邂逅(2)
「妖だろうがなんだろうが―――見逃せるわけねぇだろ、こんなもん―――!」
伊佐薙は身体の中心でその拳を受け止め、もう片方の手でうずくまる小さな妖をかばっていた。
足を踏ん張り、全身の体幹を一点に集中させる。
その身のこなしのおかげか、頭を覆うほどの巨大な拳は不思議なくらいに、その場に留まって動かない。
「なんだぁ―――? 俺の拳を、受け止めただぁ―――?」
巨漢は振りほどくように伊佐薙から手を引いて自身の拳を見つめ、そのままの怪訝な表情で伊佐薙を睨み付けた。
それに負けないように、伊佐薙も眼力を強めていく。
その気迫に一層気味悪さを感じたのか、その一行は次第に騒がしさを増していった。
それを鎮めるように、低く轟く声が空間を切り裂く。
「テメェ、一匹か?」
唯一伊佐薙に向かって口を開いたのは、小さな妖に刃物を突きつけていた妖だった。その大きな刃物を肩に担ぎ、巨漢を退けて堂々と前に出てくる。
その妖の
「一人だったら―――なんだよ」
「あぁ?」
一人、という数え方に、人獣型の妖は表情を曇らせた。
ここらで自分のことをそんな風に言うやつは見たことがない。それになんだ、仮面なんかしやがって―――
何から何まで気持ちわりい奴だ―――だが、そんなことは知らねぇ。
「強気なのは良い、が―――お前は馬鹿だぜ。俺たちの前に立ち塞がるなんてよ」
唸るような低い声と共に、その妖は刃物を強く握りしめた。
鉄が軋むような音と獣特有の威嚇の声が響き渡る。
「邪魔すんなら殺す。それが、俺たちのやり方だ。刺客だろうがなんだろうが、関係ねえんだよ―――!!」
振り下ろされる大剣を前に、伊佐薙は歯を食いしばる。
一触即発の状況から時は少し遡り、伊佐薙とユキが遠目に大樹を見つけた場面へと戻る。
「ほら、妖がいっぱい集まってるじゃん。あそこだよ、あそこ」
「―――ホントだ」
伊佐薙の指さす先。ユキは目を凝らし、その存在を視界に入れた。
ふむ―――見たところ、中級くらいの妖と言ったところかな。
何体か妖怪と言っても良いやつはいるけど、そこまで強すぎる奴はいないっぽい。
うん、これなら安心かな。
胸をなで下ろした所に、隣の伊佐薙が言葉を続ける。
「にしても、なにしてんだろうなあ、あれ。ここまで妖があんまり居なかったじゃん? 黄泉なのに。だから余計に気になっちゃって」
「それは―――確かに―――」
伊佐薙の指摘はもっともだ。
僕が嬉しいと思ったと同時に、気味が悪いとさえ思った誤算。
それが他でもない、"妖の少なさ"だった。
そんな中、ここにきて突如として現れた謎の集団―――警戒すべきに決まってる。
「その疑問は正しいよ。ありがとう伊佐薙、良く気付いてくれたね」
「いやいや、俺は単に気になっただけだから―――んで、どうする?」
そう伊佐薙に問われて、ユキは少し顎に手を当てた。
一応―――確認しといた方がいいよね。
こちらに害がなさそうなら放置でいいわけだし、おまけに今の僕らはこの衣のおかげで潜伏するのに優れてる。
「ちょっと、近づいてみようか。くれぐれも、慎重に」
「よし来た」
軽い手振りを合図に二匹は岩から岩へ、暗がりから暗がりへと、ちょこまかと動いて移動し、着々とその集団との距離を狭めていった。
足音を殺しながらも、大胆に足を進めていく。気付かれずに近づくのに、そう時間はかからなかった。
そうしてようやく大樹から一番近い岩場まで到着すると、二匹はひょっこりと頭を出して彼らの存在を視界に収めた。
赫よりも一回りは小さいが、十分に圧のある巨躯をひけらかすもの。四つん這いになって奇妙な動きを繰り返しているもの、常に自身の爪をなで回しているもの―――そしてその中心で、巨大な出刃包丁のようなものを担いでいるもの。
容姿も様子も千差万別な妖らが、なにかを囲んでいる。そこに漂う雰囲気にはどうにも、はち切れんばかりの風船のような危うさが見え隠れしていた。
