【23】ヴィオラーノの休日⑤ ヴィオラーノ国の第一王子
ヴィオラーノ芸術祭の二日目の午前に投票結果の集計が終わる。
発表は、この国特有の職務である美術大臣が行う。
大量に雇われた風魔法使いが国中にそのボイスを届けるので、どこにいても結果はわかる。
「まあ、結果はわかっているけれどもね」
カンデラリアが朝食のパンを口に運びながら言った。
「国王様ですよねぇ。……そういえば、第一王子殿下は出展されてないのですね。」
エステルが言った。
「あら……そういえばそうね。……あら? この国の王子様って……どんな方だったかしら」
「えーっと、確か……。私達より少し上の年齡だった、かな? あまり情報がありませんね、そういえば」
「ん……? そういえば、オレもわからない。隣国とはいえ、王子殿下の情報なら親に叩き込まれたはずだが」
3人で頭をひねったところ、一つの結論に至った。
「これは……かなり高度に広範囲な認識阻害の魔法がかかっているな」
「そんな気がするわね。なるほど、私達もたまに使いますけどもね」
「わあー。日常的にそんな魔法が入り込んでいるなんて、なんだかちょっと怖いです! 私なんて、魔力がほとんどないし、魔法抵抗力も弱いのでそんなの、簡単にかかっちゃいます!」
エステルが頭を抱えた。
「まあ、王族を守るための魔法というのは特別ですからね……。ほら、エステル、私達だって認識阻害にかかっているようだから、みんないっしょよ。大丈夫、大丈夫」
「は、はいー」
しかし、その認識阻害の魔法は本日で消滅することになる。
******
夕刻。
「お、お嬢様!! 王宮の馬車が我邸に!! 第一王子がご訪問です!!」
別邸の執事が、準備を終えて出発時刻までくつろいでいるサロンへ飛び込んできた。
「なんですって……どういうことなの!? ちょっと急いで別の応接室にお茶を――」
「それがその! もうこちらに――」
その時、執事の後ろから声がした。
「やあ、こんばんは。みんな」
「ふぁえあ!?」
エステルが、軽く悲鳴をあげた。
「――はい?」
カンデラリアが固まった。
「……部長じゃないですか」
ルイスが答えを言った。
いつもの丸メガネをかけていない、アートが部屋へ入ってきた。
「なんですって……、あなた、第一王子殿下でしたの!? ……そういえばアダルベルト……アダルベルト王子殿下……! これは……やはり認識阻害にかかってましたの、私達!!」
全員の脳裏に、アダルベルト王子殿下の一般常識情報が蘇る。
「そうそう。認識阻害魔法のアイテムを持ち歩いていたから、君たちはじめ、学院の関係者はみんな僕のことがボンヤリしていたと思う。ごめんね」
サラサラした薄い若草色の長髪を一つにまとめて前に流し、メガネをかけてない顔はとても美しい。
文句なしの美少年である。
「さて。迎えにあがりましたよ。参りましょうか、カンデラリア? そしてルイスにエステル」
そしてエスコートの手をカンデラリアに伸ばす。
「ありがとうございます。さすがにビックリしましたわ」
カンデラリアは、その手をとって馬車へと歩いていく。
歩きながらカンデラリアがアートを質問攻めしている。
そんなカンデラリアを実に楽しそうにアートは眺めている。
その様子に唖然としたルイスとエステルだった。
「……思わず立ち尽くしてしまったが、オレ達も行こう、エステル」
ルイスは微笑んで、エステルに手を差し出した。
「ああ~…確かに。ボーっとしてしまいました! はい、ルイス先輩、行きましょう!」
エステルがニッコリ笑って、ルイスの手をとった。
あとで聞いた話だが、アートは安全な留学生活を送るために、丸メガネに強い認識阻害魔法をかけさせていたそうだ。
その効果は学院全体と彼の行動範囲にあったらしく、クラスメイトや美術部員などはとくに強くその効果にあてられていたらしく、アートという学生だけではなく、アダルベルト王子という人物の記憶までぼやかしていたらしい。
「カミングアウトの理由はいくつかある、でもその一つはね」
ルイス達と仲良くなった為、本当の自分のことも知ってもらいたくなった、と彼(アート)は後日言うのである。
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