11「平和」

仏神神社へ着くと、既に、黒菜は自分の部屋に、布団の中で眠っていた。

まだ、目を覚まさない。


黒菜の部屋は、とても広くなっていた。

香子と在現に話を聞くと、自分が使っていた物を処分していた。

もう、自分が人柱になると決めていたから、自分の痕跡を消す様に、準備をしていた。

自分の貯金も、雷の通帳に入れて、光熱費や保険も、全て雷の通帳で管理出来る様にしてあった。

黒菜の部屋に残されたのは、鍵付きの手提げカバンと、それを開けるネックレスにした鍵と、指輪が入った箱だけだった。


「こんな覚悟しなくても。」


今、着ている服は、仏神神社に残されていた城司の部屋にあった服だから、大きく、袖も指が見える位だ。

その、黒菜の左手を両手で包むと、いつの間にか薬指に、指輪がはまっていた。


「これ。」

「加納君が、はめたんじゃないの?」

「あの時、俺は、黒菜さんを支えるのに必死で。もしかして、黒菜さん自身が無意識で指輪を着けてくれた。」


そう思うと、久彦は涙を流した。


「早く、目を覚ましてくれ。黒菜。」


すると、涙は指輪に落ちて、少し光った後、黒菜の身体を包み込んだ。


その時、黒菜が目を覚ました。


瞳を開ける黒菜は、目の前にいる者全てが信じられない。

黒菜を見つめるのは、兄である城司、親友の由衣、右京と清子に、在現と香子、そして、大好きで婚約者の久彦と、その久彦との間に生まれた雷。

黒菜は、かすれる声で、久彦に話をする。


「私……人柱になったのでは?」

「俺達が、阻止した。」

「では、この地域は?」

「無事だ。」

「どうやって?」


久彦は、まだ繋いでいる城司のリストレットを見せた。

理解した黒菜は、少し微笑んだ。


「ごり押し。」

「そうかもな。」


その様に話をすると、黒菜は、再び、眠りについた。



とても疲れているだろう。


黒菜が背負った運命は、とても大きかった。


重みが全て無くなった身体は、一気に軽くなり、慣れない重さが身体を浸す。



黒菜が意識を取り戻したのを確認すると、由衣は、城司と久彦を見て、自分の意思を伝えた。


「久彦さん。この地域に帰って来なさい。私が、城司さんについて行きます。黒菜は、城司さんを一人にするのが不安なんでしょ?一人じゃなければいいんでしょ?だったら、私でも良いはずです。それに、この今、現在、生きて、黒菜と一緒に居るのは、久彦さんです。この地域は、仏神神社の人柱の巫女が、男性と結ばれていれば、平和になるんでしょ?だから、最初から、私が城司さんについて行けば、こんな事にはならなかったのよ。本当に、…私は…この地域を……滅ぼそうとしたのよね。」


その様に言い、由衣は、顔を手で覆い、泣いた。

この事態は、自分が招いた事だと思っていた。


「由衣さんのせいではないよ。誰のせいでもない。ただ、恋する女の子が泣いているのを、皆で慰めただけだから。」

「そうだよ。きっと、あの世では、一緒にいるはずだ。そう願いたい。」

「出来れば、笑っていて欲しいね。」

「それは、この地域の人は、全て思っているよ。」


城司と久彦は、最後に見た人柱の巫女の姿を思い出していた。

それに今回は、人柱の巫女の悲しみがペアバディシステムを遮断させるほどの大雨を降らせ、黒菜の願いが足されて、この地域の防御システムを崩壊させた。


「じゃ、今から、やるべき事は、まず、自転車を駅に返しに行こう。きっちり、綺麗にしてな。それから、自転車を貸してくれた人とレールバスの運転手にお礼の品を持って行って、地域の人に事の説明をし、ドローンの技術師の所に行って、再び、ドローンを飛ばして貰い、医者に黒菜の診察と、色々とやる事があるぞ。」


