そのおっさん、最強クラスへ至った凡人の『贄の王』なり ~色々あって宿敵の愛娘に稽古をつける事になりました~

アカアオ

第1話 宿敵に似た顔の女を森で見つける

 「ハァッ、ハァッ」


 人気ひとけの無い森を走る。

 その最中、私は自分の人生を思い返していた。


 私ことリムス・シェヘラザードの人生は恵まれていたと思う。

 

 人類最強の肩書を持つ母。

 神に最も愛された王の肩書を持つ父。

 そんな二人の遺伝子をしっかり受け継いだ二人の姉。


 皆優しい家族だった。

 そして強い人達だった。


 なぜか私は戦う才能が開花しなくて、皆に迷惑をかける事もあったけど、それでも皆は私を見捨てたりなんかしなかった。


 本当に沢山の愛情を注いでくれた。


 「早く……にえの王を見つけないと!!」


 そんな私の幸せが崩れたのは一年前の事。

 両親が寿命で死んでしまった。


 元々二人は人間としては規格外の力を持っていたから、その代償として早めの寿命が来てしまう事は何となく予想が出来た。


 だけど、予想外の事が起こったのはその後。


 王であった父が死んでしまった事により、次の権力者の席を狙う争いが水面下で行われる様になった。

 両親が国外の脅威をほとんど無くしてしまった為か、権力者争いは激しさを増すばかり。


 王の後継者を決める正式が儀式が執り行われる前に暗殺者や刺客を送られる始末だ。

 優秀な戦闘能力を持つ二人の姉はすでに殺されてしまい、生き残りは私だけ。


 私はなんとしてでも次の月食に行われる後継の儀まで生き残り、父を次いでこの国を治める必要がある。


 だって、あんな人達に国を任せておけないもの。

 私の家族が作ったあの美しい国をあんな金の亡者たちに踏み荒らされるのは嫌だ。


 「だから探さないと……お母様が唯一認めた最強クラスと男……贄の王を」


 息も絶え絶えで、肩についたかすり傷からは生暖かい血がダランと垂れている。

 でも、幸い追手との距離は結構空いている。

 どんくさい私なりに頑張って走った甲斐があったというものだ。


 少し痛いけど、このまま走っていれば大丈夫だよね。


 

 「あ、しまっー」



 きっと油断したのがいけなかったのだろう。

 私は森の中で生い茂る植物に足を絡ませ、豪快に転んでしまった。


 体が逃亡生活でボロボロだった事。

 そして、転んだ際に頭を変な場所にぶつけてしまった事。


 この二つの不幸が重なって、私の意識はゆっくりと暗闇へと落ちていった。




 「なんだこりゃ」


 俺は目の前の光景に対し、そんな感想を抱いた。

 こんな人気ひとけのない森に、綺麗な格好をした女が一人で倒れている。


 体の所々にある怪我。

 そして何より、この女の元に迫ろうとする複数の気配。


 「おいおいお嬢ちゃん。一体何に巻き込まれてるんだよ」


 正直な話、面倒だと思った。

 目の前で倒れてる女は赤の他人で、俺が助けてやる義理はない。

 普段ならそう言って踵を返す所だ。


 だがー


 「嬢ちゃんの顔……似てるな」


 倒れている女の横顔に、俺は何処か懐かしい物を感じていた。


 それはかつて目標としていた女の顔。

 何度も何度も戦い、互いを高めあってきた人類最強の肩書を持つ女の顔。

 一年前、俺との再戦を前に寿命で死にやがった女の顔。


 顔が似ていただけ。

 それだけの本当にしょうもない理由だ。


 でも、だからこそ俺はこの女の事を見捨てられなかった。


 「敵は……3人だな」


 左目があったはずの場所から、カサカサと音を立てて節足動物の足が這い出る感覚がする。

 酷く久しぶりの感覚だ。


 左目を潰して寄生させて、おまけに脳の一部にまでその体を繋げているソレは、這い出る足をカサカサと動かしながら俺の半径20mに存在する全ての気配を察知する。


 この場所にこの女を追う存在がたどり着くのはおよそ30秒後。

 敵の数も、配置も、時間も、かなり良い感じだ。


 「とりあえずこの追手は一発で仕留めてやる。その代わり、目が覚めたら事情説明してくれよな」


 右足に力を入れる。

 すると、俺の体に寄生している植物たちがうねり、右足を介して地面に太い根を張った。

 

 「対象を発見!!しかし見慣れない奴が一人いる」

 「キッショイおっさんじゃね~か。一緒に殺しちまおう」

 「それなら俺に任せてくれ」


 一斉に追手たちが姿を現した。

 剣を持ち、下品な笑い声を上げて勝利を確信した笑みを浮かべている。


 可哀そうな奴らだよ。

 もう自分達が負けている事にも気づいていないんだから。


 「ガイヤランス」


 追手たちが立っている地面から、太い木の根っこが姿を現した。

 その根っこは盛大な勢いで追って3人を絡め取り、ほんの2秒程度で全員を気絶させた。


 「俺もそこそこ年を取ったもんだが、無理して作った贄の王の力はまだ健在みたいだな」


 あいつが死んでから、何にも手が付かず空虚に過ごしていた事を思い返す。

 体が衰えていてもおかしくないとは思っていたが、そんなことは全く無いようで少し嬉しかった。


 そんな俺の心に呼応するように、左目で蠢く足も心無しか楽しそうにはしゃいでいた。



―――――――――――


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