第5話 通は塩で食べるらしい
「にえさん、にえさん」
「どうしたリムス」
「そう言えば、私の潜在能力??って言うのも解放するんですよね。何をすれば良いですか?」
リムスは目を輝かせながら俺の事を見つめている。
ふ~む、結構な真面目ちゃんと見た。
俺の目的の為にも、そして継承の儀を勝ち抜く為にも、リムスが強くなることは必須条件だ。
たぶん……早くそれを満たさないとって考えてるんだろうなぁこの顔は。
「リムス、一つ質問良いかい?」
「はい。何でしょうか?」
「俺に出会う前、ちゃんとご飯食べてたか?」
「いえ。逃亡生活中だったので、そこら辺の食べれそうな草を食べてました」
笑顔で言う事じゃない。
こんな育ちざかりのお嬢さまがそんな貧相な飯しか食べて無いって大問題だろう。
「まず飯だな。強くなるためにも必要だし、リムスみたいな年の子にはもっと重要な話だ」
「そうでしょうか?のんびりご飯を食べるより体を動かした方が良いのでは?」
「だ~め。長生きしてるおじさんの言う事は聞くもんだぜ」
そうだな、この辺なら魚を取るのが一番早い。
けど、リムスの状態を考えると肉喰わせた方が良いろうな。
出来るだけ栄養豊富な。
「よし、ワイバーン狩ってその肉を食べよう」
「え???」
◇
「どうだ?美味しいか」
「え、えぇ。とっても」
「おっさんはさっぱり塩派だからさ、味が薄かったら言ってくれ」
酷い虐殺を見た。
ワイバーンって普通精鋭の騎士3人がかりで倒すモンスターだったと思うんだけど。
にえさん、一人で3体ぐらい倒してたなぁ。
木陰に隠れて戦闘を見ていたけど、母とは違う意味での無法っぷり。
特に、両手で相手の攻撃を止めている間に口からスライム出して攻撃するのはもはや反則だ。
「これだけあれば数日は持つだろう。追ってもこの森に集まってくるだろうし、明日の朝には出発するぞ」
そう言いながらワイバーンの肉を焼いていく。
うん、さすがは母が認めた男。
目の前で行われる芸当が規格外すぎる。
母が『今日は焼肉たべよ~』って言ってフェンリルの死体を持って帰った事を思い出すなぁ。
「なぁリムス」
「どうしました?」
「一つ、言っておかなきゃいけない事があってな」
どうしたんだろう、いきなりかしこまって。
ワイバーンの肉を焼いている焚火の光に当てられてるのもあって、謎に良い感じの雰囲気を纏っている様な気がする。
「おまえの両親は、正直言って同じ人間が疑うレベルの化け物だった。さっきの追手や君の話を聞く限り、殺されてしまった二人のお姉さんも両親に迫るレベルの化け物だったんだろう」
「……はい、そうですね。お姉ちゃん達は凄いんです」
数多の属性の魔法を有し、魔力も膨大。
私が扱えるのは水と炎のたった二つの属性で、魔力も人並み以下だ。
「私はお姉ちゃん達みたいな才能は有りません。でも、だからこそ私は人一倍に努力しようって考えてるんです」
「へぇ。理由を聞いても?」
「お母さんからにえさんの話を聞いた事があるんです。努力と悪あがきだけで人類最強と渡り合った男が居るって」
そんな人間が居るなら、私は立ち止まって泣いているべきじゃない。
シェヘラザード家唯一の落ちこぼれの私でも、皆と肩を並べる未来を努力と言う方法で掴めるかも知れないと思ったから。
そんな、すこし恥ずかしい気持ちをにえさんに話した。
本当は出会ったばかりの人にこんな事は言わないんだけど、にえさんはその生き様で昔の私を変えてくれた人だから特別に。
「リムスが自分の家族を誇るのは良い事だ。でも、それと自分を比べるのはやめた方が良い」
「え?」
「碌な事にならないからな。というか、俺は碌な事にならなかった」
にえさんはワイバーンの肉にかぶりつきながら焚火を見つめる。
その視線は何処か、遠く遠くの景色を見ている様だった。
「卑怯千万、人質を取り命乞いをするのは当たり前。思い出しただけでも顔が赤くなっちまうような恥ずかしい事にしか繋がらなかった。比較や嫉妬はタチの悪い起爆剤だって事を思い知ったよ」
「なんか……意外ですね。今のにえさんはそんな風に感じません」
「まぁな。俺は他人とは絶対的に違う存在で、それを自覚した上で何をしたいと願うのか、それを自覚したからこそ今のにえさんが居るのさ」
だから嬢ちゃんは昔の俺みたいにはなるなよ、そう言ってにえさんは夜空を見上げていた。
私は私……お姉ちゃんと比較しても仕方がない。
にえさんの言葉を全て受け入れられる気はしないけど、幸いなことに何をしたいのかだけは決まってる。
死んでしまった家族の代わりに、この国を守る。
そのために、刺客を倒して継承の儀に勝利する。
この軸だけはぶれない様にしよう。
そう思い返して私はワイバーンの肉を食べた。
家では味の濃いソースでしか肉を食べなかったけれど、塩も悪く無いなと思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます