エルフについて②住宅情報

長月 鳥

エルフの隠れ家

 エルフが住んでいた家が欲しいだなんて君も物好きだね。

 いいんだ、いいんだ。2390歳でこの世を去った私の友人もきっと喜ぶと思うよ。


 良い物件だろう。

 木造だけど世界で最も硬く重い木材と言われているリグナムバイタだけで建てられているんだ。

 石造りや、最近流行りのコンクリートとかいう新素材では感じられない優しい木の温もりに溢れている。

 

 ん? 入った瞬間に分かっただろう。

 そうだ、良い匂いだろう?

 長い年月をかけて到達する木の香り。

 神木と呼んでも差し支えないだろうな。

 それに私の友人は、大の風呂好きだったからね。

 石鹸やシャンプーなんかも拘りぬいた香料を使っていた、らしい。

 まったく、長風呂は寿命を縮めるとあれほど忠告したのにな……。


 まぁいい、内見を続けよう。


 内装も亡くなった友人のこだわりが強く出ている。

 この絨毯なんか凄いぞ、難攻不落のダンジョン最深部にしか生息しない珍しい羊の毛で出来ている……らしい。

 この円卓テーブルは、かつて魔王と呼ばれた男の部下の四天王の1人から貰った。らしいし。

 この暖炉の素材はとある北方諸国の人類未踏峰の山頂から持ってきた。と聞いた。

 そして、この書斎。

 ここにある本は、全て魔法に関する文献だ。

 私の友人が、その生涯をかけて集めた魔導書もある。

 探せば、古代魔法なんかも使えるかもしれないぞ。


 まぁ真意は定かではないが、質も見た目も申し分ないだろう?


 うん、うん、そうだろうそうだろう、気に入ってくれてなによりだ。 


 え? 値段も安いし、めちゃくちゃ気に入ったけど、一つ気になることがある?

 なんでこんなに人里離れた場所にポツンと建っているんだって?


 私らエルフは、希少だろ?

 たまに襲ってくる奴らがいるんだよ。

 昔はエルフ同士で大きなコミュニティを作って集団生活していたのだけれど、沢山の女性や子供たちを守りながら戦うのは分が悪いからね。

 単独で隠れるように行動するエルフが増えた理由の一つかもしれない。

 まぁそれで純潔の子孫を残すのが難しくなったとも言えるからね、まったく悪循環だよ。


 まぁ諸悪の根源は、エルフの血は長寿の神薬だとか、眼球は永遠に輝き続ける宝石だとか、生きたまま心臓を取り出すし機械に組み込むと永久機関が出来るだとか、バカげた与太話を信じて襲ってくる奴ら……特に人間のせいなんだけどね


 まったく、どうしてそんなに長生きしたいのか……。

 お風呂を3分で済ませれば、誰だって長生きできるのにね。

 あとは耳を綺麗に洗うことぐらいか。

 そういえば、君の耳、耳介の上あたり、そうそう耳の上部。ちょっと尖っててエルフの耳に似てるね。

 たまにエルフと間違えられるんじゃない?


 ハハハ、似た者同士、希少種だ。


 え?

 やっぱりここに住むのを止める?

 なんでよ。

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