきた。


「二人ってそんなに仲良かったっけ?」

 

 イチャついている俺たちのことを見て獅子丸はなんとも言えない表情を浮かべていた。


「いや、昨日までは一回しか話したことが顔見知りだったな」

「けど、今は孝之は私の彼氏だよ!」

「ま、そういうことだな」

「そうなんだ……えっ!? そうなの!?」


 こんなに驚いている獅子丸は初めて見た。

 それほど獅子丸にも予想外のことだったんだろう。

 俺だってまさか涼華と付き合うことになるなんて思ってなかったし、ましてや彼女が出来るなんて思っていなかった。

 

「まぁな」

「そっか。孝之もおめでとう」

「ありがと。てか、二人は面識あるのか?」

「あるある。私、昼休憩とかに恵先輩に会うためによく生徒会室に行くから孝之よりは話したことあるよ~」

「そうなのか。なら、自己紹介する必要はないな」

「そうだね~。ていっても、お互い名前を知ってる程度だろうけど」

「そうですね」

「ま、名前知ってたら充分だろ。どうせこれからたくさん顔合わせることになるだろうしな」

 

 学校では基本的に獅子丸と行動しているから自然と顔をあわせることは増えていくだろう。

 

「声が聞こえると思ったら涼華さんじゃないですか」

「あ! 恵先輩だ! おはようございます~!」


 靴を履き替えて戻って来た兎倉先輩に涼華は駆け寄って行って抱き着いた。

 あまりにも自然に抱き着いたから、おそらくいつも抱き着いているのだろう。

 この二人が揃うとまさに絶景だな。

 それにしても、やっぱり信じられないよな。

 自分が学校で一、二を争う美少女と付き合うことになったなんて。

 兎倉先輩には申し訳ないけど、今なら涼華が学校で一番可愛いと思ってしまう。


「おはようございます。涼華ちゃん」

「恵先輩。もしかして、獅子王君と一緒に登校してきたんですか?」


 涼華がそう聞くと兎倉先輩は頰を少し赤くして「・・・・・・はい」と頷いた。


「いいですね〜! 無事にチョコレート渡して気持ちを伝えたんですね!」

「はい。涼華ちゃんはどうでした?」

「聞いちゃいます? 無事に私も恋が叶いました!」

「それはよかったですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます!」


 嬉しそうに笑い合っている二人の姿はまるで姉妹のようだった。


「あの笑顔守らないとな」

「そうだね」


 俺は嬉しそうに笑っている涼華のことを見て改めて決意した。


☆☆☆


 明日から15時、21時更新に変わります。

 よろしくお願いします。

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