2「紹介」
兄の名は、仏神城司(ぶかみしろし)、妹の名は、黒菜(くろな)。
城司と黒菜は、深い青色をしたジャケットとズボン、黒菜はスカートを履いて、黒に近い赤色のネクタイをし、白いシャツを着て、玄関でリストレットを装着し、それぞれのレールを繋げ、玄関を出た。
朝日は、とても眩しくて、目を細めるがそれが心地よい。
「兄貴、今日の夕ご飯どうしようか?」
「麺類な気分だから、野菜いっぱいのラーメンにしようか。」
「先日、近所の方々から、お野菜いっぱい頂いたからね。」
「キャベツとタマネギが、おいしそうだったな。」
等と話をしながら、神社から歩いて三分の八岐(やまた)高校へ行く。
高校へ着いて校門を入ると、早速リストレットをレールから外して、一人で行動出来る様になった。
学校の敷地内には、建物の出入り口と同じ様なシステムになっているから、外せる。
それは、パートナーも例外ではない。
幼稚園や小学生の頃は、とても面倒くさかったが、慣れてくると外し方もスムーズになり、それが当たり前になっている。
ただ、認められているのは、自分が通っている学校や、勤めている会社が、リストレットに登録されていて、それと今居る場所が合っていればレールから外せる。
もちろん、建物だけで有り、外で働いている人で、人と離れて仕事をしないといけない場合は、パートナーを付けている。
リストレットの付ける手は、右でも左でもその日の気分で変えて良いし、足首でも良いとされている。
手足に着ける事が出来ない人は、首に着けパートナーを繋げる。
城司は高校二年生、十七歳。四月二十日生まれだ。
自分の教室へと入ると、クラスメイトが挨拶をしてくれた。
それに答え、背負っていたリュックから、今日、授業で必要な物を引き出しにしまい、机の横に下げた。
その時、朝礼のチャイムが鳴った。
立っていた人や、廊下に出ていた人は、自分の席へと座る。
すると、担任が教室へ入ってきた。
担任の名前は、草川実(くさかわみのる)。
男性で、四十歳の先生である。
草川先生は、出席を取り、出席確認表に書き込んで、周りを見渡した
教室の扉を見て、手招きして合図をした。
扉から入ってきたのは、男子で、草川先生の横に並ぶ。
草川先生は、黒板に男子の名前を書いた。
「今日、この学校に転入してきました、加納久彦(かのうひさひこ)さんです。この地域も、この一ヶ月前に引っ越してきたばかりだと聞きました。分からない事は手伝ってあげてください。それと…。」
草川先生は、城司に視線を送ると、城司はその場で席を立った。
加納は、今、立ち上がった城司を見た。
「この地域の事は、仏神城司さんに案内して貰いなさい。仏神さんお願いします。」
「はい。」
城司は、窓側の一番前の席で、その列の一番後ろが加納の席だ。
加納は、城司に挨拶をしてから、草川先生が案内した自分の席へと座る。
朝礼が終わり、城司は早速、加納の席へと向かった。
加納が気付き、城司を見る。
城司は、短髪の黒髪、背は、百七十センチ位である。
何かと清潔感が有り、近づいたら良い香りがしそうな雰囲気を感じると共に、何か懐かしさもあった。
加納も短髪であったが、少し茶色が混じっている。
背は、城司より少し高い程度だ。
加納は席を立ち、城司と向き合う。
「加納久彦君、久彦君で良いかな?」
「はい。」
「俺の事は、城司で良いよ。」
「では、俺の事も久彦で良いよ。」
呼び方を確認した後、城司は久彦に微笑み。
「今日の放課後、空いていたら、町の中案内するよ。」
「本当か。助かる。引っ越したばかりで、町の中は迷路みたいだし、何度も迷子になったんだ。」
「家は何処?」
「この近くに神社があるだろ?高校を出て、その神社方面とは逆方面で、歩いて五分の所にある白いアパートだ。」
城司は、その一言を聞くと、アパート名が考えずに出て来る。
「五丁目にあるアパート坂本だろ?あそこ、三階が空いていたな。そこの角にある三号室か?」
「すごい。当たりだ。」
今度は、城司が自分の住んでいる所を教える。
先程出た神社が、住んでいる所だと教えた。
「なら、ご両親は神主?」
「あー、両親、亡くなってて、今は、妹と二人で神社を切り盛りしている。」
「えっ、ごめんな。」
「別に良いよ。この学校…、この地域に住んでいる全ての人が知っているから、それに、近所の人が野菜とか果物とか、色々とくれるから、生活はそんなに苦しくないんだ。」
