第二章 芸術大国ペトリ
第12話 芸術の国
「ここが…芸術大国ペトリ…!」
街には音楽が鳴り響き、道の真ん中には優雅に踊る男女、建物や風景の絵を描く画家など、たくさんの人がいる。
ここは芸術大国ペトリ。俺たちは、明日からこの国で三日間行われる「芸術祭」にリオンの代表・国賓として来ている。
事の経緯は…
「ペトリの芸術祭に、俺たちを?」
「そうだよ。ライオットと話して決めたんだ。」
書類一つ一つに丁寧に判を押しながら、聖皇カーヴァ様は残念そうに息を吐いた。その机の前に、俺とエストとレイは立っている。
「先方から招待状をいただいててね…本来なら僕が行くのが道理なんだが…この通り急を要する仕事が山のようにある。行きたいのはやまやまだが、今年は君たちに任せることにしたんだ。ここにはいないが、レジリアに責任者として同行してもらう。」
浮かない顔の聖皇様はにこりと笑った。
「身構えなくていい。仕事である以前に『祭』だ。存分に楽しんできてくれ。土産話も期待しているよ。」
大聖堂を離れた後は、騎士団の本部へと向かった。
「君たちがいない間の業務はこちらで調整しておく。気にするな。」
「ありがとうございます。」
「出発は明日の朝だ。レジリアには私から声をかけておこう。」
「いや、それは自分で…」
「いい。レジリアは拠点をいくつも持つことで情報を管理している。やつも仲間とはいえ、簡単に知られたくはないだろうしな。」
そう言うと団長は真剣な顔になり、言う。
「カイン、旅先では気を付けろ。『教団』の連中がどこに潜んでいるかわからないからな。」
「『教団』…」
あの日、入団試験の時に現れた異形の動物…後になって聞いた話では自らを「教団」だと名乗り、俺を狙っていたらしい。…でも、いったい何を?
「お話中失礼しますが団長!彼を狙う者がいるのなら今は動かさないことが先決ではないっスか?」
エストの言葉に少し同意してしまう。国元を離れ、ましてや人の多い祭で何が起こるかはわからない。
「連中についての情報が少なすぎる。言い方は悪いが、彼には『餌』になってもらう。」
「でも、それじゃあ…」
「わかっている。ただ餌を与えるだけでは済まさない。こちらの損害はゼロで、事態を解決するための準備だ。そのための騎士団四人でもある。何より…」
団長は微笑んだ。
「カイン、君はもう騎士団員だ。自分の身は自分で守れ。」
背筋が伸びる。重圧、そして…期待。それが重くのしかかると同時に、嬉しさも覚えた。
「では以上だ。良い報告を待っている。」
その夜はなかなか寝付けなかった。初めての国外、そして祭というのも初めてのため、興奮しっぱなしだったのだ。
「随分ト楽シソウダナ。」
「『
いつの間にか、枕元には黒い蛇がいた。
「向こうでは絶対に暴れるなよ。」
「分カッテイル…『契約』ダカラナ。」
その言葉に反応し、体を起こす。
「そういえば『契約』って何だ?」
「…説明ガマダダッタナ。」
蛇はとぐろを巻き、布団の脇に座り込んだ。
「貴様ト結ンダ『契約』ハ単純ナモノダ。貴様ト俺、ソレゾレノ『願イ』ヲ叶エルコト…」
「『願い』…?俺はお前に願望なんて話したことないぞ。お前のも知らない。」
「話サナクトモ分カル。…ダガ、今教エルワケニハイカン。」
「どういうことだ。」
「来ルベキ時ガ来レバ話ス。」
「なんだよそれ…おい、ちゃんと説明しろっ…あれ。」
瞬きの間に、蛇の姿は消えていた。
「父上。」
「なんだ?」
フライハイト邸、父上の部屋に入る。そして、今日一日ずっと思っていたことを告げた。
「なぜ、私も?」
騎士団の業務はたくさんある。四人もいなくなるとなっては支障がでるのはもちろん、安全面もいっそう気を付けなければならないはずだ。
「…理由は二つある。一つはカインの暴走を食い止めれる可能性があるのは私と聖皇様以外でお前だけだということ。もう一つは…まあ、ちょっとした『息抜き』だ。」
