第11話 襲撃 そして、結末
騎士団入団試験は二人の合格をもって終わり…そのはずだった。
「おい見ろよ、なんかでっけぇ鳥が飛んでるぞ!」
「でかい鳥?どうせ鷹とか鷲とかそのへん…何だあれ…」
闘技場の上空に羽ばたいていたのは、異形の生物。
「いや…良かった…!」
「どうしたのラーベルク。さっきまで青白い顔してたのに!」
「レジリア君〜良かったよ〜」
「何で泣く!?」
空気が緩み、わずかに警戒が解けた。その瞬間を…
彼は、見逃さなかった。
「ライオット!」
いち早く気づいたラスニアが怒鳴る。そこで初めて彼は上空の『化け物』の存在に気がついた。
鋭い牙と爪を持ち、頭には大きな一対の角がある。真っ直ぐ急降下してくる彼の狙いは…
「カイン君か!」
「その男を渡せ。」
「何者か知らんが、渡すわけが無いだろう…ジャック、迎撃態勢!」
「あいよ!」
観覧席から飛び降りた大男は拳に力を溜める。
「『弟子』の活躍を見てこっちはウズウズしてたわ!食らいやがれ…『
拳を放つと同時に、凄まじい空気の圧が敵を襲う。
「ぐっ…小癪な!」
敵も身を翻してダメージを最小限に留め、地面に降り立つ。
「『
爪のある鳥の足は、瞬く間に肉食獣の足へと変わった。
「レイ!」
「分かってます!」
「『
鳥の小さな手は、大きな爪を持つ手へと変わった。
「どけ。」
「なっ…!」
レイを吹き飛ばし、その手はカインに伸ばされる。その時、
「『
ラスニアの手から出てきたのは、小さなトカゲ。だが頬を膨らまし、そこから放つ炎は一瞬にして歪な獣を包んだ。
「獣なんだ…火は嫌いだろう?」
「ぐあぁぁぁっ!」
苦悶の表情を浮かべる敵。その隙にライオットはカインを抱えて逃げる。
「さて、お前は何者かな?見たところ『獣人』のようだが。」
「エルフのラスニア…貴様に用は無い。」
「そうかい、でもこっちにはあるんだ。情報を吐いて貰わなきゃだからね。ああ心配しなくて良い。死にゃしないから。」
「…!」
「『
どこからともなく声が響いた。
「『戻って来い。』」
「…仰せのままに。」
「おい待て!」
「貴様ら、覚えておくが良い。我らは『教団』。腐りきったこの世界に、真の『平和』をもたらす者だ。」
「『教団』…!?」
「さらばだ…『
敵は腕を翼に変化させ、炎を振り切り羽ばたく。
「逃がすか…カロニア!」
「了解っす姐さん!『
「同じような『能力』…だが、私には遠く及ばない。」
迫るカロニアを足の爪ではたき落とす。
「ぐあっ!」
「我らは『教主様』に特別に『権能』をいただいた者。貴様らのような下等な『能力』と一緒にするな!」
「カロニアさん!」
近くにいたラクティカが、落ちて来た彼をキャッチする。
異形の生物は少し傾き始めた日差しの中を、恐るべき速さで飛んでいった。
「はぁっ!…ぐっ…痛…」
「カインさん!気がつきましたか!」
「ここは…?」
「病院です。カインさん、試験後に倒れてたんですよ。」
広い病室でゆっくり体を起こし、渡された水を飲む。冷たい水が、乾いた喉に染み渡った。
「…そうだ、試験は!?俺は…」
「大丈夫です。合格しました。」
その言葉を聞いた途端、ふっと体の力が抜け、ベッドに倒れ込んだ。
「カインさん!?」
「良かった…ほんとに…良かった…!」
涙が止まらない。拭っても拭っても溢れ出てくる。
「怖かった…でも、生き延びた…!」
「カインさん…改めて、おめでとう。そして、ようこそ。」
差し出された手を握る。涙を拭き、彼の目を見た。
「はい。これからも、よろしくお願いします。」
騎士団本部の執務室。
「レイ、分かってるな。」
「…はい。」
「おいおいライオット、そんなに怒らなくたっていいだろ。別に死者が出たわけでも無いし…」
「違います、ジャックさん。」
団長の目を真っ直ぐ見つめる。
「『教団』ですよね。」
「ああ、明らかにあの時のお前は状態がおかしかった。」
「どういうことだ?」
唇を噛む。
「今日のレイはらしくないミスをいくつもしていた。さらに、剣の振りも雑だった。」
「そんなことか?調子悪かったとか…」
「ありえません。体調は常に万全にするようにしています。ですが今日は、怒りに身を任せていた節がありました。普段なら絶対にしないことです。」
「話が見えないな…」
「操られてた可能性があるってことだ。」
団長は立ち上がった。
「おそらく弱い力だが…精神を操る、もしくは感情につけいって操っていると思われる。」
「そんなことができるのか…」
「あらゆる危険性を考慮しておくべきだ。…『教団』が関わっているなら、尚更…」
「ラスニアさんも、あの獣人の襲撃は嫌な予感がすると…」
獣人はこの国からかなり東に行ったところにあるイオフィリア森林を住処とする種族で、人間と動物を合わせたような見た目をしている。エルフ族とも交流があるが、人前に姿を見せることは無かった。
