第4話新開発のティッシュペーパー
花神王子製紙開発部長の花水は言っていた。
『そのままひと拭きでお化粧もスッキリ、吸水性も抜群で濡れても決して破れない』
手触りは、紛れもないトイレットペーパーである…いや、むしろそれ以上にソフトで高級な感触だ。
古紙回収で汚れた手をその紙で擦ってみると、その汚れは、ひと拭きできれいに落ちる。
しかし、その紙を破ろうとすると、これがすこぶる頑丈でなかなか破れないのである。
「間違いない!これ新開発のティッシュペーパーってやつだ!」
ひょんな事からスパイの手掛かりを見つけ出したシチロー!
ちり紙交換なんかやっていて、果たして依頼を遂行する事が出来るのだろうかと思ったが、何が幸いするか分からないものである。
一方、接待ゴルフ課の子豚とひろきはどうしただろう?
接待ゴルフ課。ゴルフ後の会長との接待食事会……
「いやぁ、面白いなキミ達~さあ、もっと飲みなさい」
「接待されてたりして」
♢♢♢
シチローは置いてあったトイレットペーパーを
1つ持ち出し、その場を離れた。
「ティダはどこに行ったんだ?お~い!ティダ~~!」
「シチロ~~!」
程なく、トラックで敷地内を一回りしてきたてぃーだが、タイミング良くシチローの前に現れた。
「やっぱり置き場は、あそこ一カ所しか無かったわ。シチロー、何かわかった?」
「よく聞いてくれた!これ見てくれよ」
自慢げにシチローは、手に持ったあのトイレットペーパーを、てぃーだの前に差し出した。
「ちょっと待ってシチロー…あれ、スゴイ車!」
少し得意気にこの手掛かりの品の解説をしようとしたシチローの出鼻を挫き、てぃーだが会社の正面玄関を指差して声を上げた。
そこには、どんなセレブが乗っているのだろうかと思わせる程の超豪華な黒塗りのリムジンが止まっていた。
「スゲー車だな…一体誰が乗ってるのかな?」
そのリムジンの運転手が降り、外からゆっくりと後席の方にまわると、両手を添えてそのドアを開ける。
「あ…あれは・・・」
黒塗りのリムジンの後席から降りて来たのは、会長、そして子豚とひろきだった!
「あの2人!なんでVIP席になんか乗ってんだよ!」
「じゃあ~またね~会長~」
「また飲もうね~」
花神王子製紙の創立者『花神泰造』会長に向かって、すっかりタメ口で笑いかけ手を振る子豚とひろき。
その不思議な状況に、思わずシチローとてぃーだも駆け寄って来た。
「どうしたんだよ?コブちゃん、あんな車に乗って」
「いやぁ、接待ゴルフの後の食事会ですっかり会長と意気投合しちゃって…好きな物頼んでいいって言うから~」
「高級ワインとビール飲んじゃった」
シチローとてぃーだがエアコンの壊れたトラックに乗って悪戦苦闘している時に、子豚とひろきの2人は高級料理店で飲めや食えやの大騒ぎをしていたと言うのだ。
「キミ達が接待されて、どうすんだよ…」
「上司の人は、どうしたの?」
「課長は、急に気分が悪くなって途中で帰ったよ」
「それで、ゴルフは?」
「私が勝ったわよ!」
満面の笑顔で得意そうにそう答える子豚。
シチローとてぃーだは、呆れ顔で互いの顔を見合わせた。
「課長さんが気分悪くなったの解る気がする…」
「それで、そっちはスパイ見つかったの?」
ひろきに尋ねられ、シチローは思い出したようにあのトイレットペーパーを皆の前に差し出した。
「そう!その事なんだけど…みんな、これを見てくれ」
てぃーだ、子豚、ひろきの三人は、不思議そうな顔でそのトイレットペーパーを凝視する…
「なによ…普通のトイレットペーパーじゃない…」
「そう、見た目は何の変哲もないトイレットペーパーなんだけど…コブちゃん、この紙を破いてみなよ」
「破くって…こんなの破いて……って、あら?何これ!破れないじゃない!」
シチローからそのロールを受け取った子豚は、そこで初めてその紙質の異常に気が付いた。
「シチロー、まさか…」
子豚の様子を見て、てぃーだはすぐに何かを察したようだ。
「そう!これは間違いなく、花水部長が言ってたあの新開発の“破れないティッシュ”だよ!」
シチローが得意顔で断言する。
「え~っ!こんなのトイレに流したら、詰まっちゃうよ~!」
「花神製紙って、何考えてるのかしら……」
しかし、子豚とひろきには、この状況がいまいち理解出来ていないようであった。
思いがけない場所でシチローが見つけた新開発の“破れないティッシュ”……
早速シチロー達は、この事実を開発部長の花水に報告する事にした。
花神製紙開発部……
「まさしくこの紙は、新開発の破れない紙。
『スーパーティッシュ』じゃないか!…しかし、なぜこれがリサイクル資源課のトラックの中に?」
「それはですね、花水部長」
シチローは、ここが探偵の独壇場とばかりに得意になってその謎解きを語り始めた。
「この会社のセキュリティーはかなり厳しいモノです。社員は時々、抜き打ちの持ち物検査をさせられ、スーパーティッシュをポケットやバッグの中に忍ばせておくのはとてもリスクが高い…
そこで考え出されたのがあのトイレットペーパー!…まさか警備員も、新開発のスーパーティッシュがトイレットペーパーにカムフラージュされて外へ持ち出されているとは思わなかったでしょう」
「やっぱりスパイがやったの?」
「…って事は、つまり……」
調子にのったシチローは、まるで犯人を名指しする名探偵の気分で何も無い窓の方をビシッと指差し、ポーズをキメた。
「そう!あの時オイラとティダに怒鳴ってきた男が産業スパイに違いない!」
……キマッた…
森永探偵事務所にしては、今回はずいぶんと順調な展開である。
「なに!君達、その男の顔を見たのか!…それは一体誰なんだ?」
産業スパイの正体が気になる花水は、シチローに詰め寄った。
「名前はまだわかりませんが、顔はハッキリと見ました!
では、オイラが似顔絵を描いてみましょう…」
そう言ってシチローは、スーツの胸ポケットから手帳とペンを取り出すと、無言でペンをサラサラと走らせた。
「………」
そして暫くの沈黙のあと、似顔絵を描き終えたシチローが、ペンのノックをカチンと鳴らしその手帳のページを花水の顔の前に突き出した。
「出来ました!こんな奴です!」
(`_´)
「そんなんでわかるかあぁ~っ!」
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