第8話 学校生活


「そう言えば、幸也はどっか部活に入るのか?」


 学校生活が始まって一週間ほどたったある日、いつものように休み時間に翔が話しかけてきた。


「いや、今のところ考えてないよ、別に強制でもないし」


 そもそも俺の性格上大勢と協力する部活動はあまり向いていない、いくら感情を読めるといっても常に全員に意識を集中することはできない、部活内で孤立することは目に見えている。


「そっか~、俺もどうしようか迷ってんだよなぁ、幸也が部活に入るなら同じやつにしようと思ってたんだけど…」


 翔は少し期待したような眼で俺を見てくる。


「俺、他人と仲良くなるの苦手なんだよ、そんな状態で部活に入ったら迷惑かけるか孤立してやめるかのどっちかだろ?だったら資格の勉強でもしようかなってさ」


「そういや幸也、俺と妹さん意外に話してる人あんまり見ないなぁ、人見知りか?」


「いや、人見知りとは違うかな、昔のことでちょっとね」


「昔のこと?それ、俺詳しく聞いていいヤツ?」


「話してもいいけど、重い話になるよ?気分のいい話でもないし…」


「いやいや、無理に聞こうって気はねぇよ?、ただ、ちょっと辛そうだったからさぁ…話すことで楽になれるかなってさ!…あまり気にしないでくれ」


 俺は、真意を確かめるために翔へ意識を集中させる。

 読み取った感情はだった、多少好奇心もあったが、俺を心配して言ってくれたようだ。


「翔、お前…いいヤツだな…」


 今まで家族以外で俺にここまで踏み込んできた人はいなかった、もしかしたら翔なら親友になってくれるかもしれない、そんなことを思う。


「う、うるせぇ!」


「正直に言うと、聞いてほしい気持ちと聞いてほしくない気持ちがあるよ、もし聞かれて、距離を置かれたらってさ…」


「まあ、お互い相手のことあんまり知らんしな、そう思ってもしょうがねぇよ、俺に話してもいいって思ったらそん時に話してくれ」


「ごめん、ありがとう」


 会話を終えると予鈴が鳴り、翔との会話に集中していた俺は急いで授業の準備を始めるのだった。




 昼休み、弁当を食べ終わった俺は暇つぶしに図書室で本を読むことにした。

 翔も誘ったのだが「悪い、次の授業の宿題忘れてて、今からやるんだ…」と死にそうな顔で言っていたので一人で行くことにした。


(しかし、宿題を見せてくれと言わないあたりかなり真面目なんだな…)


 面白そうな本を探しながら、そんなことを考えていると後ろから声をかけられた。


「すみません神田さん、ちょっといいですか?」


 後ろを振り向くと、倉掛くらかけさんが立っていた、感情を読むまでもなく緊張しているのがわかる。


「倉掛さん?何か用ですか?」


「あ、あの…妹さんについてなのですけど…」


「美華について?」


 そう言えば先週に文房具店であった際に美華が失礼な態度をとっていた、そのことに対して言いたいことがあるのだろう。


「先週はすみません、美華が失礼な態度をとってしまって…」


「え……?あ、ああ!いえいえ!その件は大丈夫です!全然気にしてませんから!」


 慌てた様子で倉掛さんが否定する。


「そうではなく…あ、あの~、その~…み!美華さんと私の仲を取り持っていただけないでしょうか!!」


「はい…?」


 困惑していると倉掛さんが説明を始めた。


「実は…美華さんと友達になりたいんです……ですが、話しかけようとしてもどうやら避けられているようで…」


「ああ、そう言うことですか、良いですよ」


「いいんですか?!ありがとうございます!!」


「う、うん、どういたしまして」


 声が大きくて少し驚いてしまった、図書委員の方を見たが、現在利用しているのが俺たちだけなこともあり、少し迷惑そうな顔はしているが、そこまで起こっているわけではなさそうだ。


