第2話
「今年は何個貰うんだろうな」
去年はたしか八十個以上貰っていた。
俺が協力しても全てのチョコレートを食べ切るのに数ヶ月はかかった。
貰った後でチョコレートを捨ててもバレることはないのにちゃんと最後の一つまで残さずに食べ切るところが獅子丸らしい。
もちろん俺も貰ったチョコレートを捨てるなんてことしない。
最後の一個まで味わって食べさせてもらう。
「まぁ、チョコレート一個も貰ったことないんだけどな」
もしかしたら今日人生で初めての母親以外からのチョコレートが貰えるかもしれないけど。
手紙のことを獅子丸に言ったらどんな反応をするだろうか?
きっとめちゃくちゃ喜ぶんだろうか?
それとも行かない方がいいだろ言うだろうか?
あの文章ならきっと後者の方だろうな。
もしかしたら俺もついて行くとか言うかもしれない。
獅子丸なら言いそうだ。
手紙のことは黙っておくべきか?
「いや、一応言っとくか」
隠しておいて後からバレた時の方が面倒くさい。
「あいつ俺のこと好きだからな」
もちろんLOVEじゃなくてLIKEの方で。
俺も獅子丸のことをLOVEじゃなくてLIKEの方で好きだった。
そうじゃなきゃ、十年以上も一緒に居たりはしない。
獅子丸と一緒にいるのは楽しいし、一緒に飽きることがない。
「さて、行くか」
あの集団の中に行くのは少し勇気がいるが、俺の友達が一組の入り口を塞いでるのだからどうにかしてやらないといけない。
明らかに邪魔になっているからな。
入り口が前と後ろで二箇所あればいいんだけど、一組だけは入り口が一箇所しかない。
だから、あの集団のせいで教室に入れないクラスメイトが廊下で待っていた。
それを獅子丸も気づいているだろうけど、ああも囲まれては動けないだろう。
いつものことだ。
獅子丸は優しいからすべての女子からチョコレートを貰うまでその場から動かない。
女性には優しくがモットーの俺だが他人に迷惑をかける女性は別だ。
「おい、そこの人気者。邪魔になってるから教室の中に入るか、もう少し離れた場所でチョコレート貰えよ。羨ましいな。ちくしょう!」
わざとちょけた口調で俺が獅子丸に声をかけると女子たちに睨みつけられた。
怖ぇ〜。
女子怖ぇ〜。
「孝之。おはよう。ごめん。すぐにどけるね」
俺に助かったよ、という顔を向けた獅子丸は女子たちに笑顔を向け、道を開けるように言った。
笑顔一つでこの威力。
獅子丸に笑顔を向けられた女子たちは目の中にハートマークを浮かべ、廊下の端に一列に並んだ。
最初からそうすればいいものの、おそらく獅子丸も今登校してきたところなんだろうな。
俺は一列になった女子たちを一人ずつ数えながら教室の中に入った。
獅子丸にチョコレートを渡そうと並んでいた女子は五十八人いた。
☆☆☆
「さっきはありがとう。孝之」
自分の席で勉強をしていると、並んでいた女子たち全員からチョコレートを貰い終わったのか、教室の中に入ってきていた獅子丸が話しかけてきた。
「チョコは貰い終わったのか?」
「一応ね」
「お疲れさん」
「ありがとう」
「で、今年は何個チョコ貰ったんだ?」
「何個だろう。数えてないから分からないや」
「五十八個は確定だな」
「数えたの?」
「横を通った時にな」
「そっか。じゃあ、今は七十個くらいかな」
「マジかよ。この調子でいけば去年の記録超えるんじゃね?」
「かもしれないね」
獅子丸は複雑な表情で苦笑いを浮かべた。
嬉しいそうな、嬉しくないような、そんな気持ちなんだろうな。
「モテすぎるのも大変だな」
「そうだね。嬉しい事なんだけど、申し訳なくなるよ」
獅子丸の性格上、貰わないっていう選択肢はないだろうしな。
「そろそろ身を固めるってのはどうだ?」
「そうだね。それもいいかもしれないね」
「獅子丸なら選り取り見取りだろ。好きな女子とかいないのか?」
「いたらよかったんだけどね」
「罪な男だな」
☆☆☆
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