こんな怪しい物件はイヤだ

カニカマもどき

内見にて

○ へえー、良い部屋じゃないですか! 駅からは少し遠いですけど、これだけ広くて綺麗で、日当たりも十分で。これで月四万円は破格ですよ!


□ そうでしょう、そうでしょう。私どもも、自信を持ってオススメできる物件です。それだけに、住みたいと思われるお客様も多いかと……


○ だから早く契約を決めろって? かーっ、商売上手ですねえ、このこの!


□ 恐縮です。


○ あ、こっちの収納も見ていいですか?


□ もちろん。どうぞどうぞ。


○ いやあ、収納スペースも広……い…………


□ ? どうされました?


○ ……いや、どうしたもこうしたも! 何ですか、収納スペースにみっちり詰まってる、このでかい……何?!


□ あちゃー。お客様はアレですか。"こういうの"が見えてしまうタイプのお客様でしたか。


○ いや、見えるタイプとか知りませんけど! 何なんですか、これは!


□ 毛羽毛現けうけげんです。


○ けうけげん?!


□ ご存じないですか? ご覧のとおり、毛の塊みたいな妖怪で。ご入居されると、もれなく憑いてきます。


〇 同居しろと?!


□ まあ、あれです。癒し枠です。もふもふです。座敷童ざしきわらしみたいなものと思って、可愛がっていただければ。


○ えぇ、そんな……でもまあ、月四万だし……害のない妖怪ってことですよね?


□ まあ、害は……そうですね。基本的にはない……そう、確率的な観点からいえば、ほぼないに等しいと……


○ あるんですね。


□ まあ……はい。ごくまれに、入居された方を絞め*します。


○ じゃあダメじゃないですか! 冗談じゃないですよ! なんて物件をオススメしてんだ!


□ でもでも、普通に生活していても事故や病気で亡くなる可能性はありますし……それに、月四万ですよ?


○ いや、四万は魅力的なんですけど……でも、ちょっともう信用できないんですよね。あの、ベランダの物干し竿に巻き付いてる変な布なんかも、怪しく見えてきた。


□ あー……鋭いですね。あれは一反木綿いったんもめんです。


○ ほら出た! また妖怪じゃないですか! 何ですかさっきから!


□ いやあ、ははは。


○ 笑ってる場合か! 害はないんですか、あれは!


□ まあその、うん。そうですね。たまにね。人を絞め*しますね。


○ また! 絞め*す! やつ! しかも”たまに”って、さっきより頻度高くなってますよね?!


□ いやあ、本当に鋭い。


○ もう、マジでもう! こんな部屋住めるわけないじゃないですか! 帰らせてもらいますからね!


□ あ、待って待って。困ります。入居者がなかなか見つからなくて本当に困ってるんです。というか、この部屋のことをここまで知られて、素直に帰すわけにはいかない。


○ いや、知りませんよ!


□ それでも帰ると仰るなら、私はあなたを絞め*さなければならない。


○ どうあっても絞め*されるじゃないですか! 何なんですかもう!


□ 考え直してくださいよぉ。この物件も案外良いものですよ。住めば都といいますし。お化けには学校も、試験も何にもないんですよ。


○ お化けの仲間入りさせようとしてるじゃないですか! いい加減にしろ!

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こんな怪しい物件はイヤだ カニカマもどき @wasabi014

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