「えっ。」
野菜を貰う行為は、久彦にとっては、驚いた。
「ごめん。俺、都会から来たから、田舎に引っ越すって聞いた時には、驚いたよ。」
「都会から来たのか、だったら、田舎の道…特に町中は迷うかもしれないな。でも、俺が居れば、絶対に迷わないから、安心してな。」
「それはどういう…。」
理由を聞こうとしたら、一時間目の授業が始まるチャイムが鳴った。
城司は、自分の席に戻って、授業を受ける。
休み時間の間に、城司と久彦は色々と話をした。
城司からは、久彦はとても感じの良い人で、話しやすく、楽しい。
久彦からは、城司は同じ様に感じていたが、それ以上に惹かれる気持ちがあった。
それが何だか分からないが、お互いに一緒にいて話をしている。
周りから見ると、小さい頃、それも幼稚園に入る前から一緒に居て、ずっと隣に居たと感じずにはいられなかった。
男同士だが、お似合いのカップルだと、何故か認識がされていた。
昼休みになった。
城司は、久彦に昼ご飯を訊くと、母親が作ってくれた弁当があると言った。
城司も弁当を持って来ていた。
毎日、朝、黒菜と一緒に作っているから、黒菜も同じ弁当を教室で友達と食べているのだろう。
久彦が使っている席の前に居る人が、会話を聞いていて「一緒に食べるなら」と自分の机を城司に貸した。
城司は、お礼を言って、百八十度回転させて、久彦の机とくっ付ける。
机に弁当を置いて、久彦の机の上を見ると、飲み物がなかった。
「あれ、久彦、飲み物は?」
「持って来てないな。自動販売機とかって、高校の敷地内にあるか?」
「あるけど、少し遠いよ。俺、水筒持って来て居るから、コップ使えよ。」
「でも、それだと城司はどう飲むの?」
コップにお茶を注ぎ、久彦の前に出すと、城司は弁当箱の蓋にお茶を注いで、飲み始める。
久彦は、驚きが隠せない。
「なんか、豪快だな。」
「小さい頃は、近所の農業手伝っていて、こうやって飲む人居たから、そんな違和感なかったけど、生理的に受け付けないか?」
「いや、その顔立ちで、そんなおっさん臭い事するから、意外で驚いている。」
話をしながら、弁当を食べた。
午後からの授業も受けて、放課後になった。
玄関に行くと、黒菜が待っていた。
黒菜の横には、一人女子が居る。
黒菜の親友、星沢由衣(ほしざわゆい)だ。
星沢は、黒菜と幼稚園からの親友で、とても仲が良い。
両親が亡くなった時も、黒菜の傍に居てくれて、とても助かった。
兄の城司から見ても、星沢はこれからも黒菜の傍にいて欲しいと願っていた。
その黒菜が、城司を見つけて、手を振る。
「兄貴―。今日、パートナーで帰ってよ。由衣と一緒に買い物して行くからって、兄貴?横にいる男性は、どなた?」
黒菜は、城司の横に居た久彦を見た。
城司は、久彦を紹介しようと、久彦を見ると、その目は黒菜を見ていた。
「久彦。」
「あっ、何?」
城司は、久彦の紹介をすると、黒菜は久彦の前に来て、一礼した。
黒菜は、腰まである長い黒髪を、後ろに束ねていた。
「はじめまして、仏神城司の妹、黒菜です。兄貴の事、よろしくお願いします。」
久彦に、自己紹介をしたと同時に、黒菜は久彦の顔を、下から覗き込む様に見る。
久彦は、顔をジッと見られ、少し頬に赤みが差した。
しばらく黒菜は、久彦の顔を右、左に見てから、久彦のリストレットをしている手を、自分のリストレットをしている手を下にして、両手で包み込んでから、久彦の手を外した。
城司に親友と帰る事を言うと、城司も久彦を町の中を案内すると言い、お互い、タイミングが良いと思った。
城司は、黒菜に。
「夕ご飯の用意はあるから、五時半には家にいよう。」
と言うと。
「そうね。わかったわ。」
と言い、黒菜は星沢…由衣のリストレットに自分のリストレットを、レールに繋げて校門へ向かった。
久彦は、黒菜を見つめていた。
それを見た城司は、久彦が、黒菜に一目惚れをしたと思った。
「久彦は、黒菜みたいなの好み?」
「なっ、違うよ。何か、警戒心がない子だなって。」
「さっきのか。俺も驚いた。初対面にあんな積極的な態度取るなんて。」
「そうなのか。」
城司と久彦は、黒菜を見送った後、自分のリストレットを繋げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます