第9話 自分の問題

 土曜日、学校が休みで部活にも入っていないため俺は宿題をしながら考え事をしていた。


(翔と友達になって1週間とちょっと、ここまで仲良くなった人は今までにいなかっただろう、これも感情を読む力のおかげだろうか)


 だが、たった一週間ほどでここまで仲良くなれるものだろうか、やはり翔の性格がよいからだろう、俺を心配してくれたし、俺の過去の話も無理に聞こうとはしなかった。


【幸也君って誰も信用しないよね、だれか信用できる友達いるの?】


 ふと、昔クラスメイトに言われたことを思い出す、図星だったからかなりショックを受けた覚えがある、結局その人とはそれ以来あまり話すことはなくなってしまった。


(俺の態度が気に入らなかったんだろうな…)


【そういや幸也、俺と妹さん意外に話してる人あんまり見ないなぁ、人見知りか?】


 心配して気遣ってくれた翔の言葉を思い出す、こんな友人が昔からいたら俺も変わっていたのだろうか。だけど…


(あれ…?)


 会話の流れも言い方も違うが、その発言だけ見れば翔の発言も嫌味ととらえられなくもない、実際能力がなければ嫌味ととらえただろう。


(もしかして、あのクラスメイトも心配して言ってくれていたのかな)


 そうとは言い切れない、だがそれは俺の考えに対しても言える、俺の態度が気に入らないから意地悪でいったとは言い切れない…


(俺のとらえ方の問題だったのかもしれない…)


 俺はこれまで他人を信用してこれなかった、何を考えているかわからない相手を無意識に恐れて、相手は自分を傷つける存在かもしれないと考えてしまっていた。


(そうか、この能力はきっかけに過ぎないんだ、それからその人を信用するもしないも俺自身の問題、過去のせいだけにしてはいけないのかもしれない)


 相手が思っていることなんて本来誰にもわからない、俺はそれをすべてネガティブに考えすぎていた、それを能力で相手の真意を知ることで初めて、全員が自分を貶める存在なわけではないと信じることが出来た。


(母さんも、昔から「みんながあの人みたいなわけではないのよ」って、言ってくれてたのにな…)


 今まで俺は親友を作るために、父さんを信用するために、何か努力をしてきただろうか、信用できる人が現れてほしい、父さんを信用できるがおきてほしい、そう考えながら生きてきた。


「今までの俺は誰も信用する気なんてなかったのかもしれない…」


 親友が出来ないわけだ、自分に親友になるつもりがなかったのだから、親友だから信じられるのではない、信じているから親友なんだ、自分が信じる努力をしなければ、一生できることはないだろう。


 改めて能力をくれた存在に感謝の念を抱いた、この能力がなければ、一生気が付くことがなかったであろう自分の問題に気が付くことが出来た。


「そうと決まれば、やることは一つだな」


 宿題を終わらせて、携帯を手に取りメッセージを送る。




 日曜日、駅で翔と待ち合わせをしている、これから俺は翔に自分の過去を打ち明けるつもりだ、それを受け入れてくれるなら、俺も心から信じることが出来る、もちろん、受け入れられなければ翔は離れて行ってしまうだろう。


「ははは…人を信じるってのはこんなに怖いことだったのか」


 翔は、唯一信じてもいいかもしれないと思った友人だ、これから先これ以上は無いかもしれない、過去を打ち明けたら、翔が俺を避けるかもしれない、そう考えると、話そうとする決意が揺らぎそうになる。


「翔を信じるって決めたんだ…」


 翔が俺をどう思うかはわからない、けど俺が信じたいから過去を話すんだ、その結果なら、どんな結果でも受け入れられるはずだ。


 俺は気合を入れなおして、集合場所へ向かった。




「幸也早いな、もしかして待たせちまったか?」


 俺が集合場所に到着して10分、走ってきた翔が焦ったように声をかけてくる。


「そんなに待ってないよ、それに翔も十分早いだろ、まだ集合時間まで20分くらいあるぞ」


「だって、幸也が誘ってくれたの初めてじゃんか、しかも休みの日に」


 確かに、今まで放課後に遊びに行くときも翔から誘ってきていたし休みの日は基本的に勉強などのために誘いは断っていた。


「宿題も早めに終わったからさ、よければと思って」


「まあ、今回宿題少なかったしな、俺でさえもう終わったくらいだし」


「んで、これからどうすんだ、遊ぼうって話は聞いたが、どこに行くとかあるのか?」


「う、すまん全然考えてなかった…そもそも、休みの日に友達と外で遊ぶのも初めてなんだよな…」


「そうか、なら今回は色々回って幸也が楽しめるとこ探そうぜ」


「いいのか?じゃあ、翔が面白いって思うところに行きたいな」


「なら、ゲーセンとカラオケからだな!いや、いっそあそこに行く方がいいか」


「あそこ?」


「ああ、ゲーセンもカラオケもスポーツ施設だってある夢のような娯楽施設があんだよ!」


「へぇ、それはすごいな、じゃあ行ってみるか」




 それから俺たちは夢中で遊んで、早くも午後5時になってしまっていた。

 初めて体験する友人との楽しい時間に夢中になってしまった、これでは本来の目的を果たす時間が無いかもしれない。


「ふぅ、遊んだ遊んだ!幸也はどれが楽しいとかあったか?」


「ゲームセンターは家でやるゲームと違った楽しさがあるな、カラオケは人前で歌うのが学校以外で初めてだったからうまく歌えなかったしリベンジしたいよ、スポーツ施設もいろんなものがあって、全部は体験しきれなかったからなぁ…う~ん、全部楽しかったからどれが一番とかは決められないな」


「ははは!楽しめたみたいだな!選んだ甲斐があったぜ」


「ああ!ありがとう!それで…まだ時間大丈夫か?ちょっと話したいことがあるんだ」


「ああ、良いぜ、遅くなるって親に連絡するから待ってくれ」


 俺の雰囲気に気が付いたのか翔が真剣な顔になり、携帯で電話始めた。




「いいってよ、じゃあどこで話すか、近くのファミレスにでも行くか」


 ファミレスに向かいながら翔が話しかけてくる。


「話って前に言ってた昔のことってやつか?」


「ああ、そうだよ」


「…無理に話さなくてもいいんだぜ?今のお前辛そうだしよ」


「……昔の話をするのはもちろん辛んだが、それ以上に翔にこの話をして見放されるかもしれないのが怖いんだ…」


「なら…」


「でも、話したいんだ、翔に俺のことを知ってほしい、知ってもらわないとこれ以上仲良くなれない気がするんだ、俺の心の問題に付き合わせて悪いけど、聞いてほしい」


「…わかった、けど、見放されるかもって心配はしなくてもいいぜ!」


 翔が俺の方をたたきながら微笑んだ。




 ファミレスに着いた俺たちは、適当に食べるものを注文してから話し始めた。


「んで、昔の話って言ってたけど、どのくらい昔の話なんだ?」


「10年以上前だよ」


「10前って…小学生にもなってないじゃねぇか…そんな時にいったいどんなことが…」


「………実の父親に虐待されてたんだ」


「!!」


「最初は軽い暴言だけだった、俺のせいで母さんが構ってくれないってさ、いなくなれとか、邪魔だとか、あいつの頭の中では俺は母さんを奪ったんだそうだ」


「それ、母親には…」


「言えなかった、それに知ってほしくなかった、母さんは仕事でも結構な役職だったらしくて、いつも遅い時間に帰ってきていた。

 そんな忙しい母さんに心配かけたくなかったし、母さんが一緒に居る時はあいつもおとなしかったから信じてもらえるかもわからなかったんだ。

 しばらくたって、暴言に暴力が加わるようになった、最初は目立たない背中や足なんかをたたかれた、それからまたしばらく後に母さんが1週間ほど出張することになって、家で仕事をしているあいつが俺の面倒をすべて見ることになった、もちろん、面倒なんて見てくれなかったよ、ご飯はもらえないし、暴力は過激さを増して、顔も関係なくたたかれるようになった。」


 そこまで話して翔の方を見ると、翔がこぶしを握り締めながらうつむいていた。


「なんで、実の子供にそんなことが出来るんだ…!そいつ結局どうなったんだ」


「逮捕されたよ、もう出所しているだろうけど」


「そんなひどいことをしてるってのに、すぐ出れんのかよ」


「まあ、俺も一応生きてたからね」


「一応って…」


「ああ、母さんの1週間の出張中に、俺は意識不明で病院へ送られた、それも母さんのおかげだけどな、母さんが、俺の顔が見たいってあいつに連絡しなければ、俺はそのまま…」


「そんな…」


「病院で一命をとりとめてから、俺は母さんしか、心から信じることが出来なくなった、だから友達が出来ても、相手が自分を傷つけるじゃないかって考えてしまうんだ」


「そうだったのか…ん?でも幸也、妹さんとかなり仲がいいじゃないか、母さんだけって、その時妹さんは…?」


「美華と俺は血がつながってないからな、その時はいなかったんだ、俺は母さんの連れ子、美華は父さんの連れ子だよ」


「え、ぇええええ?!」


「それで昔の話はここまでだけど…ど、どうだ?やっぱりこんな重い話聞かされて友達なんてできないか?」


「い、いやいや、俺はどんな話でも受け入れるつもりだったし、幸也とはずっと友達だぜ!話してくれてうれしかった!…けど、お前ら兄妹の血がつながってないって方に意識が持ってかれて、そっちの方が気になってるんだよ!」


「そうか、受け入れてくれてありがとう……」


 俺はあふれてくる涙をぬぐいながら、感謝を伝えた。


「い、いや…それはいいんだが…血がつながってないってどういう…」


「それは、妹の過去にもかかわることだから俺の独断で話すことは出来ないんだ、…お前も気が付いていると思うが、美華は俺を本当の兄だと信じ込んでいる、だから詮索するような真似は美華にはしないでほしい」


「分かった、でも…美華ちゃんもずっと知らないままではいられないだろうし、早めに教えておいた方がいいんじゃないか?いや、部外者が言うことじゃねぇな、すまん」


「それはそうなんだが…いや、両親とも相談してみるよ」


「ああ、その方がいいと思うぜ」


 頼んでいた料理が届いて、その後は今日一日の感想を言い合った。



―――――――――――――――――――――――――

GINSKです


もう少しで1章終わりです、2章からの展開を全く考えていないので執筆と同時進行で考えてはいますが、そのまま終わらせてしまうかもしれません、1章が終わってからは1~2話ぐらいの別作品を書いてから、続ける場合はこちらに戻ってくる予定です。

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