「KAC20242」この家の売りはですね、人間関係が改善されるんですよ。あ、でも内密にお願いしますね。

シーラ

第1話




「え〜、という訳で。こちらのガラスは西洋から取り寄せた……」


高級住宅の内見会に夫と来ている。タキシードを着た白髭の似合う案内人は、こちらを見ようとせず。淡々と語りつつ先を歩いていく。


『勝手に扉を開けない』


こう説明されているが、夫は出会った頃から人の話を聞かない。何かやらかすのは明白だ。

案内人が通路の角を曲がり見えなくなった所で、夫は近くの茶色い扉のノブに手を掛けた。


「やめなさいよ。」


「うるせえよっと…えっ…?」


夫が扉を開けた先には、広大な砂漠が広がっていた。熱気も感じられる。


「夢じゃない、よな。こ、こっちは…うおっ!す、すげぇ!」


こうなると、夫を誰も止められない。隣の緑の扉を開けると、ジャングルだった。


「マジかよ!こんな事ってあるか?つぎ!次はどうなんだ!」


夫が青い扉を開けると、一面の海が。波飛沫が廊下を濡らす。


「うひょ〜!!つめてぇ!!おい、お前飛び込んでみろ………あっ。」


私は夫の背後にサッと周り、背中を突き飛ばして扉を閉めた。


心の中に長年溜め込んできたモノが、一気に消える感覚。清々しさ。言いようの無い高揚感が身に染み渡る。


「いかがでしたでしょうか?」


角から案内人がヒョッコリと顔を出してきた。私は満面の笑みを浮かべる。


「なんて素晴らしいのでしょう!気に入ったわ。」

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「KAC20242」この家の売りはですね、人間関係が改善されるんですよ。あ、でも内密にお願いしますね。 シーラ @theira

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