住宅の内見

アキノリ@pokkey11.1

第?章 ある男の人生

悪い事だと知っていても

身も心も愛しい人しか

水瀬智弘(みなせともひろ)18歳。

今年、県立大学の大学生になる。

つまり俺だが生きている価値が無いって思っている。


何が起こっているかといえばパチンコで惨敗したとかそういうのではない。

ただ...俺の好きだった女の子が飲酒運転の車に轢かれて死んだ。

それだけで生きている価値がもう無いって思うのだ。

本当にただそう思っただけだ。

でも生きる意味が見いだせない。


だけど俺は生きていたい。

でも死にたい。

もう生きているあの子には会えない。

何かもうぐちゃぐちゃで疲れた。


将来、結婚しようって約束していた。

清水桜(しみずさくら)さん。

高校生活を終えて4月の事だったが彼女は飲酒運転の車に轢かれて亡くなった。

そしてそれが起こったのは俺の目の前だった。

彼女が何かを俺に伝えたかった様だったが永遠に叶わない。


その中で。

俺は人生に疲れ果てて歩いていると不動産屋を見つけた。

そういえば独り暮らしをするんだった。


なら丁度良いや。

こじんまりした感じの不動産屋だがこの場所で安値の物件でも見つけて...というか。

最悪、自殺、死を選択する様な物件が良いな。

呪いを受けている物件とか。

もう全てを投げて良い感じだ。


だってもう桜はこの世に居ないから。


思いながら俺はノックしてみると奥からお姉さんが出て来た。

「はい」と言いながら、だ。

その人はまるで看護師の様な服装をしている。

それから俺を見てから笑みを浮かべているお姉さんに「あの」と聞く。


「曰くつきの物件ってありますか」


とだ。

するとお姉さんは「!」という感じになりながら「物件としてはありますけど...でもどうしてそこにするんですか?お若いですよね。お客様」と聞いてくる。


俺は言いたくは無かったが(どうせそのうち俺も死ぬしな)と思い出会ったばかりのそのお姉さんに胸の内を全て話してみた。

お姉さんは悩みながら数十秒考えて顔を上げる。

それから俺に向いてくる。


「...曰くつき物件はお勧めできません」

「...そうですか。...なら他を...」

「いえ。待って下さい。曰くつき物件では無いですが裏メニューの物件があります」

「...え?裏メニュー?」

「はい。実は駅が近くの物件ですが誰も住めない家が有るんです。既に100人の方が内覧に向かった一軒家ですがそこは女子高校生の幽霊が出るという物件です。猛烈なポルターガイストが庭に入った瞬間に起こってしまい誰も家に入れないのです」


「家賃は要らないです。その代わりもし住めるのでしたら...維持費を払って下さい。年間でそうですね...10万円でどうでしょうか?」と言う。

ここは東京だ。

駅近くでそれは破格中の破格と言えるな。

思いながら俺は「分かりました。そこにチャレンジしてみます」と言う。


それから俺は内覧の為にその家に向かう。

そして車で着いた先に確かに一軒家があった。

そこは築3年というありえない若さの家がある。

だがオーナー曰く前に住んでいた居住者が外国の転勤の為に引っ越した直後だったという。

その為、棄てる様にそのままらしい。


「...この物件の管理会社曰く...ポルターガイストの主は...交通事故に遭われた女子高生様という事で」

「...え?それは...」

「...え?何かご存じで?」

「...いえ。そんな関連は無いと思いますから」


そう言いながら俺は呪われた一軒家に唾を飲みこんで近付く。

するとやはりポルタ―ガイストが起こった。

何が起こったかといえばイスとかの廃棄物が、木の葉が、ありとあらゆるものが舞い始める。

俺は驚きながら前を見るとそこに...黒い女子高生が俺を見ながら立っていた。

髪の毛が逆立っている。


(ここに近付くな)


という感じだ。

だが俺はそれを見て怯まずに近付く。

お姉さんが止めに入って来るが俺はそれを制止した。


まあ死ぬなら今だと、そう思った。

そして木の葉が襲い来る中。

その女子高生を見てから俺は驚愕した。

近付くと何故か涙を流していた。

それからストンという感じで全てが次々に地面に落下した。


「...え?嘘...」


お姉さんがまさかの展開に驚愕する。

そして空も曇っていたのに晴れていく。

それから俺は日差しを感じながらその子を見る。

その子は涙を流しながら顔を覆う。


「...こんな真似をしても誰も喜ばないんだぞ」

「...」

「俺は君を...天国に送り届ける事は出来ない。だけどもう成仏したらどうだ」

「...それは出来ない。...だって愛しい人が目の前に居るから」


そう声がした。

俺は「?」を浮かべて顔を見つめる。

すると怪物の黒い何かが剥がれていき。

その顔が現れた。

それは...清水桜の顔だった。


「...智弘。...私...ゴメン。ずっとこの家を私の身体の代わりにしていたから。成仏が嫌だったから恐れて誰も近づけさせなかった」

「...桜...」

「私は...人じゃ無くなったんだ。貴方に伝えたい事があって成仏できなくて。貴方に逢いたくて」

「...そうだったんだな」

「...だから言わせてもらうね。会えたから。...有難う。愛していました」


桜がそう言った瞬間。

いきなり晴れた空から一筋の光が伸びた。

それから桜は宙を舞う。

俺はその姿を見てから「待て!桜ァ!!!!!」と絶叫する。

桜は笑みを浮かべてそのまま天に上る。


「...」


手を伸ばしたがそれは掠めた。

そして桜は多分...成仏したのだろう。

次にその姿は無かった。

俺は...その一瞬の事に涙が止まらなくなった。

それから号泣する。


「...水瀬さん。すいません。こんな時にいう言葉じゃないですが...どうされますか?」

「...この家の元の値段を払います。一生かけて払います。それでも良いから俺はここに住みたい」


言いながら俺は桜が去った一軒家を見る。

それから俺はその家で生活してからいつしか愛しい妻が出来て愛しい子供が生まれて生活して幸せだった60年後。

俺はその家で孫と妻と娘に見られながら生涯を終えた。

そして天国に渡った時。


「待ってたよ。智弘。来てくれてありがとう」


そう花畑の先から声がした。


fin

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