城司は、久彦と由衣を連れて、今、言った事を手分けして行う為、仏神神社を出る。


「所で、由衣さん?俺について行くって話は?」

「ええ、本当よ。後で市役所にいって、婚約届を出しましょう。」

「えっ、そういう意味での一緒?」

「はい、思えば、私が城司君と結婚すれば、黒菜は妹。家族になれるのよね。何故、それが思いつかなかったのか。」

「あー、俺の意思は?」

「黒菜の幸せを思えば、犠牲は必要よ。」

「全く、黒菜の事になると、由衣さんは必死だな。」

「前も言いませんでしたか?黒菜の為なら、命をも惜しくない。」



その後、黒菜は無事回復した。

凍傷や麻痺も考えられたが、以前と同じ様に歩けた。

雷も、母親に甘えられて、とても嬉しそうだ。



久彦は、由衣の言う通りに帰って来て、両親と同じ市役所勤務となった。

ただ、ペアバディ部署には勤めず、文化財を守る文化保存会部署になった。

文化財は、この地域だと城も神社も含まっていたからだ。

調べて行くと、城の管理を任されていた仏神迅雷と未来は、この部署に勤めていたのである。

それを知った久彦は、文化財、特に城を主として、色々な文献を読み、考察し、管理をする仕事に就いた。

まるで、仕事を引き継ぐかの様に。


城司は、海外の研究チームが城司を気に入って、色々と日本だけではなく、世界へも行く事になった。

それに付いて行く由衣。

星沢城司の名前は、色々な民族の雑誌でチラホラ見られる様になった。


そして、今のペアバディシステムの欠点を、各国の代表に伝えた。




「恋する乙女から、思い人を引き離すと、システムが崩壊する。」




自分の住んでいる地域に起こった出来事をまとめ、報告すると、早速、同じ様な民謡や伝説がある地域には、注意勧告され、対策が取られた。


仏神神社がある地域は、有名になり、訪れる人が多くなった。

一時、地域の人に取材する人も居たが、ドローンがその行為が犯罪だと認識し出して、仕事にならなかった。

どうやら、この地域を飛んでいるドローンは、自分で勉強して、仏神黒菜に重みになる事は、犯罪と認識し、ドローン技術師でも、消す事が出来なかった。


ドローンだけではなく、意外な人達にも黒菜は崇拝されていた。

それは、ペアバディシステムを否定する人達だ。

否定する人は、今、日の光が当たらない所で過ごしている。

日の当たる所だと、ドローンが飛んでいて、少しでもリストレットを着けていないと反応され、警察へと連行されるからだ。

だから、ペアバディシステムの欠点を利用して、リストレット無しで生活したいと思っていた。

否定している人にとっては、ペアバディシステムの欠点を見つけてくれた人物として、仏神黒菜が認識されており、暗闇で密に祀られ始めているのである。

そして、密に、ペアバディシステムを崩壊させる準備をし始めていた。


ペアバディシステムを決定した組織と、崩壊させようとしている組織が繰り広げた戦争は、後に、解放「リリース」と呼ばれ続いている。



監視されているが平和な世界と、自由だが平和じゃない世界と、どちらを取れって言われたら、自分ならどちらがいいだろうか?


考えさせられる内容で、小学生の頃から、道徳の授業で問われ始めていた。





あの大雨から、五年が経った。


仏神神社には、久彦と黒菜、雷。

そして、加納在現と加納香子が、住んでいる。

五人で、守っている。


加納夫妻は、黒菜が無茶をしない様に、仏神神社で暮らし始めた。

今、思えば、巫女と加納は、結ばれる運命だった。

人柱は、状況が状況だったから、あの時代には必要な事で、仕方なかったとはいえ、この様に巫女と加納は、現在結ばれている。

結ばれた事により、この地域も落ち着きを取り戻し、平和に過ごせている。


そして、今、黒菜のお腹には、二人目が居て、医者の見立てだと女の子だ。

城司と黒菜の様に、仲の良い兄妹になってくれると良いなと、久彦は思っていた。

巫女と加納の血が混じった兄妹、仲が良ければ、この先、大丈夫だ。


身重の黒菜と雷が、境内で仲良く掃除をしている姿を見て、眩しいと思い、パートナーを取り付けてあるリストレットをしている手を、目の前に出した。

このリストレットには、子の部分に雷の名前が入っていて、もうすぐ、もう一人の名前も登録される。

なんだか、手から温かさが伝わってきた。


久彦は、一緒に横に居て、神社の扉を掃除している両親に一言、話をした。


「俺、この地域に引っ越して良かった。」


終わり

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ペアバディシステム始動 森林木 桜樹 @skrnmk12

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