第10話
「そういえば、獅子王君は生徒会長に立候補はされないのですか?」
「悩み中です。正直、あんまり自分には向いていない気がして」
「そんなことはないと思いますけどね。何事も経験ですよ。獅子王君。向いていないと思っていてもやってみると案外自分に向いていると気が付くことはたくさんありますからね」
「そういうもんなんですかね?」
「そういうものです。私も自分に生徒会長なんて向いていないと思っていましたから」
「そうなんですか?」
「えぇ」
「でも、二年連続で生徒会長をされてるじゃないですか」
「そうですね。一年生の時の私はまさか二年連続で生徒会長をするとは思ってもいなかったでしょうね」
「兎倉先輩はどうして生徒会長をやろうと思ったんですか?」
「私を生徒会に誘った先輩にやってみない?と言われてからです」
「そうなんですね。初めて知りました」
「誰にも言ってませんからね。なので、今度は私が獅子王君の背中を押します。来年の生徒会長に立候補しませんか?」
そう言って兎倉先輩は僕に手を差し出してきた。
何事も経験、か。
将来、父の会社を継ぐ事になったら必然的に人の上に立つことになる。
そうなった時のために生徒会長をして人の上に立つということはどういうことなのかを経験しておくのもいいかもしれない。
もちろん生徒会長になれるのは選挙で選ばれた人なので必ずしもなれるとは限らないけど、挑戦してみるのもいいかもしれない。
それに何より、兎倉先輩にそう言われてやめておきます、なんて言いたくなかった。
「分かりました。立候補してみます」
僕は兎倉先輩の手を取った。
すると、兎倉先輩は天使の微笑を僕に向けて「そうですか」と頷いた。
「頑張ってください。応援していますね。何か分からないことがあったらいつでも連絡してきてください。いつでも獅子王君の力になりますから」
「ありがとうございます」
いつまでも握っていては失礼だと思って、手を放そうとしたけど無理だった。
むしろ、さらに手をぎゅっと握られた。
「あの、少しだけでいいでの手を繋いでてもいいですか?」
「いいですけど、むしろいいんですか?」
辺りにはちらほらと帰宅中の生徒がいる。
兎倉先輩は言うまでもなく学校中の有名人だ。
そんな兎倉先輩と手を繋いでいるところなんて見られたら、それこそ恋人関係に誤解されるのではないだろうか?
「はい。校門まででいいので獅子王君と手を繋いで歩きたいです」
兎倉先輩は頬を赤く染めながら上目遣いで勇気を振り絞ったように言った。
校門まではもうそんなに距離もないし、兎倉先輩がそれを望んでいるのなら断る理由もなかった。
「分かりました。じゃあ、校門まで」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑った兎倉先輩と手を繋ぎながら校門に向かって歩いていく。
何だろうこの感覚。
心臓がドキドキと高鳴っていた。
気が付けばあっという間に校門に到着していた。
「もう着いてしまいましたね。ありがとうございました」
兎倉先輩は名残惜しそうな表情を浮かべて手を放した。
「それでは私はこれで。無事に獅子王君にチョコレートを渡すことができてよかったです」
校門のそばに黒色のリムジンが停まっていた。
そのリムジンは兎倉先輩の送迎車で、兎倉先輩はいつもリムジンの乗って学校に来て帰っている。
兎倉先輩は僕に小さく手を振るとリムジンに向かって歩き始めた。
このまま兎倉先輩を行かせてしまっていいのだろうか?
「兎倉先輩!」
僕は気が付けば兎倉先輩の名前を呼んでいた。
「あの、こんなこと言うのはどうかと思うのですが、僕に恋を教えてくれませんか?」
そして、そう言っていた。
そんな僕の言葉に兎倉先輩は一瞬戸惑いの表情を浮かべ、すぐに天使の微笑を浮かべた。
「恋を教えてほしいですか。それはまた難しいことを言いますね」
「す、すみません」
「私も恋については初心者ですので教えることはできないかもしれませんが、一緒に知っていくことはできると思います。それでもよければ、私と一緒に恋を知っていきませんか?」
「よ、よろしくお願いします」
今度は僕から兎倉先輩に手を差し出した。
兎倉先輩は僕の差し出した手を両手で包み込むと天使の微笑を浮かべたまま「こちらこそよろしくお願いします」と言った。
☆☆☆
次回更新は2章が書け終えてからになります。
今しばらくお待ちください。
ちなみにデート編!笑
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