第6話露呈

チャリパイの四人が建物の中に入ると、そこに人の気配は無かった。やはり、建物の中は既に祭が去った後のようだ。


「誰もいないな……それにしても、これは何なんだ?」


小さな窓からわずかに陽の光が差すだけの薄暗い部屋には、祭りの出店で売っているお面や玩具の類い、御神輿のレプリカ等…


「こんな物を保管する為にわざわざ倉庫借りてるのか…祭は・・・」

「社内で『お祭り男』って言われてるのも頷けるわね…」


しかし、これらの物は単なる祭の趣味の範疇はんちゅうで、これでは祭が産業スパイだという証拠にはならない。


「きっとこの中に依頼の手掛かりとなる物がある筈だ!もっとよく探してみよう」


4人は、手分けをして部屋中の捜索を始めた。すると、お面が並んで括り付けられている板の裏側に、お祭りとは関係の無い機械の様な物が有るのを、てぃーだが発見した。


「シチロー!これっ!」


その小型機械の脇には、あの『スーパーティッシュ』のロールがセットされている。

どうやら、この機械を使って、『スーパーティッシュ』から何かを作っているようだ。


「やっぱり、祭の奴『スーパーティッシュ』をスパイしてここで何か作ってやがったんだ!」

「この機械が、何よりの証拠ね!」


これで、祭が花神王子製紙をスパイしていたのは確実となった。


祭の尾行には失敗したものの、こうして動かぬ証拠とをつきとめる事が出来たのだ。


「あとは、祭りのバックにいる黒幕をつきとめるだけだ!」


しかし……喜んでいるのも束の間だった。


突然、部屋のドアが開き油断したシチロー達の前に、祭が現れた!


「どうも工場が騒がしいと思ったら、厄介な『お客さん』がいらしてたようで」

「祭!!お前出掛けたんじゃなかったのか!」

「いや…コンビニに弁当を買いに行ったついでにマガジンを立ち読みしていただけだが…」


祭の左手には、コンビニの袋が下げられていた。


「祭!お前が産業スパイだって事はとっくにバレてるんだ!こうなったら作戦変更!祭を捕まえて黒幕を吐かせるぞ!」

「こっちの方が人数多いんだからね!」


シチロー達は祭を睨みつけるが、祭は何故か余裕の表情を見せている。


「お前達誰だか知らないが…この現場を見られたからには、すんなりここから帰す訳にはいかないからな」


そう口にする祭のもう片方の手には、どこで調達したのか、回転式の小型の銃が握られていた。


「クッ!…銃なんて持ってたのか!」


チャリパイ、絶対絶命のピンチ!


祭に銃を突きつけられ、シチロー達に緊張が走った。


薄暗い部屋の中では、勝ち誇ったような祭の高笑いが響いた。


「ハッハッハ残念だったな。ほら、お前達、三人共おとなしく両手を挙げろ!」


(あれ、三人…?)


(え~と…オイラに、てぃーだに、コブちゃんに…ひろきで四人だよな……)


両手を挙げたシチローが、そんな事を不思議に思っていたその瞬間だった!

いきなり、黒い塊が銃を構えた祭に向かって飛びかかったのだ!


「タァァッ!『モジモジ君アタック』!」

「うわあっ!なんだお前!!」


いきなり飛びかかる子豚に対する、祭の驚き様といったらなかった。


なんと祭は、薄暗い部屋で黒い全身タイツを着ていた子豚の存在に、全く気付いていなかったのだった。


正確には、目には映っていても、まさか全身タイツの人間がこの場に居るという事実を、祭の脳が認識していなかったともいえる。


「今だ!かかれ!」


一瞬のスキを突き、シチロー達は一斉に祭に飛びかかり、あっという間にロープで縛り上げてしまった!


