第2話 やはり血は争えないらしい

 『お姉ちゃん達みたいな才能がなくてごめんなさい』


 それは私の口癖だった。

 父も二人の姉も、この言葉を聞くと困った顔を浮かべていた事を思い出す。


 そんな事ないよ。

 リムスは生きてるだけで可愛いから、気にしないで。

 強さだけがすべてではないさ。


 皆、色んな言葉で励ましてくれた。

 きっとそれはどれも本心で、間違ってはいない言葉なんだと思う。

 でも、私の中にある嫉妬心はそんなものでは収まってくれなかった。


 『リムス、ママがアンタの悩みを解決してあげよう』


 そんな中、私の心を救ってくれたのは母のとある話だった。


 『実はね、私はこの世界で唯一強いと認めている人間がいるんだよ』

 『それってお父さん?』

 『いや、違うよ。パパは強いと言うより一緒に戦ってると便利なタイプ』


 父だって十分強い部類に入るのだけど、母にとってはそうでもないらしい。

 そんな母が強いと認める人間はどんな人なのだろうか?

 はやり、母と同じく才能に恵まれた人なのかな。


 『そいつはね、元々ろくに魔法も使えない才能0の凡人だったんだ』

 『へ?』

 『ただ、私に勝ちたいって一心で死ぬほど努力して、もはや悪あがきと言えるほど様々な事をして、そうしてようやく私と対等に戦える力を手に入れた、諦めの悪い一般人なんだよ』


 まぁ、戦績は1000勝0敗なんだけどねと母は自慢げに話す。

 そして、数年後に再戦する約束をしているとも


 その時の母の顔は、少し楽しそうだった。


 その顔を見ただけで分かる。

 母の言葉はきっと嘘じゃない。


 才能の無い人間が、努力だけで成り上がって来た人間が、人類最強と呼ばれる母が認められるほどに強くなった。


 その話を聞くだけで、自分の心の中にあった嫉妬心がすぅっと消え、『私もうじうじ言わずに努力しないと』と言う気持ちに変換された。



 『リムス。もし、自分の力で解決できない程の困難に遭遇した時はその男を訪ねなさい。きっと力になってくれるよ』

 『分かったよお母さん。その人どうやって見つけたら良いかな?』

 『贄の王って呼ばれる人を探せばいい。なに、大丈夫、会えばすぐに分かる』


 母は地図を取り出したながら、その贄の王が居ると思われる場所を指で刺す。

 そうして、思い出し笑いをこらえながら一つの情報を残していった。


 『だって……あいつ気持ち悪いんだもの。特に左目のあたりが』




 「お母さん……それヘイトスピーチって言うんだよ……ッハ!!」


 瞬間、意識が覚醒する。

 私は寝てたの?

 そうだ、あの時こけちゃって。


 「誰かが介抱してくれてる」


 急いで周囲を確認しようとしたとき、私は自分の体の異変に気が付いた。

 さっきまで傷があった場所が完治している。


 それどころか、私の体が冷えない様にと葉で作った布団が掛けられ、ちょうど体が温まる位置に焚火が置いてある。


 「一体だれが、そうだ追手は」


 そう言って立ち上がる。

 

 「えー」


 そして、私は目に映る景色に驚愕した。

 私を追っていた3人の男が、巨大な植物の根に囚われて気絶している。


 周囲に激しい戦闘が行われた後は無い。

 状況をみるに、この3人は攻撃する暇もなく一瞬で倒されてしまったのだろう。


 この人達、結構強いはずだよ。

 一体どうやってそんな芸当を。


 「お、起きたか嬢ちゃん」


 そんな思案をしていると、後ろから声を掛けられた。

 私を助けてくれた人だろうか?

 そう思って私は後ろを振り返る。


 「え?」


 思わず口にしてしまったのはその言葉。


 私に声をかけたのはくたびれたおじさんだった。

 ぼろい服を着てぼろいマントを付けてぼろい剣を腰に差している。


 そこまでは良い、そこまでは全然良いんだけど。


 

 「き、気持ちわる!!!特に左目!!」



 なんでこの人ひげの代わりに苔が蒸してるの???

 右足からも植物の根みたいなのが生えてるし。


 何より左目があるべき場所に、気持ち悪い虫の足がわんさかと飛び出てうようよしている。

 これを見て気持ち悪いと言うのは半ば仕方の無い事なんじゃないの???


 「あ、あれ……このあたりに住んでいて、特に左目のあたりが気持ち悪い人」


 母の言葉を思い出す。

 この人、贄の王の特徴と全部一致してる。

 これは……もしかするともしかするかもしれない。


 「おいおい。顔が似てると思ったら反応まで同じかよ」


 目の前のおじさんは私の言葉に怒るでもなく、非難を浴びせるでもなく、何故か大声を上げて笑っていた。


 「ご、ごめんなさい。私つい失礼な事を!!」

 「あ~良い良い。気にすんな。俺が気持ち悪いのは客観的な事実だからな」

 「そうですか……あの、もしかして貴方は贄の王と呼ばれる男性ではないでしょうか?」

 「お、俺のこと知ってるなんて珍しいな」


 おじさんは焚火の前であったまりながらゆっくりと腰を下ろした。

 「よっこらせ」と自然と口に出している当たり、そこら辺のおじさん感がぬぐえない。


 「なぁ嬢ちゃん。どこで俺の事を聞いたんだ」

 「えっと、母からです。母の名前はセクメト・シェヘラザード」

 「なるほどな、やっぱあいつの娘だったか」


 道理でね、とおじさんは言葉をこぼす。

 そして、木の根っこに捉えられた追手3人の事をじっと見ながら私にこんな言葉を投げるのだった。


 「よし、ますますお前に興味が湧いてきた。嬢ちゃん、アンタが何に巻き込まれているのか、このおっさんに教えてくれよ」


 彼のその言葉に、私は思わず心の中で歓喜した。


 現状の私にとって、贄の王は最後の切り札と言っても過言ではない存在だった。

 彼の強力を得る為に、刺客に負われながらもこの場所にたどり着いた。

 最悪、自分の体を売る事だって覚悟していたほどだ。


 そんな彼が積極的にこちらの事情を把握しようとしてくれている。

 これは私にとってとても大きな一歩だ。


 「はい!私はー」

 「権力争いサァ。継承の儀で俺達が確実に王の座を手に入れる為のな」


 私は贄の王に声を掛けようとしたその瞬間、知らない声の横やりが入った。

 声がした方向に振り返る。


 そこには、キラリと光る鎧を身に纏った一人の兵士が立っていた。


―――――――――――


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