水牛の夢を見る家~ホンジャマカ夢花の事件簿~
村田鉄則
第1話 水牛の夢
俺は不動産屋だ。住宅の内見に来た客を乗せて車を走らせている。
車のハンドルを握る手の甲に汗が点々と浮かぶ。
本当は、今回、客に内見させる物件に俺は近づきたくなかった。
物件に着いた。
物件を目にすると、つと、バッファローの大群が押し寄せてくる映像が脳裏に浮かんだ。頭を振って、バッファローを脳内から消す。この物件に今年29回ほど内見の付き添いで来ているが、その日は必ずバッファローの夢を見るのだった。
大丈夫だ。
ここに来たって、バッファローの大群が今夜の夢で現れるとは限らない。
そう、自分に何度も言い聞かせて、少し手を震わせながら、件の物件の鍵を開けた。
この物件は平均より少し大きいくらいの平屋建てだ。駐車場も大型車を3、4台は停められそうなぐらい広い。日当たりも良好で、駅も自転車で15分。だというのに、お値段は土地含め、680万円。ここらでは、比較的安いはずだが…しかし、買い手がつかないのだ。
この物件には1つ変な所があり、それが関係している気がする。
この物件には、北北東にある6畳の大きさの全面フローリング床の角部屋に辺の整ってない
ただ、それだけではあるのだが、別に日当たりも良くない場所に何のためにそんな不格好な窓があるのかいまだにわからない。
今回来た客も他の客が以前もしたような訝しげな表情を浮かべながら、その窓を見てこう言った。
「このヘンテコな窓はなんなんですか?」
「いや、ちょっと弊社といたしましては、わからないのです。前の所有者の方はこの家の最初の所有者である方の息子さんでして、昔から気になっていて、何度か聞いたものの、その答えは、はぐらかしたようなものばかりで、結局真相を聞く前にお父さんが先立たれたとおっしゃってました」
俺は事実をそのまま喋ったが、客は納得いってない様子だった。当たり前だ。
結局、今回の客も物件を購入はしなかった。
680万円という価格でありながら、この窓1点のせいで買われない家…
そして、今回も、眠りにつくと、あの夢が襲って来た。
夢の内容はこうだ。
俺は、あの例の物件の北北東の角部屋にたった1人で佇んでいる。
ドドドドドドドドド
地響きとともに大量の”何か”の足音が近づいてくる。
七角形の窓から外を見ると、それは、バッファローの大群の足音で、もう目と鼻の先に彼らは近づいている。
気づいて逃げようとしたところでもう遅い。バッファローの群れが到着し、平屋の壁と言う壁は突き破られ、全てを壊し尽くし彼らはその場を立ち去るのだ。
瓦礫の山の上で茫然と青空を眺める俺が居るシーンを見ると…決まって目が覚める。
「はあはあ」
悪夢から覚めた俺の額には大量の冷や汗が浮かんでいた。
俺はこの夢が嫌いだ。バッファローが家を潰すという現実で起こりえないトンチキな展開とは分かっていても、昔本当にこの展開を味わったような…何か生々しい感じがするのだ。
夢に対して感じる気持ち悪さで、朝一番にトイレに駆け込み、嘔吐した。
いつもは悪夢を見た後でも、無理してでも出勤していたのだが、今回は耐えきれなくなって、会社を休んだ。
ベッドの上でパソコンを開き、休みの連絡メールを社内事務に送った後、インターネットでこう検索した。
『悪夢 除去 XX県○○市』
悪夢の除去をする専門家が自分の住んでいる市に居ないかを調べたのだ。
すると…こんなサイトに辿り着いた。
”ホンジャマカ
ホンジャマカ夢花というヘンテコな名前ではあるが、藁にもすがる思いだった俺はそのサイトに書かれていたその夢花という人物の住所を地図アプリで調べて、お気に入り保存し、向かうことにしたのだった。
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