「うひゃあ―――現世にいたやつなんかより、ずっと強そうなやつばっかり―――」
「そりゃ、妖の世界だからね。本来はあんなのがゴロゴロいるのが普通で、こんなに閑散としてるのがおかしいくらいなんだよ―――ん?」
言い終わりとほぼ同じタイミングで、伊佐薙とユキは彼らに囲まれている存在を視界に入れた。
小さな少年のような体躯で、額の角には一切の覇気が無い。
その構図だけで、彼らの目的は火を見るより明らかだった。
「なんだよ、あれ―――」
「―――なるほどね」
葛藤の表情を浮かべる伊佐薙の横で、ユキはどこか納得していた。
強い妖が弱い妖をたかり、物品や住まいを奪おうとする行為。そんなもの、この黄泉では日常茶飯事だ。
この黄泉は、千差万別な妖の世界。故に、現世よりも更に弱肉強食の要素が強い。
「行こうか、伊佐薙。大した問題にはならなそうだから―――」
そう振り返る先に、既に伊佐薙はいなかった。
目をぱちくりさせ、残された雪鬼は声を漏らす。
「―――え? 嘘でしょ」
その場に残されていたのは小さな地面のめり込みと、少しの土埃のみだった。
「失せな―――!!」
眼前では、鋭利な切っ先が今か今かと自身の額に迫ってきている。
伊佐薙はその行き先をじっと見つめ、寸前で両手を交差させた。そのまま地面を蹴り、大剣の柄に向かって飛び出す。
「な―――!」
合わせた手首は人獣型の妖の両手辺りに収まり、ガキンという重たい音と共にその大剣の勢いは一瞬にして方向を変えた。
そのままの形で伊佐薙はくるりと手首を回し、左手だけで彼が刀を握っている両手を横方向に流した。
昔、道場で習った
刀を持っている相手に対して、無刀の剣士が取れる有効手段の一つだと、先生は言っていた。
流された相手は、自身が刀を振りかざした勢いに引っ張られ、体勢を崩す。そのまま前傾姿勢を取った剣士には、山ほどの隙ができる。
伊佐薙は引いた右の手の平を広げ、掌底の形を取った。
「ぶっ飛べクソ狼野郎ォォオオ!!」
覇気を込めた声と共に、獣の腹辺りに渾身の力で手の平を押しつける。
彼は瞬時の判断で、どうにかその掌底を刃物の持ち手部分で受け止めたが、その威力自体は留まることを知らなかった。
人間のものとは桁違いの力は刃物を根っこから叩き割り、その妖は信じられないほどの勢いで地面を抉りながら吹き飛んでいく。
残されたものは唖然とした妖の集団と、肩で息をする一匹の元人間だった。
「はぁ、はぁ―――」
生まれて初めて正面から妖と対峙したからか、耳には運動量以上の心拍が轟音となって鳴り届いていた。
息は切れ、手先は震えている。しかしその手の平に残った感触だけが、今起きたことを自覚させてくれた。
その間にも、周囲にいた妖らは更にどよめきを増していた。
実体の分からない異分子だと思っていた存在が見せた、圧倒的な力。
その事実は、彼らを混乱させるのには十分過ぎた。
「な、なんだよコイツ―――あの
「おかしい、こんなのおかしいって―――どうするんだよ、おい―――」
「俺に言われたってわかんねえよ、おいやめろ、寄りつくなお前ら」
そこにいた誰もが、既に戦意を喪失している。
内心ほっとしている伊佐薙の横で、小さな妖は彼のことをキラキラとした目で見上げていた。
あの怪物を、一発で―――!? なんて強くて、優しい妖―――
かっこいい―――
「ハァ―――んで? 俺の見込みではアイツがリーダーなはずなんだけど―――まだやるかよ?」
その声色と目つきに、その場にいたほとんどの妖が一歩、二歩と後ずさった。
敵意はあるが、今はこの場を後にした方がいい。 それが総意なはずだった。
ある一匹の妖が、彼らに反して一歩前に進み出るまでは。
「なにを、勝ち誇った雰囲気を出している」
その妖は、伊佐薙が拳を受け止めた巨漢に他ならなかった。
「雰囲気って―――お前も見てたろ。ちゃんと勝ったはずだ」
「勝った? まぐれでよくもまあ、そこまで威張れるもんだ」
「はぁ―――?」
煽るような口調に、伊佐薙はつい苦々しい顔を浮かべた。
