第3話 諦められない1(美華視点)
私には兄がいる、兄といっても、年齢も誕生日も同じ、所謂双子というやつだ。
兄は昔から私によく構ってくれた、共働きの両親の代わりに一緒に遊んでくれたし、私が困っている時は必ず助けてくれた。
私は昔からよく異性に揶揄われていた、お母さんは「
そんな時、
そんな幸也が兄として好きだった・・・
でも、気が付かないうちに、兄としてではなく異性として幸也のことを慕う様になってしまった、最近中学校を卒業したばかりの私でもわかる、兄のことを異性として好きだなんていけないことだって・・・
どうしたら、幸也を諦められるか、それが今の私の悩みだった。
「あなたに今の悩みを解決することが出来る可能性のある能力を与えましょう」
そんなある日、不思議な夢を見た。
光そのもののような存在が、私の人生は歪まされたとか、人生を取り戻りして悩みを解決する能力をくれるとか、普段の私なら絶対に信じないし、変な夢だったで終わりだ。
でも、その光のような存在が言っていることは不思議と信じることが出来た。
「認識を変える能力かぁ、こんなので本当に幸也を諦められるかなあ」
いつもより早く起きてしまった私は、入学式の準備を済ませながらつぶやく。
「自分を人から見えないようにしたり、ちょっとした認識のズレを起こすことが出来るって言ってたけど、どうすればいいのよ、これで幸也から隠れて過ごせってこと?」
自分以外誰もいない部屋で、愚痴をこぼすように呟きながら準備を終えて、リビングのある1階へ降りる。
「あら、おはよう美華ちゃん、もう準備終わったの?いつもは幸也のほうが早いのに、幸也は今日は遅いわね」
「おはようお母さん、あれ、まだ幸也起きてないんだ、いつもはお母さんと朝ごはんの準備してるのに」
「そうなの、夜更かしでもしたのかしら・・・ごめんなさい美華ちゃん、ちょっと起こしてきてくれる?私は
「え!、う~ん・・・わかった・・・」
そう言って、私は幸也を起こしに2階へ上がった。
幸也の部屋を目の前にして気が付いた、幸也の部屋なんて、ここ数年入っていない、幸也を異性として意識してから部屋に入ることは避けてきた、それなのに今、幸也を起こそうと部屋の前にいる、それを意識した瞬間、ドクドクと鼓動が早まるのを感じた。
「だ、大丈夫、ただ起こすだけよ、こんなのどうってことない」
意を決して、扉に手をかける。
「ふぅ・・・よし!いくわよ!」
私はそう言って、勢いよく扉を開けた。
バン!と大きな音がした、扉を開けた際、勢い余って扉から手が離れ、扉と壁がぶつかった音だ。
「幸也、早く起きて、今日高校の入学式なんだから早くしないと朝ごはん食べ損ねるよ・・・て、なんだ起きてるなら早く降りてきなさいよ」
(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!)
(なんで勢いよく扉を開けたの!冷静を装ってしゃべったけど恥ずかしすぎてなんて言ったかわかんないよ!しかも幸也起きてたし!さらに恥ずかしいじゃない!)
