バレンタインデーにギャルから本命チョコレートを貰ったら

夜空 星龍

第1章 ギャルから本命チョコレート

第1話

 二月十四日。

 世間でいうところのバレンタインデー。

 女子が好きな男子にチョコレートを渡す日。

 十六年間生きてきて、母親以外からチョコレートを貰ったことはなかった。

 だから、自分には無縁な行事だと思っていた。  

 学校に登校して下駄箱を開けるまでは。


「手紙?」

 

 上履きに履き替えようと下駄箱を開けると中に一通の手紙が入っていた。 

 差出人の名前は書いていない。 

 こんなことは十六年間生きて初めてのことだった。

 これはいわゆるラブレターというやつなのだろうか? 

 それとも果たし状!? 

 いやいや、それはないな。

 誰かに喧嘩を売られるようなことはした覚えはないし。

 もちろん誰かに好かれるようなした覚えもない。

 

「とりあえず開けてみるか」

 

 俺は周りに誰もいないことを確認して手紙を開けた。


「放課後。体育館裏に来い」

 

 果たし状!?

 手紙にはその一文だけが書いてあった。

 文面は完全に果たし状のそれだった。

 命令口調だし。 

 一体誰がこんな手紙を俺の下駄箱に入れたのか?

 差出人の名前は中の紙にも書いてないから分からなかった。

 

「いや、マジで誰だよ!? こんな手紙を下駄箱に入れたやつ!?」


 無視してやろうか。 

 こんな果たし状みたいな手紙。

 男か女かも分からないのに行く必要なんてあるのか? 

 もし行って屈強な男が待っていたら? ヤンキーが待っていたら? 

 

「よし、行くのやめよう」 

 

 でも……。

 もし、待っているのが女子生徒だったら? 

 今日はバレンタインデーだ。

 その可能性は大いにある。

 めっちゃ命令口調だけど、俺にチョコレートを渡すために、という可能性もある。

 もしも、そうだった場合、せっかく手紙をくれた行為を無碍にしてしまう事になる。

 昔から父さんに女性には優しくしなさいと言われてきた。

 だから、もしもこの手紙の差出人が女子生徒なら、その女子生徒に対して優しくない行動をしてしまう事になるし、父さんのことを裏切る事になる。


「一応、行くだけ行ってみるか」


 とりあえず行ってみて、体育館裏で待っている生徒を見てから決めよう。

 それからどうするか決めても遅くないはずだ。

 俺は手紙をカバンの中にしまって、靴を上履きに履き替えると教室に向かった。


「放課後か。今日はバイトの日なんだけど」


 高校生になってから一人暮らしを始めた俺は去年の夏頃からバイトをしていた。

 バイト先は飲食店で俺は主に調理担当をしていて、たまにホールの方も手伝うこともある。

 バイトには週に四回出てて、今日はバイトの日だった。

 バイトは十七時から。

 六限の授業が終わるのは十六時二十分。

 学校からバイト先までは自転車で十分。

 この差出人不明の手紙の主の話が三十分以上かからなければ・・・・・・。


「間に合うか」


 この手紙の主が俺にどんな用なのか知らないけどさすがに二十分以上も話をすることはないだろう。

 知らんけど。

 そんなことを考えながら階段を上った。 

 二年生の教室は二階にある。

 ちなみに一階が三年生で、三階が一年生だ。

 二年生のクラスは全部で五組で、俺のクラスは一組。

 一組の教室は廊下の突き当たり。

 なぜか一組だけ突き当たりに教室があるのだ。

 どの学年もそうだった。 

 

「まぁ、階段から教室までそんなに遠くないからいいけど」


 一組の教室に向かって歩いていると、一組の教室の入り口付近に人だかりが出来ていた。

 その人だかりを見て俺は改めて今日がバレンタインデーなのだと実感した。

 人だかりの中心にいるのは一人の男子生徒。

 その男子生徒を女子生徒が(一体何人いるのだろう?)囲んでいた。

 男子生徒の名前は獅子王護ししおうまもる。通称、獅子丸。

 俺の友達だ。

 獅子丸とは小学校の時からの付き合いで、この光景を見るのは今年で五年目だ。

 国宝級な顔面、モデル並みの高身長、誰に対しても優しい性格、初対面でも一瞬で懐に入り込む社交性。神様から愛された男。それが獅子丸。

 しかも実家が不動産会社を経営していて、大富豪で屋敷みたいな家に暮らしている。 

 ちなみに俺が暮らしているマンションも獅子丸の親が経営する不動産会社の物で、獅子丸の友達ということで格安で貸してもらっている。

 獅子王家とは家族ぐるみで仲が良かった。

 俺の母親と獅子丸の母親は一緒に買い物に行ったりしているらしい。



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