第3話

 容姿完璧、性格完璧、家柄完璧の獅子丸が一体どんな女性を好きになるのか見届けるまでは死ねない。

 もしも校内から選ぶとしたら獅子丸と釣り合うのは同じ学年の猫峰涼香ねこみねすずかと三年生の兎倉恵とくらめぐみのどちらかだろう。

 猫峰涼香はいわゆるギャルで、二年生の間で一番人気のある女子だ。

 その人気は凄まじく男子の間ではファンクラブができるほどで、去年から人気だった猫峰はバレンタインデーに誰にチョコを渡すのかと話題になっていた。

 猫峰は結局誰かにチョコレートを渡したのだろうか? 

 誰かにチョコレートを渡したという話は聞かなかったから分からない。

 今年は誰かにあげるのだろうか?


 三年生の兎倉恵もまた猫峰と同じくらい人気者だった。

 天使様。 

 そんな形容詞がよく似合う可愛らしい容姿をしていた。

 実際、兎倉先輩は天使様と男子生徒の間で呼ばれている。

 そんな兎倉先輩にもファンクラブがあるらしく、兎倉先輩も兎倉先輩で去年の誰にチョコレートをあげるのかで話題になっていた。

 話題になるくらいだから、おそらく彼氏はいないのだろう。

 彼氏がいたらそんなことで話題になるわけがないからな。

 兎倉先輩は今年が高校生最後のバレンタインデーなわけだが、誰かにあげたりしないのだろうか?

 もし、誰かにあげるとしても俺じゃないことは確定なんだけどな。

 なぜなら兎倉先輩と接点なんて一つもないから。

 

「あ、そういえば、こんなものが俺の下駄箱に入ってたんだがどう思う?」


 俺は思い出したようにカバンから例の手紙を取り出して獅子丸に見せた。


「何これ? 果たし状?」

  

 獅子丸は手紙を見てしかめっ面を浮かべた。


「やっぱりそう思うよな?」

「うん」

「ラブレターだと思うか?」

「思わないけど……」

「だよな」


 あの文章を見たら普通はそう思うよな。

 だって、『放課後に体育館裏に来い』だもんな。

 

「行くの?」

「一応な。ほら、今日はバレンタインデーだろ? もしかしたら、その手紙はの差出人は女子で俺にチョコレートをくれるかもしれないだろ?」

「可能性低いと思うよ?」

「それは俺が女子からチョコレートを貰えないって意味か?」

「いや、そうじゃないけど……もし、違ったらどうするの?」

「まぁ、その時はその時だな」

「僕もついて行くよ、と言いたいところだけど、僕も放課後に呼び出されてるんだよね」

「体育館裏にか?」

「いや、僕は生徒会室」

「生徒会室。誰からだ?」

「兎倉先輩」

「マジか?」

「うん」

「よし、獅子丸。兎倉先輩と付き合え」

「え? 僕が兎倉先輩と?」

「そうだ。放課後に呼び出されたってことはチョコレート貰いに行くんだろ? てことは、どう考えても本命だろ」

「どうだろう? 兎倉先輩が誰かにチョコレートを渡したって話は聞いたことないし、きっと別の用事だよ」

「なわけあるか。だったら今日じゃなくてもいいだろ。わざわざ今日呼び出すってことはそういうことだろ」

「そう、かもね」

「獅子丸は兎倉先輩のことどう思ってるんだ?」

「う~ん。まぁ、好きではあるかな。良い人だし、生徒会でもお世話になったしね」

「じゃあ、やっぱり兎倉先輩と付き合え。そしたらチョコレート問題も解決だろ」

「そうだね。少し考えてみるよ」

 

 獅子丸なら十分にありえることだ。

 生徒会で一緒に活動していたし、兎倉先輩が獅子丸に惚れていたとしてもおかしくはない。


「そろそろ朝のホームルームが始まるみたいだね。席に戻るよ」


 キーンコーンカーンコーン。

 朝のホームルームを知らせるチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入って来た。

 担任はクラスメイトが全員席に着いたのを確認すると、朝のホームルームを始めた。


☆☆☆


 そして、チョコレートを一つも貰えないまま放課後となった。


「じゃあ、また後でどうなったか報告し合おうな」

「分かった」


 獅子丸と下駄箱のところで別れた俺は靴に履き替えて体育館裏に向かった。

 さて、俺を待っているのは男子か女子か。

 体育館の前に到着した。

 放課後なので体育館の中では部活動を始める準備をバレー部とバスケ部がしていた。

 俺は体育館裏に向かい曲がり角から少し顔を出して誰が待っているのかを確認した。

 しかし、そこにはまだ手紙の差出人の姿はなかった。


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