第10話 打開策

「何と…」

「これはどう考えても無理でしょう…」


観覧席も先程から困惑に渦巻いている。予想した通りだ。


「ライオット、これはいわゆる『ふるい』かな?」

「そうです。若者たちの士気が上がり、大勢が騎士団を志望してくれるのはありがたいことですが…『同年代』の『少女』が入団したということで受験者に、この試験、ひいては騎士団を軽視しているような節がありました。」


隣に座る聖皇様を見て答える。


「ここで、『差』を痛感して欲しかった。彼女にあって、彼らに無いものを。」

「…君なりの優しさってところだね。でもこれじゃあ、今年の合格者は出ないんじゃない?」

「そうでもないようですよ。」


闘技場を見下ろし、少し笑みを浮かべる。


「二人ほど、面白い受験者がいます。」




突然聞こえてきた声に困惑する。


「『力』ガ要ルンダロ?」


迷いが生まれた。死にたくないと思ったからだろうか。決意が揺らいだ。


だがその時、


「ぬおぁぁあああ!」


命を狙う少女の剣はある男の腕によって止められた。


「やっぱとんでもない威力っスね!」

「…少しは骨のある奴がいたな。」


そう言うとレイは少し距離をとった。


「君はさっきの…」

「エストっス!あなたの名前は?」

「え、カイン…ってか、そんな場合じゃ…」

「この状況、打開するっスよ!ついてきてくださいっス!」


そういうとエストは地面を蹴り、真正面から彼女に突っ込んだ。レイも再び剣を構える。


「おい、危な…!」

「『守護者ガーディアン』、『スケイル』!」


レイが突き出した剣先は彼の体には当たらず、逆に弾き返した。レイは少し驚いたような表情を見せる。


「うらぁああ!」

「ぐっ…」


その勢いのままエストは彼女に突撃した。


「今っスよ、カインさん!」


その言葉に弾かれるように地面を蹴る。折れた剣を拾い、そのまま体勢を崩した彼女に…


「『聖なる鎧アーマー』。」


強烈な光に目がくらむ。その一瞬を逃さず彼女は近づき、俺の体に手を当てた。


「『聖なる波動ストライク』。」


背中に強い衝撃を感じた。視界が揺らぐ。


「な…?」


ずいぶん遠くに二人の姿が見える。


「闘技場の、端…?」


背中に感じた衝撃は、吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられた衝撃だった。


「いいぞ!もっとやれ!」

「その汚い服、どうせ平民だろ!さっさと引っ込め!」


野次もずっと近くで聞こえる。集中力が途切れたせいだろうか。


「痛い…」

「ダカラ『力』を貸シテヤルッテ言ッテルダロ。」


蛇の声も聞こえる。


「そうやって俺の体を乗っ取るつもりなんだろ。」

「否定ハシナイ。」

「はっ…」


かすかな笑いが漏れる。地面には背中から出た血が広がっていた。


「ダガ、コノママデハ死ヌゾ。ソレデ良イノカ?」


その言葉に体が、いや、が反応した。


「良いわけ…無いだろ…!」


膝を立て、痛む背中を無視して無理やり立ち上がる。


「生きるんだ…生きて…」


また、の毎日を…


「ソレガ貴様ノ『願イ』カ。」


腕に張り付く感触に覚えがあった。


「良イダロウ、『契約』ダ。」

「何…?」

「耐エテミセロ。話ハソレカラダ。」


蛇は首を伸ばし、そのまま首筋に…


「『絶望ディスペア』。」


噛みついた。




「たぶん、カインさんはまだ諦めてないっスよ。」

「それがどうした。あの一撃は致命傷だ。もう戦闘不能、失格に…!」


気づいた。凄まじい邪気、轟音…あの夜と同じ。


「正体を表したな。」


そこにいたものは、もはや人間には見えなかった。


体からは無数に蛇が、黒いオーラをまとい、禍々しい雰囲気を放っていた。


「『黒い蛇』…!」




「逃げろ!ここはもう駄目だ!」

「お願いです!子供には手を出さないで!」

「おしまいだ…みんな死ぬんだ…」


目の前で無造作に奪われる命。どうすることもできず、ただ眺めていることしかできなかった。


「貴様ハ、何ヲ望ム?」


目の前の白と黒が混じった蛇が言う。は、それに答えた。


「みんなを助けたい。」




「無事カ?」

「なんとか…!」


蛇の力が暴れ出さないよう、必死に押さえつける。どうやっているのかは全くわからない。全て感覚だ。


「後ハ貴様ノ好キニシロ。ドウセ一瞬シカ保タン。」

「ああ。」


真っ直ぐレイを見据え、足に力を込める。


「…ありがとう。」


地面を蹴った。


「来い!『化け物』がぁぁ!」


彼女も剣を構え、地面を蹴る。


「『絶望ディスペア』。」

「『閃光フラッシュ』!」


闇をまとった拳と、光をまとった剣。相容れない二つが、一瞬のうちに交わった。


瞬間、とてつもない轟音と衝撃波が闘技場を襲った。


結果は、一瞬で決まった。


力を使い果たし、男は倒れ込む。


だが、


彼の拳は、彼女に届いていた。


「…!」

「決まりだな。」


いつの間にかレイの隣にはライオットがいて、彼女を制していた。


「今回の合格者はエスト・グラムライズ、そして…カイン、この両名である!これにて、騎士団入団試験を終了とする!」


どよめく会場。中には毒づき、大声を出す貴族もいた。


「父上!まだ終わってません!まだ他の受験者も…」

「見なさい、レイ。」


レイは周りを見渡す。そこに立っている受験者は、もはやいなかった。


「すぐに手当てを!」


波乱の入団試験は、こうして幕を閉じた。

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