第5話 地図に書かれた真実
ホンジャマカ夢花が持ってきた地図は、市の図書館でコピーしてきたものだという。俺の会社前で彼女と解散した後にすぐに行ったのだろう。
そこには、戦後間もない、あの物件が建つ前の町の様子が書かれていた。
「あっ…」
あの物件があった場所には、
「気づいたようだね。あそこは畜産農家があった場所だったんだ、元々。そして、ここら辺りの歴史に詳しい私の知り合いに聞いたところ、その畜産業者は戦後の混乱の中、アメリカから、バッファローを密輸していたという噂があった」
「バッファローを!!?ってか光湯屋って…あの物件を所有していた人と同じ苗字だ…」
そうなのである。あそこの物件を持っていたのは光湯屋さんなのだ。
「そう、光湯屋さん、その今の光湯屋さんのお爺ちゃんがその畜産をやってたんだ。だが…」
彼女は部屋の奥から今度は写真を取り出してきた。
そこには…
燃えている木造建築の平屋建ての建物があった。
建築物の真ん中にある看板らしきものの文字で『畜産』という部分はどうにか読むことができた。
俺の顔は青くなった。
「ゾッとしたかい?それは光湯屋畜産が放火によって、燃えカスになる数十分前に撮られたものなんだ。当時の新聞を調べたら出てきた。新聞記事を読むとわかったんだけど、バッファローを密輸して売りさばいてお金儲けをしていたことが気に食わない同業者の夫婦が居て、彼らが火を燃やしたんだ。二人ともすぐに自首した。意外にもこの放火による犠牲者はバッファロー15匹のみ」
俺は、彼女の肩を思わず掴んだ。
「ど…どういうことですか!!?」
部屋中に俺の大きな声が響く。
「犯人がバッファロー以外の動物を逃がしたんだ。バッファロー以外には罪が無いという主張の元」
そう言って、彼女は髪の毛を掻きむしり、大きく息を吐いた。ここからが彼女の話の肝なのだろう。
「この土地はそういった事件があった場所だったから、長年の空き地だったんだ。けど、今の光湯屋さんのお父さんが急にあの平屋を建てた。一見普通の立派な平屋に見えるけど、あれは、人間によって放火で殺され、人を憎むようになったバッファローの怨霊を鎮める場でもあったんだと思うよ。君は夢の中であの北北東にある角部屋七角形の窓からすべてを壊すバッファローの群れが見えたと言ったよね」
「あ、はい」
突然話しかけられて驚いた表示を浮かべながらそう答えた。
「あの窓の辺の長さは先程、社長のメッセージからもわかるように、ASCIIコードと対応させるとバッファローの英語表記になる。つまり、バッファローの通り道を今の光湯屋さんのお父さんは用意したわけだ。窓の内側に鍵があるわけだし、バッファローの出口と考えた方が良いかな。バッファローさんお外へ行って!って感じで。だけど、考えてみて」
その時、俺は夢を思い出した。バッファローの群れは俺の方へ向かってきていた。
俺はその映像を脳裏に浮かべ、真実に気づいた。
唾を飲み込み、乾いた喉を潤し、こう呟いた。
「そうか…出口があっても入口が無い。バッファローの怨霊たちは出口を入口と勘違いして、家に突っ込んで来たのか」
「ご名答。バッファローたちは、出口から入ろうとしたけど、窓は内側から鍵がかかってしまっている。だから、通り道が上手く機能しなかった。だから、バッファローは家にぶつかるしかなかったんだ。まあ、とは言っても、それは全て君の夢の中の話だけどね」
「じゃあ、どうやって俺はこの悪夢から抜け出せるんですか!今日も絶対あの夢を見ますよ」
俺は焦って早口になってそう言った。その言葉を聞いて、夢花は笑いながら、あの卓上エアホッケーを取り出した。そして、右手でマレットを持って、パックを思いっきり相手側の穴に入れた。
カンと小粋な音が鳴る。
「出口が無ければ出口を作れば良いのよ!」
彼女の言葉を聞いて、俺は解決策が思い浮かび、すぐさま、彼女の仕事場から走り去った。
5000円を机に置いて。
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