第3話 おっさんの口からスライム、ヒロインはスライム漬け
「なんだあんちゃん」
「俺の事を知らないのか?呆れたな、リムス様の最後の切り札がとんだ世間知らずのおっさんとは」
あのキラキラ光る鎧。
それに背中の大剣。
間違いない。
あの男は王都騎士隊No5の実力を持つキュルム・ヘザート。
「しかもおっさん、なんかキモイな。なんだその左目にあるゴキブリみたいなものは」
「ゴキブリじゃないぜ。サーチちゃんだ」
「え……それに名前つけてるんですか?」
贄の王のその発言に私は思わずツッコミを入れてしまった。
そんな事してる場合じゃ無いぐらい危険な状況なのに。
「長い付き合いなんだ。サーチちゃんはおじさんの寄生童貞うばってくれたから」
「なんですか寄生童貞って!!!意味の分からないパワーワード連発しないでください!!!」
何なのこの人???
私の中にあった緊張感まで無くなってしまたんですけど??
しかもなんか私の方みてニッコリと笑ってるし。
なにこの状況を楽しんでるんですか。
「ところであんちゃん。さっき言っていた継承の儀ってのは何だ?」
「なぁに、次の王を決める為の儀式サァ。各貴族の家から代表一人と仲間を連れ、コロシアムで戦い合うのサァ」
キュルムが大剣を掲げる。
あっという間に剣には赤色の光が宿った。
あれは確か、キュルムの前方範囲全てを吹き飛ばす『全崩剣』の構え。
まずい、私ごと贄の王を吹き飛ばす気だ。
「ま、今から死ぬお前等には関係の無い話サァ!!」
キュルムの斬撃が放たれる。
私の視界は一面の赤に染まってー
◇
「ふん。終わったな」
この俺こと、キュルム・ヘザートは大剣を引き上げながらそう呟いた。
一仕事終えた後と言うのはすこぶる気持ちが良い。
「にしても、継承の儀の前に殺せて良かったよリムス様。戦闘能力は中の下と言った所だが、潜在能力だけで言えば貴様の母すら超えていたからな」
そこまで口に出して、俺は思わず笑ってしまった。
「色々策を講じていたみたいだが無駄だったようだなぁ。ぜ~んぶ全部無駄サァ」
だって滑稽じゃないか。
その潜在能力が開花する前に、この女は無残にも死んでしまったのだから。
「へぇ、そりゃ良い事聞いたな」
「は???」
その瞬間、聞えて来たのはさっきのおっさんの声だった。
まさか、俺の『全崩剣』を避けたのか?
いやいやそんな事……あり得るはずが。
そう思って後ろを振り向く。
そこで見た光景に、俺は絶句した。
「な、なんですかコレぇぇぇ!!」
「ごめんな嬢ちゃん。安全に君を逃がすにはこれしか無かったんだ」
「うわぁぁ喋らないでください。全身に振動が来て変な感じになっちゃうんですぅぅぅ」
あのオッサンが無傷で後ろに立っている。
そして、おっさんの口から緑色のスライムが這い出ている。
そのスライムはリムスの体を包み持ち上げていた。
「おっさんよぉ。アンタ何もんなんだ」
左目の節足動物の足。
口から這い出るスライム。
ひげの代わりに生えている苔。
これらは全て、人間に寄生することで有名なモンスター達だ。
まさか目の前のこいつは……わざとモンスターを寄生させているとでも言うのか。
そして、寄生させてモンスターを操っているとでも?!
「なに、人類最強の女に挑んでいただけの諦めの悪いおっさんさ」
おっさんが剣を抜いて迫りくる。
速い、反応できないッ!!
「ッツ!!」
ガキンと金属音が鳴り響く。
何とか剣で防ぐのが精いっぱいだった。
「俺はその女を倒す為になんだってしたんだぜ。色んなもんを体に寄生させて、体の構造そのものを改造して、吸血鬼の眷属にもなったなぁ」
ギリギリと俺の剣が押し返される。
あり得ない。
あり得るはずがない。
この俺が、こんなみすぼらしくて気持ちの悪いおっさんに負けるなんて。
「おい嬢ちゃん。こいつ等全員ぶっ倒して、継承の儀で勝つってのが君の目的で良いんだよな」
「は、はい。そうです」
「だったらそれを手伝ってやる。おまけに嬢ちゃんの潜在能力って奴も、ついでに開花させるよう特訓を付けよう」
「本当ですか?!」
「ああ、だが一つ条件がある」
なんだこいつらは。
何を楽しそうに話している。
本当だったらこいつ等はもう死んでいて、俺は功績を称えられ、巨万の富と権力を得ているはずだ。
その為に色んな不正に手を染めたんだぞ。
貴族達に依頼を受けて暗殺だって行った。
そうして俺は裕福に生きてきたんだぞ。
「嬢ちゃんが強くなった時でいい。俺と本気で戦ってくれ」
「あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ない!!」
「俺と再戦する前に、寿命で逝っちまった嬢ちゃんの母親の代わりにな」
おっさんの右腕がボコりと肥大する。
そこから皮を破って這い出てきたのは、芋虫の様なモンスター。
そのモンスターはおっさんの腕に絡みつき、ミチミチと音を立てる。
「まさか……その虫どもを疑似的な筋肉にする気か」
「正解。さぁ力比べと行こうぜ、あんちゃん」
次の瞬間、全身が妙な浮遊感に包まれた。
まさか、俺はこの一瞬で力負けしたのか??
ちょっとばかし押し返す事も出来ず、いとも簡単に俺の体は吹き飛ばされたとでも言うのか??
思考がその答えを導き出したとき、目の前の景色が目まぐるしく変わっていく。
俺は物凄いスピードで後方に吹き飛ばされてー
「どうやら、俺の圧勝みたいだったな」
「う、嘘だ……この俺がこんなみすぼらしいおっさんなんかにぃぃぃ!!」
森の木に激突して意識を失ってしまうのだった。
―――――――――――
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