「まさか、『全身タイツ』の人間がいるなんて思いもよらなかった…てっきり置物か何かだと…」

「全身タイツが役に立ったね、コブちゃん」


何が幸いするかわからないものである。


最初の計画では、祭を極秘に尾行しそのバックに付いているであろう黒幕をつきとめる筈だったが、こうなったからには直接祭の口を割らせるしかない。


「さあ!白状しろ祭!お前は誰に頼まれて産業スパイなんてしているんだっ!!」


さっきまで銃を突きつけ高飛車な態度をとっていた祭だったが、今はシチロー達にロープで椅子に縛り付けられ、すっかり萎縮してしまった。しかし…それでも祭は、シチローの見解に対しては真っ向から否定していた。


「ふえ~~ん!違いますよぅ~!私はスパイなんかじゃありませんってぇ~!」

「今さらしらばっくれてもダメよ!アンタがこの場所にあの『スーパーティッシュ』を持ち込んでるのは判ってるんだから!」


今回お手柄のモジモジ君…いや、子豚も祭に対して追及の言葉をぶつける。


そして、ひろきも。


「大体、普通のサラリーマンがこんな銃なんて持ってる訳無いでしょ!これこそ決定的な証拠だよ!」


そう言って、祭から取り上げた回転式の銃をシチローの方に向ける。


「バ!バカ!こっち向けるな!オモチャの銃じゃないんだぞ!」


シチローが慌ててひろきから銃を取り上ようとするが、ひろきは面白がって渡そうとしない。


「危ないから、貸せっ!」

「やだ!」

「貸せってのに!」

「やだも~ん」


やがて揉み合いになり、事態はとんでもない事になった!


シチローに取られまいと銃を強く握ったひろきは、誤って至近距離でシチローの腹部を向いた銃の引き金を引いてしまったのだ!


バア――ン!


「キャア――!シチロ――!」


膝をついてうずくまるシチローの姿を見たひろきは、顔面蒼白になった!


てぃーだと子豚も、信じられないという表情でシチローを見る。


ひろきの前でうずくまったシチローの顔がゆっくりと上がり、ひろきの方をキッと睨んだ。


「…なっ…………」



「なんじゃいこりゃあぁぁ~!!」


松田優作の真似では無い。


てっきり腹に一発食らったと思ったシチローは、全くの無傷であり、その指先は、ひろきの持つ銃に向けられていた。


「それ!オモチャの銃じゃね~かっ!」


床に散らばるたくさんの紙吹雪、そして銃口から飛び出したアメリカ合衆国の旗……


椅子に縛られた祭が、ボソリと一言呟く。


「それは、去年の夏祭りの出店で買った『ドッキリピストル』という、オモチャのピストルでして…」


祭って…もしかして、スパイでは無いのかも?


「祭!!てんめぇ~オモチャの銃でオイラ達を脅してたのかっ!」


結果的にはそのおかげで命が助かったのだが、こんなオモチャの銃に振り回されていた事が、シチローにはどうにも腹立たしい。


「本物の銃なんて持ってる訳無いでしょう!

私は普通のサラリーマンなんだから!」


祭は、自分はあくまでも潔白だと言い張る。


「だとしたら、これはどう説明するのよ!」


すかさずてぃーだが、お面の並んだ板の裏にあった機械を指差して言った。


そう…祭が潔白だと言うのなら、何故この倉庫にあの『スーパーティッシュ』が存在するのか?


「そ…それは………」


『スーパーティッシュ』の事を持ち出され、祭は急に口ごもってしまった。


「ほら見ろ!やっぱりお前が産業スパイなんじゃないか!」

「言い逃れ出来るもんならしてみなさいよ!」

「さっさと白状しなさい!」

「アンタが産業スパイなんでしょ!!」

「……………」


ここまで来れば、祭が口を割るのも時間の問題であろう。


そして、一度祭が産業スパイだと認めてしまえば、裏で繋がっているであろう組織についても隠し通す事など出来るものでは無い。


「さあ!祭!いい加減にすべて隠さずに白状するんだ!…さもなければ……」

「さもなければ?」


「お前のコレクションのこの御神輿に、からな」


油性マジックを持ってニンマリと笑うシチロー達4人の姿に、身動きの出来ない祭は泣きそうな顔で哀願した。


「わあぁぁぁ~っ!

わかりました~!全部話しますから、それだけは勘弁して下さい~!」


『お祭り男』の祭に対して、これほど効果的な方法はない。


しかし…ちょっと姑息なやり方と言えなくもないが……
















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