第27話 フィナーレ
街は、不安の渦に見舞われていた。
「悪夢の再来だ!」
「速く、劇場に!」
その空気を切り裂くように、「音」が鳴り響いた。
「ピアノを弾くなんて何年振りかな。」
その暖かい調べは、人々の心に深く染み込み、広がる。
「大丈夫だよ、みんな。」
はっきりと、確信したように言う。
「彼らが何とかしてくれる。」
「がはっ…はっ、はぁつ…」
地面に倒れ込む。息が上手く吸えず、体中が痛い。それでも、土煙の中をぎっとにらみつける。
「今の…一撃…!すごく、すごーく…楽しかった!」
男はまだ、倒れていなかった。
「まだそんな力があったなんて…もっとできるよね!もっと、もっと…」
男は折れた腕を高く振り上げる。
「僕を楽しませてよ!」
迎え撃つにも、力が入らない。蛇も、沈黙していた。
「ごめんなさい…!」
目をつむったその時。
「そこまでだ、ベノフ。」
空気が揺らぎ、突然、圧迫感と恐怖に襲われる。体中から汗が流れ、唇が震える。
「『教主』様…?」
「やりすぎだ。」
「あ…」
男は頭を抱え、地面に座り込む。顔は一瞬にして蒼白になり、がたがたと震えている。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」
これはただの上下関係による圧ではない。もっと根源的な、「恐怖」をあおるような…深い「絶望」…
「さて、久しぶりだね。」
声をかけられると同時に、重力が数倍になったかのような圧が体を襲う。彼の一言一言が、ざわざわと体の奥をかき回すように暴れる。
「ああ、力を使い果たして寝ているのか。」
自分に話しかけていない。おそらく、「蛇」に。
「しょうがない。無理矢理『奪う』しかなさそうだ。」
声を出そうにも、がくがくと震え、力の入らない体では舌を動かすことさえできない。
「『捧げよ』。」
体の奥底にある、「何か」が掴まれるような感覚。そしてゆっくりと引っ張られ、剥がされるような感覚。
「これでようやく…戻ってくる。」
意味の分からないことを呟く男。奇妙な感覚に耐えきれず、固く目を閉ざした。
「…ん?」
足音がする。真っ直ぐこちらに向かい、地面を踏み込み、飛び上がる音が聞こえる。
「レ、イ。」
辺りが明るく輝き、「闇」を切り裂く音が聞こえた。
「これはこれは…」
「…」
剣を構え、光をまとった彼女が、そこにはいた。
「レイ…どうし、て…」
「ゴメンナサイネ。今ハ『レイ』ジャ無イノ。」
そう言うと彼女は男に向き直る。
「懐かしいな…我が怨敵よ。」
「アナタ、マダ生キテタノネ。」
「たった数百年だ…目的のためならば、取るに足らない。」
会話についていけない。ただでさえ痛んでいた頭は、既に限界を迎えていた。
「貴様が出てきてはこの身体も役には立たんな。」
「ヤッパリ、『本体』ハ別ニイルノネ。」
視界が白む。まぶたがひとりでに落ちていく。
「まあいい。我も事を急ぎすぎた…全ては予定されている…貴様らが何を企てようが、運命は変わらんよ。」
「アナタガ、『運命』ヲ語ルノ?」
「ふっ…また会おう。『
空気が揺らぎ、漂っていた威圧感も消え去る。視界の端に映るレイを横目に、俺は深い眠りに落ちた。
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