巨漢はそれを見て一層口角を上げ、伊佐薙の顔に自身の顔を近づける。
「たまたま避けれて、たまたま攻撃が当たった。それだけのことだ、と言っている」
「あれがたまたまな訳ないだろ。ちゃんと受けて返した、お前らが素人だから分からないだけで―――」
伊佐薙が言い終わるよりも前に、巨漢はまくし立てるように言葉を続けた。
「あぁあぁ、分かった分かった。見た目が小さいと言い訳で身を守るしかないのだな。可哀想なやつだ、そうやって今までも乗り切ってきたのだろう。そうに決まっている―――だろう? お前ら。
事あるごとに、保身のための嘘をついて。みっともない奴だ、こいつは。なぁ?」
「あァ―――?」
分かっていた。
俺を動揺させながら味方を鼓舞する為だけの、取り繕ったような挑発だって。
でもどうしても、聞き逃せなかった。
保身のための嘘だとか、言い訳で身を守るだとか。
その台詞の全てに、俺が多重面相で苦しんでいた過去を嘲笑されたような気がした。
伊佐薙は拳を握り締め、目の前の巨漢に対して真っ向から抗戦の姿勢を見せた。
自身を見下す顔を思い切り見上げ、ギシギシと歯を食いしばる。
血管が浮き出る額を、衣服を靡かせる風が撫でた。それでも、伊佐薙の頭は一切冷えることはない。
そんな様子を横目に、巨漢は目だけで少し微笑んだ。
小指だけをピンと立て、合図を送る。
今だ―――やれ。
巨漢の合図に合わせて、数メートル離れた所で息を潜めていた妖が口を開く。
カパッと開かれたその口にはざらざらとした舌が張り付いており、気色の悪い音と共に、その舌が奥へ奥へと畳まれていく。
そして舌が限界まで折りたたまれたその時。
その舌は銃弾すらも超越するほどの速度で、伊佐薙の頭頂部に伸びていった。
「ヒネェェ!!(シネェェ!!)」
「―――ッ!」
気を引いた隙に放たれる、死角からの一発。
しまった―――!
伊佐薙がそれに気付く頃には、すでに避けられるような状態ではなかった。
へっへへ―――! 取った―――!!
舌の妖が確信したその瞬間、彼の舌はひんやりとしたものに激突した。
鉄と鉄がぶつかるような音が響き、超速の攻撃は一瞬にして勢いを無くす。
「な、なんら―――!」
「うわぁ、舌だ―――気持ち悪いもの受け止めちゃったな」
突如現れた男は、その攻撃に対して心の底から嫌悪を示していた。
「うへぇ」と声を漏らしながらも、片手で抜いたままの刀の腹で妖の舌を抑え続けている。
「ユキ!」
「あ、伊佐薙!」
助っ人に目を輝かせていた伊佐薙と小さな妖に対して、ユキはフードの奥から鋭い眼光を送った。
「なんで勝手に飛び出したのさ、そんなことされちゃ守れないだろ」
「ご、ごめん―――」
「まったく―――」
優しい怒りを露わにするユキに伊佐薙が小さくなっていると、不意にユキの持っていた刀が小さく揺れた。
ジャキッと言う音が継続的に鳴り続け、彼は柄を握る手にぐっと力を込める。
「なに? 僕、気持ち悪いもの嫌いなんだけど」
「へへっへへっへへ―――!」
ユキの刀にはいつの間にか固くしなる舌がギュッと巻き付いており、その先にいる妖は気味悪く笑っていた。
その舌は刃の部分に当たっても切れることなく、器用に白銀の刀を握りしめている。
「ゆ、ユキ―――」
「お前も、友達を気にしてる暇じゃあないんじゃねえか?」
「な―――」
ニタリと笑う巨漢の周囲には、先ほどまで距離をとっていたはずの妖らがぞろぞろと集まっていた。
それぞれが持ち前の牙をカチカチ言わせていたり、爪を噛みしめたりしている。そんな怪物らがじりじりと、伊佐薙の方へとにじり寄ってくる。
まずい、完全に囲まれた。
俺の周囲に四体―――ユキの周囲に五体。
まだ強さの感覚が分からないけど、数的有利が取られてるのは事実。
どうする、この子を連れて一旦退却か―――? いや、今逃げの一手を取るとして、ユキは即座に連動できるのか? だとしたら、まずは交戦すべきか―――?
