第6話 火星と茶屋(2023お題:顔自動販売機/名を自動転売鬼)

「こいつらが合言葉を書き換えてやがった」

奉行所のオー・眼鏡は、曇りなき眼鏡を通し記録された景色の絵巻を巻き戻してゆく。


「この者、知っています」


とたんパーティの一人は声を上げていた。


「本当かい?」


身を乗り出したのは紅一点、オー・ハンドだ。


「スケサクさん、あんたと会う前の茶屋のことだよ」


「我らはその茶屋からこやつらを追いかけてきた」

マゲがいなせなオー・フットも教える。

「茶屋で何が」

顔へスケサクは首をかしげ返した。

「こやつら、暗黒のサイキックにて火星けいこくの術を用い人を殺めた。茶屋で団子を食らった者は皆行き倒れている」


それは肌も泡立つ話であった。伝書鳩パーティは皆して目を見合わせる。


「あやつは食いしん坊であった」

「先を急ぐからと言ったのに食っておったのか」

「それも、われらが社へ辿り着くのを阻んでの事では」


その時、がさごそ藪は揺れる。暗がりに絵巻にあった顔はふい、とのぞいた。


「てめぇっ!」


尻をまくったオー・眼鏡が駆け出す。オー・ハンドも咄嗟とサイキックで、合体を解いた自機を操った。


「オー・ハンドパワーっ!」


きてます、きてます。


巨大なピンクの手は頭上を飛び越し、藪から人影は二つ、たまらずわっと飛び出す。行く先を塞いでピンクの手のひらはどうん、と覆いかぶさるが、指の隙間から人影はすたこら逃げ去っていった。


人影のひとつは「お頭」と呼ばれていた男だ。

「面が割れた。退散だっ」

男は峠を下りながら手もまた打つ。

「こらぁ、えれぇことになっちまいましたな」

その音に呼び寄せられて鬼は姿を現していた。

「今すぐ顔を変えたい。いかほどかっ」


と四角い箱は、走る目の前にぼうっと浮び上がる。


「へえ、上の段が三両で下が一両」

「また値上がりしたのかっ」

「ご時世でして」

「足元をみおってっ」

「まあまあ。お勧めはこの三両かと。購入特典として足のついた名前も自動で転売。新しい名前が手に入るスグレモノでさぁ」

「ええい、いただこうっ」


岩を飛び越えお頭は、浮かぶ箱へと三両、落とした。

(本編のみ 約790文字)

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