3「案内」

「では、町の中探検出発。」


城司は、毎日、久彦が迷わなくなるまで、町の中を案内した。

近道や、裏道、町の中の店や、通りの名前、まるで観光案内している様に、城司は久彦に教えた。


この地域は、真ん中辺りに城がある。

昔、城は、何度立て直しても崩れる為に、最後の手段として、仏神神社の巫女を人柱として、生きたまま棺桶に入れて、城が建てられる真ん中に埋めた。

そして、城を建てていくと、崩れずに建てられ完成した。


完成した後に起きた地震でも崩れる事無く、また、この地域の建物も崩れ無く、川の水も氾濫し無く、土砂崩れも無い。

その時代に生きて住んでいる人は、「全て巫女さんのおかげだ。」と言い、それ以来、仏神神社は神聖な場所として認識され、失礼がない様、野菜や米などをお供えした。


それが始まりで、仏神神社、今は、城司と黒菜にお供えが来るのは、この地域では当たり前の事だ。

ただ、城司と黒菜は、当たり前と思っていなかった。

供物を貰えるのはありがたいが、自分が何かをした訳でもない。

祖先の功績だ。

恩返しが出来たら良いなと思っていた。


城司は、この地域の観光を助けられないかと思い、自分が住んでいるこの地域だけでも紹介出来る様に、歴史や観光場所の説明、約三十日間続いて行われ十曲もある踊りを完璧に出来る様にし、バイトとして観光案内をしている大人の補助として、休日は町中を歩いている。

黒菜は、仏神神社にて、境内を掃除したり、参拝に来た人を案内したり、神社の事をしている。


そんな地域に貢献しようとしている仏神兄妹は、周りが見ても、とても仲が良い。


久彦が引っ越してきてから、城司と久彦は、昼休みの時、弁当を一緒に食べる。

一緒に食べた次の日からは、久彦は自分で水筒に麦茶を淹れてきていた。

机には、今、弁当と二つの水筒に、水筒に付けられているコップの中には、お茶が注いであった。

そのお茶を一口飲み、久彦は聞いた。


「城司の妹、黒菜さん。かわいいな。」

「ああ、黒菜はかわいいぞ。」

「俺、一人っ子だから、兄妹ってどうなんだ?」

「どうって言っても…。」


黒菜を思い出しながら、城司は話す。


「黒菜とは一個違いだけど、やっぱり妹って感じがしてな。すごく大切にした思い出があるよ。大切にしたと言うか、大切にしなきゃって思ったって言うか。」

「へー、男と女の兄妹だと、やっぱり、兄が確りするんだ。」

「そうでもないよ。黒菜は、俺以上に確りしているよ。」



弁当を食べながら、城司は両親が亡くなった時の事を話した。



両親は、二月三日の節分で、豆まきをして、神社に参拝に来て下さった人の邪気を払う神事を毎年していた。

その準備をしていると、突然、雷が鳴った。

雷は、仏神神社の御神木に落ちて、二つに分かれてしまった。

その時、両親は、御神木の世話をしていて、雷が身体に入ってしまい、即死した。


まだ、黒菜が小学六年生の頃であった。

中学一年であった城司は、ショックだった。

最上級生の六年生だが、まだ小学生である黒菜は、もっとショックだろうと思っていた。

しかし、黒菜は、両親が即死したのを確認すると、警察と、両親のかかりつけ医院の医者、御神木の消火に消防署、御神木の検査を請け負う造園等、順番に連絡をしていった。


過去に、仏神神社で祖父と祖母の様に、両親の葬儀を行った。

城司は、黒菜の指示に従って動いていた。

その時の黒菜は、まるでこうなった時の対処方法を知って、その通りに実行している様に動いていた。


両親が亡くなった事を、この地域の人は全員知り、祈りに来る人や、城司と黒菜の様子を見に来てくれたり、それこそ米や野菜、果物の他に、簡単に食べられるパンやジュースを持って来てくれる人もいた。

その人達の相手も、黒菜はしていた。

そのおかげで、買い物に行かなくて済み、家で両親が残した仕事を片付けたり、把握したりする作業に集中出来た。


もちろん、学校は両親が亡くなった日から三日間は休んだが、その日以降は通っている。

それに、両親が生命保険や財産を残してくれたから、生活するには贅沢さえしなければ、余裕で生活出来ていた。


一ヶ月もすると、落ち着いてきた時、黒菜に会いに来ていた由衣が居た。

由衣は、ようやく泣ける様になった黒菜に胸を貸して、一緒に居た。

城司は、その光景を見て、自分が黒菜を支えなくてはと思い、自分が兄だと自覚をして、黒菜を守らなければと使命感に燃えた。


その事を久彦が聞くと、ふと、疑問が残った。


確かに、テキパキやっている様に見えて居るが、その状況を想像すると、仏神神社には、黒菜一人の巫女しかいないイメージが残った。

まるで、城司が居ない様に振舞っている。


疑問が残りつつも、黒菜が城司以上に、確りとしているのは分かった。


「でも、黒菜が中学三年の時に、進路で迷っていたみたいで、相談に乗った時から、少しずつ俺に頼る様になって来て、嬉しかったな。」

「その間、城司なりに、頑張ったんだろ?」

「少しな。」


城司と久彦は、いつも一緒に居て、お互いの事を話したり、休日になると遊んだりしていた。


夏休みに入り、久彦が「城司がやっている観光のバイトを見たい」と言ってきた。

城司は、早速、手伝いをする人に連絡をすると、「その友達が観光客として混じって行動するという条件」ならと許可をくれた。

久彦もそれで良いとして、観光客に交じって、城司のバイトを見ていた。

城司は、観光をする時にパンフレットを渡したり、具合が悪くなった人の補助をしたり、説明の中で分からない人に説明し直したり、耳が聞こえ辛い人への手話での手助け等、テキパキとこなしている。


