第8話リベンジ大作戦①
祭の話が一通り終わると、シチローが呆れた顔で締めくくった。
「なるほどね…それで、来週行われる『秋祭り』の時にスーパーティッシュで作った網を使って、その金魚掬い屋にリベンジしようって考えた訳だ」
これで、すべての事柄の辻褄が合う。なんの事は無い…産業スパイなどというものは、最初から存在していなかったのだ。ただ単に、花紙王子製紙の一社員が夏祭りに被った屈辱を晴らす為に、開発中のスーパーティッシュをほんの少しだけ拝借しただけに過ぎない。
「まあ、何にしてもこれで私達の仕事は無事終了ね」
子豚は既に、携帯で事務所近くの居酒屋へと打ち上げの宴会の予約を済ませていた。
「あのぅ…それで、私はどうなるんで?…まさかクビなんて事…」
そう言って不安そうに尋ねる祭の肩を叩いて、シチローが答えた。
「まあ…今回の事はしっかり花水部長に報告させて貰うけれど、実際産業スパイでは無かった訳だから…さしずめ、減給3ヶ月ってところだろうな…」
その言葉を聞いて、祭もほっと胸を撫で降ろす。
「それじゃあ~あとは祭さんが、あゆみちゃんとスーパーティッシュの網で金魚たくさん掬って、めでたしめでたしだね」
おしまい☆
…な訳がない。
「ちっともめでたくなんか無いわ!」
そう叫んだのは、てぃーだだった。
てぃーだの真意が分からない祭は、不思議そうな顔で聞き返す。
「えっ…何か問題でも?」
「祭さん!アナタ、そんなインチキな網使って金魚たくさん掬ったとしても、アナタの娘のあゆみちゃんが喜ぶとでも思ってるの?」
「そ…それは……しかしですね、今のままではまた一匹も掬えずに…」
そんな弁解をする祭に、てぃーだは苛ついたようにテーブルを叩いて語気を強めた。
「情けないわね!特訓しなさいよ!
あと一週間あるでしょ!…そんな、一時凌ぎのインチキでその場を収めても、あとで真実に気付いて傷つくのは、あゆみちゃんなのよ!」
てぃーだの重い言葉に、祭もシチロー達も、己の浅はかさに深く反省した。
「確かにティダの言うとおりだよ、祭さん。まだ一週間あるんだ!
オイラ達も協力するから、特訓して正々堂々と金魚を掬ってやろう!」
そう言って、シチローも祭に笑顔で協力を約束した。
「よ~しそうと決まったら、今夜はみんなで居酒屋で決起集会だぁ~」
子豚とひろきはといえば、そんな事を言って肩を組んで拳を上げている。
「なんで居酒屋なんだよっ!」
「だって、もう予約しちゃったもんね~」
「一週間しか無いのに…」
そんな訳で…特訓は翌日からになりそうだ・・・
♢♢♢
そして翌日…
この日から来週行われる秋祭りまで、シチロー達は祭親子が金魚をしっかり掬える為に特訓の手伝いをする事となった。
「ところでシチロー、誰が祭親子に金魚掬い教えるのよ?」
子豚の質問に…
「ティダが教えるらしいよ…ティダ、金魚掬いが結構得意らしいんだ」
昨日の倉庫に底の浅い広めな水槽と金魚掬いの網を用意し、朝、淡水魚店で買って来た金魚を放して準備は万全である。
「…で?ティダはどこ行ったの?」
「何か持って来る物があるとかで、少し遅れるらし…」
ひろきの質問にシチローがそう答え終わる前に、倉庫の扉が開いてスポーツバッグを肩に背負ったてぃーだが姿を現した。
「お待たせ!それじゃ、始めましょうか」
「てぃーださん!宜しくお願いします!」
「おねがいします」
祭と娘のあゆみは、てぃーだに向かって深々と頭を下げた。
「こんにちは~あゆみちゃん、金魚たくさん掬えるように頑張ろうね」
「ハ~~イ」
あゆみの頭を撫でながら、にっこり微笑んでそう言ったあと、てぃーだの表情は引き締まった。
「何しろ、時間が無いわ!…まずはアタシが『お手本』を見せますから、二人共よく見ててね」
てぃーだは、金魚すくいの網とお椀を持つと水槽の前に立ち、腕捲りをして水面をじっと睨み付けた。
次の瞬間。
「ハッ!!」
シュン!シュンシュンシュンシュンシュンシュンシュン!
「…とまあ、こんな感じで…」
「えっ・・・・・?」
ほんの4~5秒だったろうか…
気が付いた時には、既にてぃーだの持つお椀の中には十匹近くの金魚が泳いでいた。
「祭さん…今の見えた?」
「いや……速過ぎてまったく……」
「ええええええ~~っ!何それぇぇぇ~!!」
ティダ・・・
どんだけ~~!!
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