(ああ、もう、今すぐ幸也の前から消えたい・・・)
そう考えた時だった。
「そうだった、今行くよ・・・て、もういない・・・」
『え・・・?』
今、「もういない」と聞こえた気がする。
『ゆ、幸也?』
幸也の前に行き、私は声をかけた。
「・・・」
しかし幸也の反応はなく、何か考え事をしてるようでうつむいている。
もしかして冷たく当たりすぎたのだろうか、もう私に愛想を尽かして、無視しているのだろうか。脳裏によぎった考えにゾッとして幸也に声をかける。
『ね、ねぇったら、幸也!』
肩をゆするが反応はない、そこで私はようやく能力のことを思い出した。
『これが、認識を変える能力・・・?』
『人から見えないようにするって、それどころか、これはもはや存在を消してるようなもんじゃない!』
「早く準備して行こう」
『!!』
すると突然、幸也が服を脱ぎ始めた、いや、突然ではない、自分の部屋で一人だと思っているなら当然のことだ。
『うわ、うわわわわわわわ、ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!』
私は大慌てで部屋を飛び出した、不思議と幸也は扉の音に反応しなかった。
「び、びっくりしたぁ」
慌てて廊下へ出ると、能力の効果が切れた感覚があった。
「こ、この能力、時間で効果がなくなったのかな、それとも動揺したから?」
まだ心臓がバクバクしている、もはや破れてしまいそうだ。
「幸也の着替え見ちゃうなんて・・・」
動揺してほとんど見ていないが、それでも何か悪いことをしてしまった気分がした。
私はモヤモヤとした気持ちを感じたまま、リビングへ降りて行った。
私はまだ動揺したまま、リビングのいつもの席へ向かった。
「お!おはよう美華、今日は入学式だな!緊張してないか?」
「お、おはようお父さん、だ、大丈夫だよ」
「美華ちゃん、幸也大丈夫そうだった?」
「っ!!、う、うん、ちゃんと起きたよ?」
動揺してなぜか疑問形になってしまった。
そんな会話をしつつ3人が席へ座ろうとしたとき、リビングの扉が開き幸也が入ってきた。
「おはよう幸也、今日は起きるのが遅かったわね、夜更かしでもしたのかしら?」
「おはよう母さん、今日は準備手伝えなくてごめん、少し眠りが浅かっただけだよ」
「―――」
私以外の3人が会話をしている、しかし私はそれどころではなかった、幸也はいつもの席である私の前に座っている、いつもなら必要最低限の会話くらいはする、しかし、今はだめだ、まともに顔が見られない、心臓がうるさい、必死に私は冷静になるように自分に言い聞かせた。
ようやく落ち着いてきたが、恥ずかしくてまともに幸也が見られない。
そこで家族の会話が聞こえてきた、お父さんが今日休みになったことを嬉しそうに話している。
「えー、お父さんたち今日来るの?ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」
私は別に両親のことは嫌いではない、むしろ好きだ、だが、お父さんは私たち子供のことになるとたまに暴走する。中学の授業参観の時に私が問題を解いただけで、教室の後ろでお父さんが泣いていた時は本当に恥ずかしかった。
「そんなこと言わないで、せっかく兄妹そろって同じ高校に入れたんだから、一緒に祝わせてくれないかな・・・」
そう言われると、こちらが悪いような気がしてくる。
覚悟を決めて、お父さんが暴走しないことを祈ろう。
「うーん、まあいいけどさぁ・・・」
すると急に幸也が話しかけてきた。
「美華、今日は起こしてくれてありがとう、危うく二度寝するところだったよ」
急にお礼を言われてびっくりした私は、顔を背けてしまった、今は顔を合わせることが出来ない、ただ幸也の口調からのぞきのことはバレていないと察することが出来、少し安心した。
「べつに・・・お母さんに頼まれたから起こしに行っただけだし・・・」
この口調は最近ではいつものことだ、私が幸也を諦めるためにやっていることの一つ、そっけない態度をとっていればいつか諦められるのではと思ってやっている。
流行りの動画配信サイトで誰かが、「好きだった食べ物を周りに合わせて嫌いだと言い続けていたら本当に嫌いになった」と言っていたことから実践し始めた。
(本当は幸也と昔みたいに話したい)
大好きな幸也にそっけない態度をとっていることに、罪悪感と、いつか嫌われるんじゃないかという不安が心に押し寄せてきた。
幸也を諦めたいだけで、嫌われたくない、そんなわがままな気持ちが私の中にあった。
せめて目を見て話そうと幸也に顔を向けると、じっとこっちを見つめている幸也がいた、怒っているのかと思ったが、どちらかと言うと驚いて放心しているかのようだった。
「何じっとこっち見てるの・・・?」
見つめられるのに耐えられなくなった私は、幸也に話しかけた。
「っ!ご、ごめん・・・!」
なんだか気まずくなって、それから家を出るまで幸也と話すことはなかった。
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どうも
まず初めに、読み返していたら早速矛盾点を見つけたので修正しました。
これからもそういったことがたくさんあると思いますので、ご了承ください。
1話:人の自分に対する感情を読み取る→人の感情を読み取る
2話で思いっきり他人の普段の感情まで読んでしまっていました。
2話を書き直そうかとかいろいろ考えましたが、これから先を書くにあたって、自分に対する感情だけだと厳しい部分があるなぁと感じて、設定から変えることにしました。申し訳ありません。
美華視点です、すでに展開が決まっているからか書いていて楽しかったです。
もちろん入学式の美華視点もあるので、次も美華視点になっちゃいます。
本当は3000字以内で入学式まで終わらせたかったのにどうしてこうなった・・・
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