この時は、城司も久彦も、パートナーを付けている。

観光客は、一人で参加している人はパートナーを付けて、恋人や家族で来ている人は、リストレットを繋げていた。

誰がどの組かは、見た目で分かりやすくなっていた。

ペアバディシステムは、こういう時はとても便利である。


バイトが終わり、一息付けていた。

何故か、この時は、パートナーではなく、リストレットを繋げていた。

いつの間にか、城司と久彦は、リストレットをお互いに繋げているのが、当たり前となっていた。

城司と久彦は、お土産が売っている店の裏に、観光バスが駐車出来る場所にある待ち合いのベンチに座って、自動販売機で買ったジュースを飲んでいた。


「はー、疲れた。」

「お疲れ様。」

「どうだったよ?俺の観光案内。」

「分かりやすくて、良かったよ。手話が出来るなんて、凄いな。覚えれば分かると思うんだけど、手の動作で何を話しているのか分からなかったよ。」

「手話は、高校から習い始めているんだ。検定は三年かかるし、レベルが6段階有って、難問なんだよ。高校を卒業と同時に取れたら良いなって思っている。」

「そうか、進路か。俺、以前住んでいた所だったら、ビルがあって、色々な工場も会社もあったから、募集していれば、どこでも良いって思っていたけど、こっち来たら、観光に興味沸いて来たし、野菜や果物もほら、スーパーでその地域の人が育てたのコーナーで安く売っているだろ?あれ、食べたら美味しくて、農業もいいなって思い始めてさ。」

「んー、訊いても良いか分からないけど、引っ越し理由って?」


城司は久彦に、引っ越してきた理由を聞いた。



簡単で、久彦が高校入学して二週間位の時に、突然。



「あっ、今度、編入試験があるから準備してね。」

「え?どういう事?」

「八岐高校、ここから北にある県にある高校だよ。」

「は?どうして?」

「引っ越すからに決まっているでしょ?」

「引っ越す?」



そんな内容の会話だったと、久彦は城司に話す。

城司は、その光景を思い浮かべると、なんと勝手なと思った。


「何だか、この土地が呼んでいる気がしたって。両親が夢で見たらしく、これは何かの天啓なのではないかと思い、引っ越しを決意したらしい。」

「こういっちゃいけないと思うんだけど、怪しいな。」

「そうなんだよな。変な組織とかに入っていなきゃ良いけど。」

「心配だな。」

「全く。」


その様な事を話しながら、ふと、久彦は上を見上げると、雲一つない水色の空に、この地域の城がある山を見た。

落ち着く。

前の住んでいた所も城があったが、こんな気分にならなかった。


その様子を見た城司は、もう、ジュースを飲み終わっているのを確認すると、容器をゴミ箱に捨てて、リストレット毎、久彦を引き寄せる。

驚いている久彦に、城司は微笑み。


「今から、城に行くか。」


誘ってみた。


久彦は顔いっぱいに笑顔になり、城司の導くままに城へと向かう。



上空にはドローンが飛んでいるのだが、人間の目線が確認されると、邪魔にならない様に少し動くシステムが組まれているから、空を見上げても見えるのである。

その為、ドローンを銃で撃ち落とそうとしても、手で捕えようとしても、直ぐに動かれるから、何も出来ない。

ドローンに触れる人が居るとすれば、警察官か、ドローン技術師だけである。

この世界では、警察官も、ドローン技術師も、凄く厳しい試験があり、市役所の人と同じ様に既婚者でなければならなかった。



城へと向かうには、曲がった道を何回か上らないといけない。

山の上にある城だが、そんなに辛い道のりではない。

元気のある男子高校生だ。

息が上がっているが、心地いい位である。


城への道のりには、真ん中に馬に乗った人が居る像があり、広場があった。

そこには、駐車場もあるから、城へは車でも向かう事が出来ると推測する。

城司の説明だと、広場は城へ遠足に来て、弁当をレジャーシート敷いて食べたり、春には花見も出来るし、少し遊具があるから小学生が、学校終わった後に遊ぶ事が出来るし、ペットを連れて散歩をする人もいる。

城司と久彦は、その広場で休む事なく上っていく。


木製の手すりが見えて来た。


城へと登るルートは三ルート有る。

一ルートは、今の道だ。

二ルートは、町の中に有る階段を上ると、仏神神社では無い神社があり、少し歩くと先程の広場と繋がっている。

三ルートは、山の中に有る階段を道しるべとして使い、ひたすら上り、城の横へと出て来る。

木製の手すりが見える所には、駐車場が有り、三ルートはここへ出て来る。


「もう、そろそろだぞ。」


城司が言うと、久彦は胸が次第に苦しくなった。

その様子は、リストレットで近くにいるから分かる。


「おい、大丈夫か?広場で休めば良かったか?」

「あ…ああ、なんか城司の顔を見たら、楽になってきた。」

「なんだそりゃ。でも、こんな顔で良ければ、いくらでも。」

「城司は、本当に良い奴だよな。」


でも、本当に久彦は城司の顔を見ると、落ち着いて来た。

同時に、胸から何かが生まれて来そうな、鼓動が激しくなって来ている。

城司は、本当に久彦が大丈夫なのかと思い、スマートフォンを出して、一応、黒菜にメールで知らせた。

何故か、救急車でもなく、観光ガイドの人でもなく、黒菜に連絡をしていた。

黒菜に連絡をしないといけないと、城司は瞬間的に考えて、メールを送信していた。

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