そんな伊佐薙の迷いを消し去ったのは、足を引こうとする先にいた小さな声だった。
「あ、あの―――」
縋るでもなく、ただその場でまっすぐ、自身を見つめている。
その目が、その表情が。伊佐薙に改めて火を付けた。
そうだ―――俺は、この子を守るために飛び出したんだろうが。
この子に、こんな顔させてんじゃねえよ―――馬鹿野郎!
伊佐薙はそう自身を叱咤しながら、小さな妖の頭にそっと手を置いた。
心配させまいと、精一杯の虚勢を顔に貼り付けながら。
「大丈夫、俺は負けない。そこで待ってろ」
伊佐薙は太ももに力を込め、ぐっと一歩前に出た。
巨漢はそれが気にくわないかのように唇を曲げている。
「なんだてめぇ―――勝つ気か? この数的不利で」
「当たり前だ。それに俺、まだお前を許してないしな」
「許すだぁ―――?」
「気にすんなよ、こっちの問題だ」
訝しげに首をかしげる巨漢から少し離れた場所で、ユキは冷静に戦況を分析していた。
僕の回りの奴ら―――こいつらは多分、大したことない。なんなら、もう一匹くらい余裕で引き受けられる。
それよりも、問題は伊佐薙だ。こんなの数匹とはいえ、僕にはおばあとの約束がある。
一発大技かまして、こいつら全員とっちめるか―――? いやだめだ、それだと真ん中にいるあの子まで巻き込むかも。
それに、さっきの伊佐薙の動き。明らかに素人の動きじゃなかった。あれなら、任せても良い―――いや、良いのか?
急なことの連続で、まだ状況がよく分かってない。
冷静に考えたら、こんなことになっても那肋が出てこないのがおかしい。
この集団、なにか裏があるんじゃ―――あの小さな妖すらも囮の可能性は―――
「ユキ! そっち数匹、頼んだ! 俺はこの子を守る!!」
伊佐薙の魂の言葉が、迷っていたユキの背をぶっ叩いた。
その瞬間、妖らも一斉に彼らに襲いかかる。
「やっちまえぇぇー!!!」
「オォォォオオォ!!」
伊佐薙が構えを取ったその時、周囲は強烈な冷気に晒された。
「獄氷操術―――
その詠唱と共に、数体の妖が氷に侵されながらはじけ飛ぶ。刀に舌を巻き付けていた妖も、「ぐぅ―――!」と声を漏らしていた。
「伊佐薙! お叱りは後にする! 今は目の前の敵に集中すること! いいね!」
「おうよ!!」
そう言ってその場を後にするユキの顔は、フードに隠されてはっきりとは見えない。
しかしそこには心配と信頼が混ざったような、そんな複雑な色が浮かび上がっていたような気がした。
「いいのか? あの友達、まぁまぁやれたようだが」
「いいんだよ、黙ってろ」
伊佐薙はノータイムで答えた。それに巨漢は少したじろぐ。
とっくに覚悟は決まってる。伊佐薙は不敵に笑っていた。
「この子は、俺が助ける。かかってこいよ」
伊佐薙が巨漢らと対峙し始めた頃、ユキは計六体の妖に囲まれていた。
依然としてユキの刀を抑えている舌の妖に加え、実力も分からない奇妙な妖が数体、ユキの獄氷を身体の一部に食らいながらもその場に立ち尽くしていた。
「く、くほが―――このこおり―――まさか」
舌の妖は冷たさと痛みに表情を歪め、目前の妖の力に戦慄していた。
この力、地獄の氷か―――? だとしたら、こいつは。
舌の妖はすぐさま舌を放し、凍てついた舌を口の中で溶かした。
そしてごくりと冷たい唾を飲み込み、血相を変えて叫び出す。
「テメェ―――その被りもん除けやがれ!」
ユキはキラキラと輝く銀世界に立ち尽くし、執拗に刀を払って鞘に収めていた。
漆黒のフードはひらひらと風に煽られ、今にも素顔が露見しそうになっている。
「立場上、そういうわけにはいかないんだけど―――まぁ、君らくらいならいいか」
揺らめくフードの端を掴み、ガバッと後ろに引き下げる。
そして露わとなった角を見て、舌の妖は全てを悟った。
全身に緊張が走る。大した妖力じゃない、そう侮った自分を叱りたい気分だった。
そしてその視線は流れるように、角からその顔へと移っていく。
あの顔―――どこかで―――!?
