第3話 おっさんの口からスライム、ヒロインはスライム漬け

 「なんだあんちゃん」

 「俺の事を知らないのか?呆れたな、リムス様の最後の切り札がとんだ世間知らずのおっさんとは」


 あのキラキラ光る鎧。

 それに背中の大剣。


 間違いない。

 あの男は王都騎士隊No5の実力を持つキュルム・ヘザート。


 「しかもおっさん、なんかキモイな。なんだその左目にあるゴキブリみたいなものは」

 「ゴキブリじゃないぜ。サーチちゃんだ」

 「え……それに名前つけてるんですか?」


 贄の王のその発言に私は思わずツッコミを入れてしまった。

 そんな事してる場合じゃ無いぐらい危険な状況なのに。


 「長い付き合いなんだ。サーチちゃんはおじさんの寄生童貞うばってくれたから」

 「なんですか寄生童貞って!!!意味の分からないパワーワード連発しないでください!!!」


 何なのこの人???

 私の中にあった緊張感まで無くなってしまたんですけど??


 しかもなんか私の方みてニッコリと笑ってるし。

 なにこの状況を楽しんでるんですか。


 「ところであんちゃん。さっき言っていた継承の儀ってのは何だ?」

 「なぁに、次の王を決める為の儀式サァ。各貴族の家から代表一人と仲間を連れ、コロシアムで戦い合うのサァ」


 キュルムが大剣を掲げる。

 あっという間に剣には赤色の光が宿った。


 あれは確か、キュルムの前方範囲全てを吹き飛ばす『全崩剣』の構え。

 まずい、私ごと贄の王を吹き飛ばす気だ。


 「ま、今から死ぬお前等には関係の無い話サァ!!」


 キュルムの斬撃が放たれる。

 私の視界は一面の赤に染まってー



 「ふん。終わったな」


 この俺こと、キュルム・ヘザートは大剣を引き上げながらそう呟いた。

 一仕事終えた後と言うのはすこぶる気持ちが良い。


 「にしても、継承の儀の前に殺せて良かったよリムス様。戦闘能力は中の下と言った所だが、潜在能力だけで言えば貴様の母すら超えていたからな」


 そこまで口に出して、俺は思わず笑ってしまった。


 「色々策を講じていたみたいだが無駄だったようだなぁ。ぜ~んぶ全部無駄サァ」


 だって滑稽じゃないか。

 その潜在能力が開花する前に、この女は無残にも死んでしまったのだから。


 「へぇ、そりゃ良い事聞いたな」

 「は???」


 その瞬間、聞えて来たのはさっきのおっさんの声だった。

 まさか、俺の『全崩剣』を避けたのか?

 いやいやそんな事……あり得るはずが。


 そう思って後ろを振り向く。

 そこで見た光景に、俺は絶句した。


 「な、なんですかコレぇぇぇ!!」

 「ごめんな嬢ちゃん。安全に君を逃がすにはこれしか無かったんだ」

 「うわぁぁ喋らないでください。全身に振動が来て変な感じになっちゃうんですぅぅぅ」


 あのオッサンが無傷で後ろに立っている。

 そして、おっさんの口から緑色のスライムが這い出ている。


 そのスライムはリムスの体を包み持ち上げていた。


 「おっさんよぉ。アンタ何もんなんだ」


 左目の節足動物の足。

 口から這い出るスライム。

 ひげの代わりに生えている苔。


 これらは全て、人間に寄生することで有名なモンスター達だ。

 まさか目の前のこいつは……わざとモンスターを寄生させているとでも言うのか。

 そして、寄生させてモンスターを操っているとでも?!


 「なに、人類最強の女に挑んでいただけの諦めの悪いおっさんさ」


 おっさんが剣を抜いて迫りくる。

 速い、反応できないッ!!


 「ッツ!!」


 ガキンと金属音が鳴り響く。

 何とか剣で防ぐのが精いっぱいだった。


 「俺はその女を倒す為になんだってしたんだぜ。色んなもんを体に寄生させて、体の構造そのものを改造して、吸血鬼の眷属にもなったなぁ」

 

 ギリギリと俺の剣が押し返される。

 あり得ない。

 あり得るはずがない。


 この俺が、こんなみすぼらしくて気持ちの悪いおっさんに負けるなんて。


 「おい嬢ちゃん。こいつ等全員ぶっ倒して、継承の儀で勝つってのが君の目的で良いんだよな」

 「は、はい。そうです」

 「だったらそれを手伝ってやる。おまけに嬢ちゃんの潜在能力って奴も、ついでに開花させるよう特訓を付けよう」

 「本当ですか?!」

 「ああ、だが一つ条件がある」


 なんだこいつらは。

 何を楽しそうに話している。


 本当だったらこいつ等はもう死んでいて、俺は功績を称えられ、巨万の富と権力を得ているはずだ。


 その為に色んな不正に手を染めたんだぞ。

 貴族達に依頼を受けて暗殺だって行った。

 そうして俺は裕福に生きてきたんだぞ。


 「嬢ちゃんが強くなった時でいい。俺と本気で戦ってくれ」

 「あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ない!!」

 「俺と再戦する前に、寿命で逝っちまった嬢ちゃんの母親の代わりにな」


 おっさんの右腕がボコりと肥大する。

 そこから皮を破って這い出てきたのは、芋虫の様なモンスター。


 そのモンスターはおっさんの腕に絡みつき、ミチミチと音を立てる。


 「まさか……その虫どもを疑似的な筋肉にする気か」

 「正解。さぁ力比べと行こうぜ、あんちゃん」


 次の瞬間、全身が妙な浮遊感に包まれた。


 まさか、俺はこの一瞬で力負けしたのか??

 ちょっとばかし押し返す事も出来ず、いとも簡単に俺の体は吹き飛ばされたとでも言うのか??


 思考がその答えを導き出したとき、目の前の景色が目まぐるしく変わっていく。

 俺は物凄いスピードで後方に吹き飛ばされてー


 「どうやら、俺の圧勝みたいだったな」

 「う、嘘だ……この俺がこんなみすぼらしいおっさんなんかにぃぃぃ!!」


 森の木に激突して意識を失ってしまうのだった。


―――――――――――


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