「す、すみません、声が大きかったですね…」


 俺が図書委員の方を見たのに気が付いたのか、申し訳なさそうにしている。


「では、今から…だと時間もないですし、放課後にお願いします、あ、同級生なのにずっと敬語なのもおかしいですね、ため口で大丈夫ですよ」


「ありがとう、倉掛さんもため口で大丈夫だよ」


「わかりまし…わかったわ、よろしくお願いしま…よろしくね…」


 すごく話しづらそうだ、もしかしてあまりため口になれていないのだろうか。


「無理にため口じゃなくても大丈夫だよ」


「うぅ、すみません…今まで友達にもずっと敬語だったので慣れていないんです、敬語の方が話しやすいのでしばらくこのままで大丈夫ですか…?」


「俺は全然かまわないよ」


「ありがとうございます、では放課後によろしくお願いします」


「わかった」


 その後、倉掛さんと美華をどう仲良くさせるか考えて昼休みは終わった。




「なんでそいつがいるの?」


 倉掛さんと一緒に美華を待っていた俺に美華が不機嫌そうに言った。


「美華?そいつって…なんでそんなに倉掛さんを嫌ってるんだ?」


「それは…幸也には関係ないでしょ、それより幸也こっち来て、その女から離れて」


 美華は俺の腕をつかみ引っ張ってくる。


「ちょっと、美華引っ張らないでよ、何か倉掛さんのことを勘違いしてるんじゃないか?倉掛さんは美華と友達になりたいだけだよ?」


「…はぁ、分かったわよ…とりあえず話をするだけ、友達になるかどうかは私が決めるから」


「も、もちろんです!美華さん!」


「…じゃあ、何で私と友達になりたいって思ったの?私が言うのもなんだけどあんたに対して結構ひどい態度とってたと思うけど…」


 美華が聞くと、倉掛さんが恥ずかしそうに答える。


「え…と…、こう答えたら変な人と思われるかもしれないのですが、実はその態度でドキドキしてしまって…それで…」


「え、あんたもしかしてそっちの趣味の人?」


「い、いえいえ!!すみません紛らわしかったですね、最初から説明します」


 倉掛さんは深呼吸をしてから話をつづけた。


「私は昔から、勉強もスポーツもそれなりにできて、クラスでも重要な仕事を任せられることが多かったんです」


「だからなのかはわかりませんが、友達が出来てもどこかうわべだけの付き合いといいいますか、私に対する発言も機嫌を損ねないようにしているようで、本心を打ち明けてくれる人がいませんでした」


「ですが、つい先週本音をぶつけてくれる人と出会いました、美華さん、あなたです、最初は生まれて初めて向けられた敵意に怖がって逃げてしまいました。ですが、家に帰って考えるうちに思ったのです、あの人はほかの人と違って本音をぶつけてくれる、仲良くなれたら心を通わせた親友になれるのではと…」


 美華が目に手を当てて考え込んでいる。


「じゃあ、あんたが私にしつこく話しかけようとしてたのは」


「友達になりたかったからです」


「幸也のこともよく探してたよね」


「美華さんとの関係を取り持ってもらおうかと…」


「じゃあ、入学式に幸也に微笑んでたのは…」


「え?!」


 俺は美華が発した一言に驚いて倉掛さんの方を向いてしまった、すると倉掛さんはぶんぶんと首を振っていた。


「そそそんなことしてません!確かに一人だけ真剣に挨拶を聞いてるなと思って目は向けましたが…幸也さんだけに向かって微笑んではいません!」


「そうだよね…はぁ、勝手に勘違いして恥ずかしい奴じゃん私」


「か、勘違いですか?いったいどんな…」


「何でもないよ、友達になりたいんだったね、良いよ」


「本当ですか?!ありがとうございます!美華さん!」


「別に呼び捨てでも大丈夫だよ、私も勝手に真夢まゆって呼ぶから」


「は、はい!わかりました美華さ…美華!」


「それと―――」コソコソ


 倉掛さんは美華の耳に口を近づけ、何か話しているようだ、何か聞かれたくないことでもあるのだろうか。


「……真夢、あんたそこまでわかってるんだったら早く話しかけなさいよ」


「美華がそうさせてくれなかったんじゃないですか…」


 俺には話の内容はよくわからないがどうやら仲良くなったらしい。


「仲良くなったばかりで申し訳ないけど、解決したならそろそろ帰らないか?、そういえば倉掛さんも結構近いんだよね、よかったら一緒に帰る?」


「はい!もちろんです、美華さんとはまだまだ話したいことがありますから!」


 その日はいつもよりゆっくりと帰ることにした。


 

―――――――――――――――――――――――――

 GINSKです。

 何度味わっても愛猫が死んでしまうのは慣れないものですね……


 だんだん元気が出てきましたが更新はゆっくりになります、できるだけ更新する気ではいますが、遅くなってしまったら申し訳ありません。


 毎日相談に乗ってくれる親友に感謝を…

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