第3話 タクシーの運転手さんを刺した

 あの日、買い物をした帰り、駅からタクシーで帰ろうと思いタクシー乗り場に並んだ。

 天気が悪く雨だったのだ。


 その日の私はロングのフレアースカートを履いていた。足首まである丈の長いスカートだ。


 タクシーは直ぐに来て、私の前で後部座席の扉が開いた。


 乗り込もうとした時、自分のスカートの裾を踏んづけてしまい、足を上げてスカートの裾を引っ張るも、乗ろうとすると踏んづけてしまい、モタモタ、モタモタ。


 右手には買い物をした荷物、左手には傘を持っていて、右手の荷物を持った手でスカートの裾も掴んでいたのだが、どうしても裾を踏んでしまう。


 タクシーのドアに頭を突っ込み、お尻は外に出したままモタモタしていたら、突然運転手さんに怒鳴られた。


「何してんだよ!!!」


 ビックリして、運転手さんを見たら、何と、左手に持っていた傘が運転手さんの後頭部にゴリゴリと刺さっていた!!!


「すみません!すみませんすみません!」


 あまりにモタつくから怒られたのだと思ったら、右手にスカートを持つ手に集中するあまりに、傘を持った左手が疎かになり、傘の先が運転手さんの後頭部に当たっていたのだ。


 ひたすら謝り、穴があったら入りたい、けれどタクシーに乗り込むしかない。ここで「乗るの止めます」とは言えない。

 逃げたいけれど、乗り込んだ。


 もう、家へ着くまでの20分間は針のむしろ。

 降りる時も謝り、さらに多めの料金を支払った。

 お詫びもこめて「お釣りは結構です」と。


 暫く、タクシー恐怖症になり、タクシーに乗るのは避けてたなぁ。




もうひとつ。


『帰れと言われたから』


 銀行員時代の話なんだけど、上司と揉めてる時代があった。揉めたと言うか次長に一方的にイジメられてた?


 多分、可愛くない部下だったんでしょうね。おべっかを使わない。お世辞を言わない。言う事を聞かない。


「俺が右と言えば、右なんだよ!」と言われても、


「いえ、左ですよ?」と答えてしまう女。


「え〜〜、次長さんすごぉい。右ですよねぇ」とか言えればよかったのだろうが、いや、絶対言わないわ。

 それが出来る後輩は次長に可愛がられていたが、私には無理。


 それでくだらないイジメ(イジメと言うほどでもない)をされていたんだよね。


 毎朝、通用口で待ち構えて、「おい、お前、重役出勤だな」と嫌味を言われる。

 「重役出勤」とは、始業時間より大幅に遅れて出勤する事。遅刻した人に対して皮肉を込めてからかう語、だそう。(ネット調べ)


 時間外手当も付かないのに、毎朝1時間前に出勤して仕事をしていたが、それのどこが重役出勤?

 私にそれを言いたいがために私より早く来るその努力を別に生かした方が良いのでは?


 仕事中も「おい、くまの、ちょっと来い」と呼ばれて次長席まで行くと、次長が自分の足元を指差して、

「ゴミが落ちてる」と、拾わせる。


『おめぇのゴミだろが!自分で拾えや』と思いつつも、ちゃんと拾ってあげる私ってば人間が出来ていると思わん?

 くだらなすぎて反抗する気も起きん。


 ある日の業後に全員参加の会議があった。残業代を出したくないのか、会議は業後が通常。あの頃はサービス残業が当たり前の時代だったからねぇ。


 で、始まって少ししたら次長が仕掛けてきたんよ。

議長が「ここまでで何か意見がある人はいませんか?」と、皆に問いかけると、次長が、

「おい、くまの、何かあるか」と、急に私に振った。

で、「特にありません」と答えたところ、


「無いなら出て行け!」と、きた。


ふぁあ?何でやねん。議長は反論がある人はいませんか?って聞いたんよ?反論無いから無いって言ったのに。


まぁ、いいや。

出て行けって言われたから、出て行っていいんだよね?

会議面倒だったから帰ろう。サビ残だし。

いやぁ、みんな、すまないね、お先に失礼しますね。


と、心で思い、会議室を出た。

それで、更衣室へ行って着替えて帰宅〜。


次長は何がしたかったんだろう?

戦いたかったの?

私の反抗を待ってた?


 黒歴史でこれを挙げたのは、少し前にテレビか何かで似た案件で揉めてたのを観た。

仕事中に「帰れ」とか、会議中に「出てけ」と言われて、本当にその通りにするのは『よくない』行動だと。


 って事は、あの日、私がとった行動はダメだったのかぁ。

 でも、理屈が通らない、正義が通じない相手っているのよ。だから私は、私の行動が幼い、黒いと言われても、恥じてはいない。黒歴史って恥じるもの?恥じていないって事は、未だ『黒』現役なのかな?

 あ、そう言えばあの次長に「お前は腹黒い」とも言われたっけ。


 ふ、ふはははははは、よくぞ見破ったぁ。




4話『恐るべき趣味』に続く

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