第2話 ホンジャマカ夢花登場

 ホンジャマカ夢花の所在地は私鉄××××駅から徒歩3分の場所にある商店街の1角にあった。人1人通れるぐらいの狭い階段を上ると、2階に『ホンジャマカ夢花の夢夢相談室絶賛(?)営業中!!』と某遊べる本屋さんのポップのような字体の丸っぽい手書き文字が書かれている札が吊るされた黒いドアがあった。

 恐る恐るドアを開けると、そこには――――


 所狭しと者に溢れた薄暗い6畳の部屋の真ん中にあるデスクで、小型のエアホッケーを右手と左手を用いて1人でしている黒髪ロングの美少女が居た。

 

 ドアを開ける音に気づいたのか、その少女は俺の方を見てきた。

 目が大きく、まつ毛が長く、鼻筋の通ったその顔はまるでドールのようだった。

 背の高さは、180cmの俺の肩幅くらいであろうし、160cmくらいだろうか。

 袖にフリルのある黒いドレスを身につけている。


 少し口角を上げて、その少女は話しかけてきた。


「びっくりした。お客さんか。てっきり大家からの家賃の催促かと思ったよ。これ受け取って」

 見た目的に明らかに年下であるのに、タメ口の彼女は名刺を渡した。

 そこには、ホンジャマカ夢花の経歴と電話番号が書かれていた。 

 経歴を見るとある文面に目を見張った。

 ”2014年に×××大学×××学部××学科を卒業”

 と書かれていたのだ。

 飛び級で無ければ、若くても1991年生まれということになる。

 ということは26歳の俺より年上なのか。


「どうしたんだ?全然年齢に見合った見た目じゃないな、と思っただろ、君!」

 頬を膨らませ、眉をひそめまがらながら、彼女は俺を指さしそう言った。


 ゴホンとわざとらしい咳をして彼女は急に真剣な面持ちになって話を始めた。

「まあいい、久しぶりの客だからな。多めに見て今回は許してやろう。で、何か私に相談事でもあるのか?じゃなきゃ、こんな変なところを訪ねに来ないだろうが」


 俺はバッファローの夢を詳しく話した。

 ついでにあの物件のことも…

 

 一通り話を聞いた後、少し馬鹿にするような笑みを浮かべて夢花は語りかけてきた。

「ふーむ、君は風水とか興味ないのか?」

「全然、知りませんね」

「はあ…?それでも不動産やってる人間?まあ、いいか。簡潔に話すよ。二十四山方位というのがあってね」

 彼女はそう言いながら、店の奥の方にあるぐちゃぐちゃと物が積まれた棚から、大きな板を取り出してきた。板には八方向の名称や干支の動物やらの名称やその他よくわからない文字列等が書かれた八角形の図が書かれていた。

 

「二十四山方位はこの図が基本なんだけど、ちょうど北北東ってのはこれに当たる」

 そう言いながら、彼女は

 ”丑”を指さした。

「丑の刻参りとか言うでしょ。要するに時計でいう2時の位置が丑なわけ。だから、その変な角部屋は計算して作られてるね。絶対に」

 俺は丑の祟りにでもあってしまったのだろうか…

 俺が彼女の言葉を聞き、そんな風に悩んでいると、彼女の「うーーーーーーーーーん」というやけに長音の長い、大きな声が部屋中に響いた。


「どうしたんですか?」

「いやあさあ、七角形ってなんなのよ。わけわかんない。一回家見たいなぁ。今日は休みだよね。明日私を客としてそこに連れていってくれない?」

 いきなり彼女が顔を近づけてきてそう言ったので、俺はびっくりして自分の顔を遠ざけた。

 彼女はそんな俺をからかうように目を細め、微笑みを浮かべた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る