いや、間違いない。この俺が、見間違う訳がない。
「テメェ―――何故こんな所に―――!?」
「だから見せたくなかったんだよ―――じゃ、見たからには全員、ここで沈んでね」
ユキはゆっくりと刀に手を回すと、抜刀の構えを取った。
それに連動するように、辺りは再び冷気に覆われる。
「お前ら! 気をつけろ、アイツは―――!」
「鬼神刀術―――」
その声が仲間の耳に届く頃、既に彼らは宙を舞っていた。
「
ふわっと舞い上がり、花のように広がった斬撃は、ユキを囲んでいた妖を一瞬で切り刻んだ。
全体に垣間見える可憐さとは裏腹に、その威力はたったの一撃で全員を伸してしまえるほどの威力を誇る。
ユキに立ち向かう存在が居なくなった時、さらさらと降り注ぐ雪の結晶が、静まりかえった戦場を照らしていた。
その中心でユキは「ふぅ」と息をつきながら、可憐に刀を鞘に納める。
「さて、もう一匹の鬼神の様子はどうかな―――?」
ユキは少し首を回し、その戦況に目を凝らす。
その先にいた伊佐薙は、絶えず攻撃の雨に晒されていた。
「オラオラオラオラオラァ!!!」
「くっ―――!」
巨大な拳が、これでもかと伊佐薙と小さな妖に降り注ぐ。
伊佐薙はそれを全て見極め、間一髪で捌いていた。
「どうしたどうしたァ! 受けてるだけじゃ俺はやれねえぞォ!」
目の前では巨漢が目を爛々とさせながら拳を振り続けている。
クソ、なんつう連撃―――ちょっとでもミスったら、この子にも拳が当たる―――!
全部、捌くんだ。その為の刀術だろ―――!
しかし、苦心していたのは伊佐薙だけではなかった。
「
小柄の妖が二匹、周囲でその風圧に目を覆いながら叫んでいたが、巨漢はそれを見ることもなく叫び返した。
「馬鹿言え! てめえらも、さっきの見たろ!」
あの
油断したら終わりの戦いなんだよ、これはァ―――!
「おら死ね死ね、潰れやがれェ―――!!」
伊佐薙はそんな殺意丸出しの拳を受けながらも、度々背に感じる視線に意識を集中させていた。
悪いな、手間取っちまって―――心配だよな、こんな背中―――
でも俺は、絶対勝つから―――あとちょっと、待っててくれ―――!
「これで終わりだァ―――!」
隙のない乱打からほんの一瞬、一発に威力を集中させるタイミング。
このズレを、俺は待ってた。
これなら、太刀流しを使える―――!
意気込んで、受け流す体勢を取った、その瞬間だった。
「伊佐薙!!!」
遠くから切迫したユキの声が響く。
それに続くように、聞き覚えのある邪悪な声が真後ろで囁いた。
倒したはずの妖が、いつの間に―――!?
そしてその手元には、先ほど砕いたはずの刃物が握られていた。
「
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