3話 帰りは怖い
歩き続けて、白神社の近くに来たころかしら、石のうえに座っているおじさんが、これ以上は行ってはダメだと、厳しい目で話しかけてきた。
これまで、皆の顔が微笑んでいたのでびっくりしたわ。でも、周りを見ると、みんなが私を怖い顔で見つめている。
なにか粗相をしたのかなと思い、今来た道を引き返すことにした。少し戻ると、さっきのように、周りの人たちは笑顔で溢れていた。
なにか地元の取り決めとかあるのだろうなと思い、そろそろ帰らないと明日の出勤にもひびくしと思って帰ることにしたの。
不思議なことに気づいた。みんな、太田川の方向に歩く人たちだけで、逆に歩いているのは私だけ。しかも、私のことはだれも気づかないようで、みんなは、さっきより急いで進んでるみたい。
そういえば、ここに来るときも、逆に進んでいる人は見なかったような気がする。私だけが、皆に逆らって、私の部屋の方に戻っていった。
本当は歩く人とぶつかると思うのだけど、不思議とぶつからず、というより、抵抗感がなく通り抜けている感じ。
でも、どうしてなのかしら。みんな、太田川の方に引き寄せられていくみたい。私だけ、逆らって進んでいいのかしら。でも、さっきのおじさんは、これ以上進むなと睨んでいたし。
私は、間違っていないのかと動揺しながらも、なんとか、さっき見た京橋川のあたりまでたどりついた。
でも、私がいたはずのマンションが見えない。酔っ払ったわけでもないのに、その辺をぐるぐると歩いてしまった。いまさらだけど、そういえば、この辺には高いビルなんて見えない。
そして、自分が浴衣を着ていることに気づいたの。家をでるときには、Tシャツに、ロングスカートだったのに。
周りは、相変わらず、楽しそうな人たちが通り過ぎていくけど、だんだん人が減っていることに気づいた。
気が動転してしまい、横にいる女性に、この辺にオリエンタルホテルがあるはずだけど、どこか知っているかと大声で聞いていた。
でも、そんなホテルなんて、この辺にはないと言われたの。そんなはずはない。たしかに、この辺にあるはずなのに。
私は、ただ平和大通りを行って帰ってきだけなんだから、道を間違うはずがない。でも、周りの人に聞いても、同じ返事しかなかった。
そこで、京橋川の横の田中町なんですけどと言うと、たしかにここらしい。どうしちゃったんだろう。
ドクン、ドクン
私の鼓動は高まっていった。
もう、帰れないんじゃないかと焦ってしまい、私は、夜2時を過ぎたころも、その辺を走りながら彷徨っていた。どうしよう。もう疲れて歩けない。
その頃になると、周りの人たちはだんだん少なくなってきて、街灯も消え始めていた。そして、周りの暖かい雰囲気も消えていき、私1人だけになっていた。
私は、音もなく、薄っすらと月の光だけが照らす平和大通りにある緑地のベンチに、疲れ果てて座っていた。
もしかしたら、みんなと一緒に太田川の方に行けばよかったのかしら。でも、もう動けない。そして、多分、もう遅い。だって、周りにはもう誰もいないもの。
そして、朝5時ごろ、周りが少しづつ明るくなると、私の体は少しづつ、影が薄くなっていくのに気づいた。嫌、私は消えたくない。まだ、楽しい人生が残っているはずなのに。
その30分後、私の部屋では、1つのキャリーバックが寂しく玄関に置かれたまま、窓から朝日が照らし始めた。
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