「真相は闇の中、だな。」
「そもそも、襲撃の理由は何だ?心当たりは?」
「…」
団長は窓の外をじっと見つめていた。
「団長?」
「…いや、確証は持てない。引き続き、原因究明を頼む。」
「わかった。ほら、レイ嬢も行くぞ。」
「は、はい…」
静かに部屋を出る。何も読み取れないその表情が、やけに脳裏に残った。
「カインさん!早くしないと遅れますよ!」
「ちょっと待ってください!この服…違和感しかなくて…」
「最初は誰でもそんなものです!行きますよ!」
純白に輝く制服を着て、大聖堂に向かう。
「あ、レイ。」
「遅い。エストは既に来ているぞ。」
「カインさーん!こっちっス!」
レイからは直接謝罪を受けた。いくら俺が「罪人」だったとしても、やりすぎだったと。もちろん反応に困ったが。
エストにも感謝を述べた。彼はあれだけレイとやりあっても傷一つ無かったらしい。素晴らしい人材だと街でも評判だった。
「あ、儀式始まるっスよ!」
少しすると聖皇様が現れ、俺たち二人は姿勢を正した。
「エスト・グラムライズ、騎士団第十席に任命する。」
「拝命します!」
「そしてカイン、騎士団第十一席に任命する。」
「拝命します!」
「優秀な君たちの活躍を、祈っているよ。二人に神のご加護があらんことを…」
エンブレムが胸に付けられ、初めてその重みを知った。これからは、この重みに恥じない人間であり続けなければならない。
「カイン、君の努力は神に認められた。誇りなさい。エストもね。」
「「はい!」」
こうして、正式に騎士団に入団し、街の人たちからも受け入れられるようになってきた。まだ警戒心と興味の目は向けられているが。
だが、この数週間で「折れない心」を手に入れた。どんな逆境にも負けない、強い心を。
「生きてやる…!生きて生きて、生き延びてやる…!」
「コレデ一段落ッテトコカ。」
強力な「力」も手にした。
「言ッテオクガ慣レ合ウツモリハ無イ。アクマデ『契約』ダ。」
「ああ、分かってる。」
「…フン。」
街に差す暖かな日差しと柔らかな風を感じ、これからの人生に思いを馳せる。
次は、どんなことが待っているのだろうか。
その頃。
「申し訳ありません、教主様。」
「仕方ない。あのままでは捕虜…最悪、死だった。」
「手段を選ばなければ、奪還も可能でした。」
「気概は買う。だが、『来たるべき日』まで待て。」
「…失礼しました。」
角の男は深く頭を垂れ、広間を退出する。
「やぁやぁ。お疲れ〜」
「ベノフか…」
回廊には、軽薄そうに笑う男の姿があった。近づき、胸ぐらを掴む。
「邪魔をするな。」
「え〜なになに、何のこと〜?」
「とぼけるな。」
強く突き放す。男は体勢を整え、危ないと言うように手をひらひらさせた。
「騎士団の若い女…お前が操っていただろう。」
「…バレてた?」
男は悪びれもせず舌を出した。
「でもほんのすこぉ〜しだよ?『精神』が怒りで揺らいでたからちょ〜っと手を加えただけ。最後だって振り切られたし…やっぱりあの団長さんバケモンだよねぇ〜」
「そこではない。」
「え、だったら何?」
距離を詰める。
「あれは私に任された任務だ。貴様のくだらん欲求解消に付き合わせるな。」
「あ〜そういうこと?ごめんね?」
「…次は無い。」
最後にひと睨みし、そのまま回廊を歩いていった。
「相変わらずの狂信っぷりだね〜」
残された彼は一人呟く。
「まあ、僕も人のこと言えないか。…失礼しまぁ〜す。」
「ベノフか。」
「国民のみなさんがお待ちかねですよ〜」
「ああ、行こう。」
玉座に座っていた彼は立ち上がる。広間を歩き、バルコニーに繋がる扉を開けた。
「帝王様〜!」
「この前助けていただいたうちの子供、すっかり病気も良くなって…ありがとうございました〜!」
下には大勢の国民がひしめき合っていた。皆、彼を羨望の眼差しで見つめている。
ここは北方の国、ジアムート。
そして彼の名は…
「やあ皆さん。ジアムート帝国王、ゲトウィン・ドラグノフです。」
湧き立つ観衆を前に、彼は不敵に笑った。
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第一章、これにて完結です!
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。
ここからもっと面白くなる予定なので、続きを見たいという方はぜひユーザーフォロー、小説のフォロー、レビュー・応援をよろしくお願いします!
ではでは、またの機会に。
―Eshi
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