「『息抜き』…?」
「ああ。最近、集中力が保てていないからな。」
図星を突かれて頬が強張った。
「焦るのもわかる。だが『教団』の全容が見えない今は余計な心配だ。大事なことを見失うな。私たちは『騎士団』だ。」
「…わかりました。」
部屋を出る。やはり見抜かれていた。つくづく父上には敵わない。
結局その日は素振りを少しして眠った。
「それじゃあ、行こうか!」
朝から元気なレジリアさんについて馬に乗る。乗馬訓練はしたものの不慣れな俺とエストに合わせて移動したため、到着は昼頃になった。
「ここが…芸術大国ペトリ…!」
祭が近いからだろうか。大勢の人でにぎわい、街は華やかに飾り付けられている。
「ようこそお越しくださいましたわ!」
門をくぐった先に待っていたのは、金の刺繡が施されたドレスを身にまとったお嬢様と一糸乱れぬ姿で隣に立つ執事だった。
「初めまして、
「お初にお目にかかります。私はヤーレンお嬢様の執事をさせていただいております、タキスタム・トリッジと申します。以後お見知りおきを。」
「ヤーレンさん、タキスタムさん、出迎え感謝します。私はレジリア・カンタレラ。後ろの三人はレイ・フライハイト、エスト・グラムライズ、そしてカインです。」
レジリアさんが前に出て挨拶をする。普段のお茶目な姿と違って、風格を感じる挨拶だった。
「既に宿泊施設は確保しておりますわ。どうぞこちらに。」
ヤーレンさんについて街を歩いていくと、あらゆる人たちが歓迎してくれていた。
「ようこそペトリへ!」
「見て!リオンの騎士団よ!」
「はぁ~かっこいいわねぇ!」
その歓迎ぶりは嬉しかったが、少し気恥ずかしくもあった。
「ヤーレンさん、私はここの出身でして、両親に一目でも会いたいのですが…」
「あらそうでしたの!それでは『お帰りなさい』が正解でしたわね。どうぞお構いなく!一目と言わず何時間でも家族でお過ごしくださいな!」
そうこうしてるうちにホテルについた。荷物を置き、一度集合する。
「夜には前夜祭の演目でヤーレンさんの劇団が公演をするそうだ。それまでは自由行動でいいかな。それとも僕についてくるかい?面白いものが見れるよ。」
「私は遠慮します。少し街の様子を見て、警備状況を確認します。」
「相変わらず真面目だねぇ~エスト君は?」
「俺も街を見てくるっス!屋台とか、美味しそうなのもありましたし!」
確かに道中には早くも屋台が立ち並び、香ばしい匂いを漂わせていた。
「そうかぁ~カイン君は?」
「俺は、ご一緒させていただいてもいいですか?」
「うん、もちろん!じゃあ日没までにここに集合で!解散!」
こうして、俺たちの公務であり「休暇」は幕を開けた。
胸が高鳴り、期待で満ち溢れていく。
この先に待つ出来事も知らずに…
ジアムートの王宮では、皇帝ゲトウィンのもとに「教団」の五人が集まっていた。
「彼はペトリに行ったようだ。丁度、芸術祭の期間とも重なる。」
「ペトリか~」
「そういえば、ベノフの出身はペトリだったな。」
「人が多いところだし、派手に暴れるのは難しいでしょうね…」
「隠密と奪還が、最善策…」
「…」
五人の様子を見て、玉座に座る男は呟く。
「彼が例の『力』を所持していることが判明したため、今回も身柄の確保を目標とする。今回は…」
「教主様~僕が行ってもいい~?」
ベノフが手を挙げ、発言する。その異様な雰囲気にゲトウィンは笑った。
「…いいだろう。今回はベノフに任せる。」
「ありがとうございま~す。」
「向こうには奴もいる…良い結果を期待している。」
ゲトウィンは玉座から立ち上がり、高らかに叫んだ。
「健闘を祈る…『全ては神の復活のために』。」
「「「「「『全ては神の復活のために』。」」」」」
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